第七話 ようやく主人公の回
樹高50メートルを軽く越えるほどの木々が林立する樹海。
地面はその根で大きくうねり、人が歩くのをさらに困難にさせる。
その中心地。
人々から神樹と呼ばれる(あとから知ったことだが)、一際大きな一本の大樹。
天まで届きそうなほどに巨大な樹。
その根が伸びた先に俺はいた。
「よし。
これでスキルの確認は一通りできたな」
万有スキル『百万長者』のサポートシステムのおかげで、俺は膨大な数のスキルをほぼ把握することができていた。
質問を重ねて新たに分かったことがいくつかある。
まずは、スキルは現状100万個はなく、これは上限だということ。
実際のスキル数は99万個なこと。
そして、自力で取得したスキルを『百万長者』内に取り込むことができること。
さらには、『百万長者』内のスキルは統廃合が可能なことだ。
つまり、スキルが増える可能性があるから、上限いっぱいにはスキルがない、ということらしい。
俺的には、パンダのネタ切れを疑いたくなったが………
そして最後の、スキルの統廃合というのが、かなり有能なシステムだった。
つまりは、異なる複数のスキルを統合して、1つのスキルにすることができるのだ。
例えば、【槍投げの名手】に【不可避】のスキルを統合すれば、リアルグングニルができるし、【錬成】に【増殖】を統合すれば、錬成した矢を増殖して、尽きることのない矢ができる。
しかもこのシステムがあれば、俺が懸念していた、戦術の幅の縮小という問題は心配がまったくなくなる。
それどころか使い方次第で、いかようにも幅を広げられる。
初めはいらないと言ったスキルだったが、これは思わぬ掘り出し物だった。
『パン神とか言って悪かったな。
意外と気が利くやつだったのか』
俺の中でのパンダの評価が改まった。
「よし。
じゃあ、さっそくスキルとやらを試していこう!」
そう言って、俺は意気揚々と手のひらを前に突き出した。
『この、【冰矢】ってやつを発動してくれ!』
俺はサポートシステムに、選んだスキルを発動するよう頭の中で呼び掛けた。
このスキルは、《フリージアランス》という氷の槍を撃ち出す魔法を発動するスキルで、魔法として放つよりも速射性と連射性に優れているそうだ。
代償としては、他の氷魔法を使えなくなるというものだが、スキルを出し入れできる俺には関係ない話だった。
『あ、『百万長者』内のスキルは自身では使えませんよ』
『はっ?』
『ですから、万有スキル『百万長者』は、他者に貸し与え、使ってもらうことで、初めて使用可能となるスキルです』
『…………聞いていないんだが』
『そうでしたか。
本来、神が設定したスキルを渡す際は、神からそのスキルのすべてを説明するはずなのですが………』
『そうか、分かった。
あんたは悪くないから気にするな。
だが、少し1人にしてくれ』
『かしこまりました。
スリープモードに入りますので、ご用の際はお呼びください』
『ああ………』
パン神に期待した俺が馬鹿だった。
『!!』
「くそっ。こんな時に」
膝を抱えていた俺はこの場所に近付いてくる気配に気が付いて立ち上がった。
全部で4ヶ所。
東西南北それぞれの方向から、この大樹を目指して、何人もの気配が集まってきていた。
『………スピードでは東が一番速いか。
南はそこまで速くはないが、統率のとれた確実な進行。
西は文字通り神樹に向かって真っ直ぐ走ってきてるな。速度自体は遅い。
北は、これは迷ってるのか?』
俺はそれぞれの気配の進行状況を詳しく分析していった。
だが、なぜかここに一斉に向かってきている。
偶然なのか?
どんな理由にせよ、まだ何者かと接触するのは避けたかった。
この世界の実状を把握する前に、利害関係にまみれた説明を受けて先入観を持ちたくなかったからだ。
できることなら、市井に紛れて情報を収集し、さまざまな種族の因果関係も把握した上で、身の振り方を考えたかったのだが。
「これは、無理かな」
それぞれの方向からの進行具合を鑑みても、どことも接触することなく、この森を抜けることは不可能だろう。
それならば、
「どこが一番ましかな」
おそらくこの選択が、今後の俺の行く末を大きく左右するだろう。
そう思って、それぞれから向かってくる気配をさらに深く探ることにした。
「こっちだな」
俺はそう呟いて選んだ方向へと、気配を消しながら静かに、それでも全力で駆け出した。