第七十八話 聖女、様?
「教会に、奴隷商人と繋がっている奴がいるって噂を聞いたんだけど、アマネ、あなた何か知らないかしら?」
俺たちは食堂に移動していた。
そこで聖女様が淹れてくれたお茶を飲みながら話をすることにしたのだ。
ちなみに、プルとフラウは外で孤児たちと、俺たちが持ってきたお菓子をパクついている。
「…………」
聖女様は悲しそうな表情を見せた。
「真偽は定かではないけど、その可能性が高いのは事実よ。
私たちも調べてはいるけど、なかなか尻尾を掴めないのよ」
「その言い方だと、奴隷にされている者は確かにいるってことか?」
俺の指摘に、聖女様はさらに顔を険しくする。
「ええ。
おそらくは、としか言えませんが。
ここのように、教会への移動を拒否した孤児たちなどが、たびたび行方不明になることがあるのです」
そのために、聖女様は定期的にこういった所を回っているのか。
「アマネはそのために私財を投入して、ギルドにこういう所を見回るように依頼を出してるのよ。
それでも、24時間ずっと見張っていられるわけじゃないから、いつの間にか、孤児たちがいなくなってることもあるのよ。
私もちょいちょい顔を出すようにはしてるけど、それでもやっぱり限界があるわ。
だから、アマネは教会の保護下に入ろうとしない人々に声をかけて回ってるのよ」
「ミツキには本当に感謝してるわ。
ギルドからの依頼としてではなく、個人的に、無償で見回りをしてくれてるもの」
「友達からお金をもらうわけにはいかないわよ。
それに、困ってる友達を助けるのは当然でしょ!」
2人はそう言って、照れくさそうに笑いあっていた。
「なるほど。
見回るのに手一杯で、肝心の調査まで手が回らないって所か」
「はい、恥ずかしながら」
聖女様はそう言って俯いてしまった。
「つまり、俺たちがその元凶とやらを調べて排除すればいいわけだな」
「えっ?」
俺の言葉に、聖女様はきょとんとした表情で顔を上げた。
「し、しかし、皆様にもやることがおありでしょう?
そんな、ご迷惑をお掛けするわけには……」
「問題ない。
これは俺たちの問題の解決にも繋がるからな。
それに、ミツキの友人が困っているのを見過ごすわけにはいかないだろう?」
「影人様……」
「さっすが!
影人ならそういうと思ったわ!」
「いたっ!」
ミツキが嬉しそうに立ち上がって、俺の背中をバチン!と叩いた。
「よっし!
そうと決まれば、プルたちにも話してくるわね!」
ミツキはそう言って、フラウたちがいる外の芝生に駆け出していった。
「……ありがとう、ございます」
聖女様は目頭を熱くしながら頭を深々と下げていた。
「……今まであなたがあの子たちのために頑張っていたことを無駄にはしないように、もう少しだけ頑張りましょう」
外を見ると、ミツキが皆と一緒に駆け回っていた。
どうやら、遊びに誘われて、そのまま夢中になっているようだ。
「やれやれ。
仕方ない。
とりあえず皆のメシでも作るか。
聖女様。
手伝っていただいてもいいですか?」
俺が溜め息を漏らしながら聖女様の方を向くと、聖女様はポーッとした顔でこちらを眺めていた。
「聖女様?
どうしました、ボーッとしてますが」
「あ!いえ!
な、なんでもないよ!です!
料理でしたね!
もちろんお手伝いしますよー!」
聖女様は焦ったように立ち上がると、調理場へと駆けていってしまった。
「やれやれ。
みんな慌ただしいな」
俺はその様子に溜め息を吐きながら、聖女様についていった。