第七十五話 教会とか聖女様とか好きなのよ
翌日、俺たちはボルクスまで戻った。
昨日のうちに念話でゴリアテには話を通しておいたから、ギルドに行くと、すぐに執務室に通された。
「おつかれ~」
お疲れなのは完全にゴリアテの方だろうとでも言いたくなる様子で、彼……彼女は俺たちを出迎えた。
「まったく、急に言うんじゃないわよ。
おかげで、まーた徹夜しちゃったじゃない」
うわめしそうに語るゴリアテの目には、たしかにものすごい隈が広がっていた。
それでも徹夜で調べてくれるのだから、本当に良い人なんだと思う。
「すまない、助かるよ。
それで、何か分かったのか?」
俺が恭しく頭を下げると、ゴリアテはゆるゆると書類を持ち上げた。
「そうねえ。
私の【言の葉の紙片】でも、あんまりたいしたことは見通せなかったわ。
やっぱり王様だし、ガードがとてつもなく堅いのよ」
ゴリアテは次々と書類をめくっていく。
どうやら、スキルを使って得た情報をメモしているようだ。
「すごく断片的だけど、やっぱり王様はフラウちゃんのお姉さんのことを何か知ってるみたいね」
「えっ?」
ゴリアテの言葉に、フラウが驚きの表情を見せる。
「やはり、情報を隠していたのか」
「んー、これは隠してたって言うより、言うに値しないと判断したって所かしら。
ちゃんと調べはしたけど、わざわざ報告して惑わせるような情報なら言わなくていいと思ったって所かな」
なるほど。
「うん。
王様は別に悪意があるわけじゃなさそうよ」
「そうか、それなら良かった」
「でも、あんまり手掛かりにはならなかったわね」
ミツキが困った顔を見せた。
「ちなみに、その報告するほどでもないと判断された情報っていうのは何だったんだ?」
俺は念のために確認してみた。
少しでもフラウの姉の行方を探す情報があれば。
「んーとねえ。
バルタス村の住人には単種の特別なスキルが宿ることがあるって言われてて、」
ゴリアテがそう言うと、フラウがびくっと反応する。
フラウの姉は予言のスキルを持っていて、それをゲルス子爵に狙われて、連れていかれたのだ。
「それこそ、かつては神託レベルの力を発揮するスキルも見つかったらしくて、神託ってとこから、教会との繋がりがあるんじゃないかと考えたみたいね」
「教会?
この世界にはそんなものもあるのか。
一神教なのか?」
信仰対象は、もしかして、あのパンダか?
「そっか。
影人ちゃんは転生者なのね。
もちろんあるわよ。
この世界はアカシャ様っていう創造神が実際に存在するわけだし、その名の通り、アカシャ教っていう、アカシャ様を唯一神として信仰するものよ。
基本的に、この世界の人はアカシャ教を信仰してるわ。
まれにご神託を下されたり、奇跡を頂くこともあるしね」
「そうなのか」
あのパンダ、わりとちゃんと仕事してるんだな。
「そう。
それで、かつて神託の巫女と呼ばれた予知スキルの持ち主は、光の巫女とも呼ばれ、教会では崇められていたらしいわ」
「……光の巫女」
「フラウ、知ってるのか?」
フラウが何かを思い出すようにぽつりと呟いていた。
「あ、えと、私が前にあの仮面の人に捕まってた時に、光の巫女がって話をしているのを聞いたことがあって」
「仮面の男か……」
屋敷での出来事はあとから聞いている。
「……無関係ではなさそうだな」
「そうね」
俺の呟きにミツキも同意する。
「教会は一部にきな臭い奴らもいるって噂を聞くわ」
「そうなのか」
「ええ、基本的には弱者救済を教義に、困っている人を救う活動が主だけど、なかには、奴隷商人と繋がっている奴もいて、孤児院の孤児たちを売ってるんじゃないかって噂があるわ。
ま、あくまで噂だけど」
「……なるほどな」
噂を鵜呑みにするわけにはいかないが、調べてみる価値はありそうだ。
「よし、教会を調べてみるか」
「それなら、マリアルクスの教会が良いわね。
総本部もあるし、力になってくれるかもしれない人もいるわ」
ミツキが顎に手を当てて考えながら話す。
「その人は、信用できるのか?」
「ええ、問題ないわ。
私の友達だし、それなりにすごい人よ」
ミツキがそう断言するのだから、まあ信用できるのだろう。
「どんな人なんだ?」
「絢爛の業火、紅蓮の聖女様よ!」
…………あんまり信用できなそうな2つ名なんですが。