第七十一話 無垢なる光
「大切な人を守る……」
フラウは仮面の男のその言葉を聞いて、影人に言われたことを思い出した。
『フラウがもしも、大切な皆に傷付いてほしくないと願うなら、皆を守れるだけ強くなればいい。
もし、人を殺したくないのなら、殺さなくても勝てるぐらい、強くなればいい。
もちろん、俺の大切な人には、フラウも入ってる。
フラウが強くなれるように、俺もフラウを守る。
だから、フラウも俺を守ってほしい』
「……そうだ。
無理に殺さなくてもいいんだ。
でも、大切な人を守るためには、強くならなきゃいけない。
守りたいなら、強くならなきゃ。
強くなって、皆を、ご主人様を守るです。
私はあの日、ご主人様にそう決意表明したのです!」
フラウの左手に輝く光に差した闇が消えていく。
「は?
な、なにを言っているのです!
邪魔をするやつは殺さないと、いつまでも終わりませんよ!」
仮面の男は取り乱した様子を見せた。
ここにきて、初めて想定外のことが起きたようだ。
「私はもう騙されません!
逃げません!
惑わされませんです!
皆を守るために、強くなるです!
強くなって、皆を守るです!」
左手の光は、直視するのが憚られるほどに輝きを増している。
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「いいかい?フラウさん?」
「なんですか?リードさん?」
「【錬成】のスキルには、伝説と言われる錬成物が存在するんだ」
「伝説、ですか?」
「そう。
かつて、邪悪な力を持った闇の帝王を浄化し、消し去ったと言われる、最強の剣だ」
「そんなのがあるですか?」
「ああ。
でも、それを錬成できた人はいない。
歴史上の、空想上の話なんじゃないかとも言われてる。
でも、それがあれば、すべての魔を打ち払うことが出来るって言われてるんだ。
まあ、頭の片隅にでも覚えといてよ」
「はあ……」
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「ま、まだ間に合います!
その力は、あなたの邪魔者を殺すための力なんですよ!」
仮面の男はひどく動揺しているようだった。
「今なら分かるです。
これは浄化の力。
すべての邪悪を打ち払う力。
もし、あなたがすべて邪悪なら、あなたは死んでしまうかもしれない。
でも、そうじゃないなら、あなたを救ってあげられるかもしれないです。
私は、それを信じるです。
この力であなたを倒して、皆を守るです!」
輝きは最高潮に達している。
その光には、もはや一片の曇りも見られなかった。
「ま、待ちなさい!
それをその状態で完成させたら、こちらの計画がっ!」
「あああああーーーーーっ!!!」
【錬成(聖剣)】!!!
「ぎゃああああーーーーっ!!!」
フラウの左手から放たれたそれは、剣というより、巨大な光の奔流だった。
その光は仮面の男ごと、その先にあった屋敷を一瞬ですべて消し去り、空にまで届いた。
「な、なんだあれはっ!?」
「目標地点からのものです!」
「い、急ぐぞっ!」
途中で合流した<ワコク>とボルクスの増援部隊が、空に向かう凄まじい光の奔流に驚きの声を上げた。
「な、なによ、これ」
フラウの光によって結界ごとすべてを消し飛ばされ、何もなくなった空間を、ミツキは呆然と見つめていた。
「あいつは、消滅した。
魔力の欠片もない」
手を翳して周囲を探索していたプルがそう呟く。
「フラウっ!」
フラウがパタッとその場に倒れ、ミツキは慌てて駆け寄った。
ミツキが心配そうに顔を覗き込むと、フラウはスースーと寝息を立てていて、ミツキはほうと胸を撫で下ろした。
「フラウはここにいるのか?」
地下に降りた俺は、目の前の鋼鉄の扉を押し開けた。
ギィという音を立てて、ゆっくりと扉が開いていく。
フラウは怖がってないだろうか。
ひどい目にあってはいないだろうか。
泣いたりしていないだろうか。
そんな心配を胸に、扉の先の部屋に足を踏み入れる。
【暗視】のおかげで、真っ暗な中でもはっきりと部屋の中が見える。
「…………はっ?」
そこには、隅っこで震える裸の子供たちと、それに群がろうとする、裸の大人たちがいた。
一瞬、その光景を受け入れられなかった。
そして、その一瞬あと、震える子供たちに、フラウの影が重なった。
「…………」
俺はそこで、無意識に黒影刀を引き抜いていた。
そこから先のことは、覚えていない。