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第六十一話 くらえ!俺のデコピンムーブメント!!

「では、お気を付けて」


<マリアルクス>と<アーキュリア>の国境門を通り、俺たちは<アーキュリア>国内へと足を踏み入れた。

国境門を通る際、衛兵にくれぐれも気を付けるようにと念を押された。

冒険者として実績のあるミツキがいなければ、<アーキュリア>には入ることさえ出来なかったらしい。

それほど、今の<アーキュリア>は危険な所ということだ。


「なかなか自然豊かねえ」


門を出た先に広がる緑豊かな光景に、ミツキが風を感じている。

ハーフアップにしている栗色の髪が、爽やかな風になびく。

<アーキュリア>はもともと自然との調和を基調とした国らしく、主要な都市以外は舗装された街道があるぐらいで、基本は森と山と草原で構成されている。


「まずはどこに行くんでしたっけ?」


「まずは、<マリアルクス>から一番近くにある、主要都市ダラスがあった所だな」


フラウのいたバルタス村はかなり辺境の地にあるため、いくつかの都市を経由して行かなければならなかった。

ダラスには簡易的なギルドの拠点が築かれているらしく、俺たちはまずそこで、直接情報収集を試みることにしたのだ。


「あ、影人。

魔獣。

3体」


「やれやれ、さっそくか」


プルには感知結界魔法を張ってもらっている。

どうやら、俺たちに近付いてくる魔獣がいるようだ。


「どれぐらいの強さか分かるか?」


「ん、と。

レベル40ってとこ。

神樹の森で出てくる魔獣で一番強いのと同じぐらい」


なかなか高レベルだな。

神樹の森は国の軍隊が訓練で使うような所だ。

それはつまり、部隊で戦うだけの力を持った魔獣がいるってことだ。

そんな部隊レベルの魔獣が3体も向かってきているって言うのか。

<マリアルクス>の国境門の近くで、ギルドの拠点への街道上だというのに。

これが、今の<アーキュリア>か。


「…………」


「影人?」


しばらく黙っていると、ミツキがこちらを覗き込んできた。


「……フラウ。

いけるか?」


「ふえっ!?

私ですかっ!?」


フラウは驚いた様子だった。


「おそらく、今までの経験やスキルからしても

、フラウ一人でいけると思う。

無理にとは言わないが、やってみないか?」


「あう……」


そう言うと、フラウは黙ってしまった。

まだ早かっただろうか。


「フラウ。

不安ならいいんだ。

もう少ししてからに……」


「やります!」


「……いいのか?

失敗すれば、死ぬんだぞ?」


フラウがきっぱりと言い放ったので、俺は一応

、聞き返してみた。


「私は強くなるです!」


それからは、他に同じようなことを問いかけても、その一点張りだった。


「わかった。

頑張れ!」


「はい!」


俺が拳を向けると、フラウもそれに拳を合わせた。






「フラウ。

南西方向。

距離300。

到達まで30秒、かな」


「ありがとうございます!」


プルの報告に、フラウは魔獣の方を向いたままで返事をした。


「フラウ。

スキルを出し惜しみするな。

それと、迎え撃とうとしない方がいい。

相手も速い。

常に動いて、捕まらないように気を付けるんだ」


「はい!」


俺がそう言うと、フラウは敵に向けて走り出した。


「……ミツキ、プル。

本当に危ない時は割って入る。

そのつもりでいてくれ」


「ほーい」


「わかってるわよ。

過保護ねえ」


2人はすでに武器を用意していた。

過保護はどっちだよ。


森がガサガサと大きく揺れる。

フラウは森の入口までまだ少し距離がある。

ドッ!と枝葉を吹き飛ばしながら現れたのは、巨大な狼だ。

かなり大きい。

3メートルはありそうだ。


狼たちはフラウを視認すると、バラけ始めた。

1体は正面から突っ込んできて、他の2体は左右から挟み込むように、フラウの元に駆ける。

群れとしての連携がとれている。

フラウは一瞬だけ左右の狼を気にしたが、スピードを上げて、構わず正面の狼に突っ込んだ。


「ギャウッ!?」


【韋駄天】を発動したフラウのスピードに、狼たちは動揺した。

【韋駄天】は一歩の加速力を大幅に上昇させる。

踏み出すと方向転換できないという弱点があるが、その分、他の速度強化スキルよりも加速力が高い。

回り込む狼なんて到底間に合わず、フラウは正面の狼に肉薄した。



ひゅっ



フラウはすれ違うように、狼の首を左手に持つ長い方の短剣で薙いだ。

狼は反撃の余地すらなく、首から血を流して、その場に倒れる。

フラウはそれに構わず、ぱっと振り向いて、左の狼に向かった。

狼は自分に向けられた矛先に警戒していたが、【韋駄天】によって後ろに回り込んだフラウを見失っていた。

フラウは接地すると、すぐに飛び上がり、狼の背に乗るように、両方の剣を狼の背中に突き刺した。


「ギャンッ!」


「……浅いな」


「きゃっ!」


刺された狼は大きく身動ぎして、フラウを振り落とす。

フラウは何とか着地したが、動きが止まってしまった。

そこに、もう1体の狼が追い付き、刺された方もフラウに向き直った。

走ってきた方は勢いそのままに、大きく口を開ける。

向き直った狼は、その巨大な爪を振り上げ、容赦なくフラウに振り下ろした。


ダメか。


俺が止めに入ろうとすると、


「まだ」


プルに杖で遮られてしまった。


焦ってフラウの方を見ると、フラウはやって来る凶牙を落ち着いて見据えていた。

そして、巨大な牙と爪がフラウを引き裂こうとした瞬間、フラウは爪を振りかぶる狼の足元に滑り込んだ。

狼たちの攻撃はそのまま空を切る。

狼の腹の下に滑り込んだフラウは、両方の剣を狼の心臓の位置に打ち込み、今度こそ止めを差した。

そして、倒れ来る狼に潰されないように、さっとその下から抜け、体勢をすぐに立て直す。


仲間が倒され、最後の1体はフラウを警戒して、互いにじりじりと向き合う。


フラウと狼はカッと目を見開いた瞬間、お互いに距離を詰めた。


狼は大口を開けてフラウに突っ込む。

フラウもそれに対し、両剣を前に突き出して突っ込んだ。

フラウは狼に噛まれる前に止めを差すつもりか。

危険な賭けだな。


両者が近付く。


が、狼は急にぐりっと身をよじった。


「えっ!?」


フラウが驚いている間に、狼はフラウの横っ腹に牙を向けた。


これは止めるべきかと思ったが、フラウの目は冷静にそれを見ていた。

フラウはそれを【韋駄天】によるバックステップで避け、右手の短剣を狼に向けて投げ、それと同時に再び狼に突っ込んだ。

狼はフラウが消えたことに驚き、飛んでくる短剣に気付くのが少しだけ遅れ、避けきれずに右の前足に剣が突き刺さる。

狼はそれに怯んだが、フラウが向かってきていることに気付くと、すぐに迎撃の体勢をとった。

が、フラウは左手に持った短剣までも投擲してきた。

さっきよりも長い剣。

まともにくらえば致命傷になるかもしれない。

本能的にそれを察知した狼は、飛んできた短剣を左の前足で弾いた。

その一瞬の隙に、フラウを見失う。


そして、狼の頭上に飛んだフラウは、手のひらに魔力を集中させた。



「【錬成[短剣]】!!」



フラウは左手に、先ほど投げたものと同じ長さの短剣を出現させ、狼の脳天に思い切り突き刺した。

狼は、叫び声を上げる暇もなく絶命し、その場に崩れ落ちた。


フラウは息を荒げながら、持っていた短剣を消し、投げた剣を回収して血を振り拭った。




「やったー!

やりましたよー!

ご主人様ー!

見てましたかー!」


そうして、フラウは楽しそうにぴょんぴょんしながら、こちらに帰ってきた。


「すごかったな!

いつの間に【錬成】のスキルを使えるようになってたんだ!」


「えへへー。

実は、リードさんにいろいろ教えてもらったんですー。

それで、夜にこっそりと練習してて」


「そうなのか。

頑張ったな!」


頭を撫でてやると、フラウは照れくさそうにしていた。

まだまだな所もあるが、今はとりあえず褒めておこう。


「親バカ」


フラウさん。

何か言いましたか?



ワオォォォーーーン!



そんなやり取りをしていると、遠くから狼の遠吠えが聞こえた。


「あー、まあ、そうよねー」


「群れで行動する狼が、3体しかいないわけないよな。

あいつらは偵察だったか」


「うん。

全部で20体。

ボスもいる」


俺たちは揃って嫌な顔をしていた。


「ご、ご主人様~」


フラウが泣きそうな顔をしていた。


「フラウは休んでなさい。

あとは俺たちに任せておけ」


フラウにそう言うと、ミツキとプルとともに前に出た。


「来たわよ」


ミツキが言うと、森から先ほどと同じぐらいの狼が大量に出てきた。

全員が怒ったように牙を剥き出しにして向かってくる。

仲間を殺されたのだから当然かもしれないが、先に向かってきたのはそっちだからな。

と、栓のないことを考えたりしてみた。


「まずは数を減らしちゃうねー」


ミツキはそう言うと、持っていた真っ赤な弓を構えた。


【終わらない狩人】


ミツキが弓を引くと、5本の矢がそこに出現した。


「風魔法付与。

ホーミング。

貫通力強化」


ミツキはそう呟きながら、ギリリと弓を引き絞る。

矢にブン!と魔力が纏うと、ミツキはそれを離す。

放たれた矢は弧を描きながら、吸い込まれるように狼の眉間を穿った。

額を貫かれた狼はその場に崩れ落ちる。


「もいっちょ!」


ミツキは続けて、再び5本の矢を召喚し、さらに5体の狼を倒した。


「おおー。

これ、ミツキだけでいけるんじゃないか?」


「ちょっと!

サボらないでよ!」


「やれやれ、仕方ないな」


ミツキに言われて、俺は地面に落ちていた小石を8個ほど拾って、左の手のひらにのせた。

右手の4本の指を親指にかけて、ぐぐっと力を込める。

指弾という技だ。

そして、密かに獲得していた【デコピンマスター】のスキルをアクティベートする。


『百万長者』内にこのスキルがあるのを見た時から、密かにスキル獲得のために修練を積んでいたのだ。

夜な夜な一人でデコピンの素振りをしている姿があまりにシュールだったため、皆には内緒だ。


さらに、左手を通して、8個全ての小石に風魔法と火魔法を付与していく。

俺はまだ、ミツキのように1つの属性に複数の命令式を組み込めないので、風魔法で追跡力を、火魔法で威力を高めていく。

魔力を通すと、ブワッと、小石に炎と風が纏う。


そして、溜め込んだ力を一気に解き放つように指を弾く。

びんっ!という音ともに、4発の弾丸が飛ぶ。

さらに続けざまに、残りの4発も同じように弾いた。

放たれた凶弾は向かってくる狼の心臓に迷いなく突き刺さり、貫通した。

それを見て警戒した後続の4体は身をよじってかわそうとしたが、風魔法によって軌道を変えた弾丸は、吸い込まれるように狼たちの急所を貫いた。



残った2体はあっという間に倒された仲間の様子に、すっかり及び腰になっていた。

すると、森の奥からつんざくような咆哮が響く。

ズウゥンッ!という足音が、振動とともに、こちらまで響いてくる。

群れのボスのお出ましだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、フラウさんすごく成長しています。
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