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第五十六話 武器屋って、こんなイメージ

「この子に合う、長さの違う短剣を1組欲しいんだが」


俺とフラウは武器屋に着いて、カウンターの向こうに腰掛けて作業をしていた店主に話し掛けた。


「ああん?」


「ひっ……」


店主は作業の手を止め、つけていたゴーグルを外してこちらを睨んだ。

フラウが思わず俺の後ろに隠れる。

店主は、見たまんまのドワーフだ。

小柄でありながらガタイは良く、モジャモジャな髪と髭で覆われた顔から覗く眼光は鋭い。

槌を振るうために鍛えられた肉体は、腕だけがやたらと太く見えた。


「そんな嬢ちゃんに刃物を持たせんのか?」


ドワーフの店主はジロリと俺を睨み付ける。


「彼女は冒険者であり、覚悟を決めた立派な戦士だ。

問題あるのか?」


「あんたはそれでいいのか?」


「俺が守る。

そして、彼女も俺を守る。

そのために必要だ」


「はっ!」


「…………」


「…………」


しばらくの沈黙のあと、店主は立ち上がって奥に引っ込んだ。


「ご主人様……」


「大丈夫だ」


フラウが不安そうに俺の顔を見上げてくるので、俺は店主の消えた先を見ながらそう答える。

しばらくすると店主が戻ってきて、カウンターにどん!と布にくるまれたものを置いた。


「これは俺がずいぶん前に拵えたもんだが、長短二刀短剣なんて扱う奴がいなくてな。

倉庫の錆びになってたもんなんだが」


店主が布を取り去ると、まさに俺がイメージしていた一組の短剣がそこにあった。


「抜いてもいいか?」


「ああ」


俺は店主の許可を得て、フラウに向き合う。


「フラウ。

抜いてごらん」


「は、はい」


フラウに促すと、俺の背中から出てきて、カウンターの上の剣に手を伸ばした。


「嬢ちゃん。

手を見せてみな」


「え!?

は、はい!」


急に店主に声をかけられて、フラウはびくっとしていたが、おずおずと手を差し出した。

店主はその手をまじまじと見つめている。


「ずいぶん短期間で仕立てられたんだな」


店主は苦笑しながら、フラウの手に触れていく。

すぐにそこまで分かるとは、なかなか良い刀匠に当たったみたいだ。


「うむ。

こいつなら、嬢ちゃんの手に馴染むだろう。

持ってみな」


店主はそう言って、剣をフラウに渡した。

フラウは二刀を鞘ごと腰に下げ、ゆっくりと引き抜いた。

左手の剣は40cmほど。

右手の剣は20cmといった所か。

どちらも綺麗に磨かれている。


「倉庫の錆びというわりには、よく手入れされている」


「ふん」


自らの打った剣に対する畏敬の念が感じられる。

良い剣だ。

店主は何とはなしに、気恥ずかしそうな顔をしていた。


「どうだ?

フラウ」


俺は剣を見つめたままのフラウに声をかけた。


「なんだか、すごく持ちやすいです。

それに、すごく軽くて、今までのナイフよりも軽い気がします」


二刀短剣はもともと軽さと速さを求める刀剣術だ。

きっとそれを想定して、出来る限り軽く作ってくれたんだろう。


「軽くても、ちゃんと頑丈にしてあるから心配すんな」


「あ、はい!」


店主の言葉に、フラウは元気よく返事を返す。


「よし、これをもらおう」


「ああ、構わんが、お前ら、すぐに旅に出たいのか?」


「ん?

そうだな。

出来れば、準備が出来次第、すぐに出発したいと思ってるんだが」


「……2日くれ。

しばらくしまいっぱなしだったそいつを、完璧にしてやる」


店主はそう言って、フラウの持つ二刀を指差した。


「分かった。

待とう」


「すまないな。

代金はその時でいいからよ」


店主はフラウから剣を受け取りながら頭を下げた。


「では、2日後、また来る。

よろしく頼むよ」


「ああ……ん?

ちょ、ちょっと待て!」


俺とフラウが踵を返して、店を出ようとすると、店主が慌てて俺たちを呼び止めた。


「お、お前、その腰のもんは、まさか、黒影刀か?」


店主は信じられないとでも言うように、俺の腰に差してある刀を指差していた。


「ん?

ああ、そうだが?

<ワコク>の殿様にもらったんだ」


何やら訳知りのようだったので、俺はそれに正直に答えることにした。


「殿様か。

そうか、そんな所にあったのか」


店主は合点がいったように、何度も頷いていた。


「これが、何かあるのか?」


「いや……」


俺が尋ねると、店主は言いよどんだ。


「……すまないが、そいつを少しだけ見せてくれないか?」


「……わかった」


俺は少し悩んだが、あの剣を打った刀匠ならばと思い、鞘ごと黒影刀を抜いて、店主に渡した。

店主は震える手でそれを受け取ると、スラッと刀を抜いた。


「ふーむ」


店主は刀身をじーっと眺めながら唸ってみせた。

しばらくそのまま見つめていたが、やがてスッと鞘に刀を戻した。


「ありがとよ」


店主はそれだけ言うと、黒影刀を俺に返した。


「…………その刀は、ただのよく切れる刀じゃない」


店主は俯いたままで、ポツリと漏らした。


「その刀の真価は別の所にある。

だが、今はその力が失われているようだ。

残念ながら、俺ではそれを鍛え直すことは出来ない。

もしも、その刀の真の力が必要になることがあったら、人間の領域(ヒューマンフィールド)を出て、<アーキュリア>よりもさらに西にある、ドワーフの国。

そこにいる俺の師を訪ねるといい。

俺の名はドワルだ。

師に俺の名を伝えれば、きっと力になってくれるだろう」


ドワルはそう言って、俺の目を見つめてきた。


「わかった」


俺はそれに頷いて、黒影刀を受け取った。

そして、2日後の時間を確認してから、俺とフラウは店を出る。



真の力か。

パーティーだけでなく、俺自身の力も上げたいと思っていた所だ。

様子を見て、いずれ行ってみるとするか。



「ご主人様~」


「ん?」


俺が思考の海に沈んでいると、フラウが情けない声を出してきた。


「フラウはもう腹ペコです」


フラウはそう言って、お腹を抑えていた。

ぐぐぐ~という音が聞こえてくる。

思わずそれにくすりと笑ってしまう。


「そうだな。

そろそろメシにしようか」


「やった!!」


俺がそう提案すると、フラウはぴょんぴよん飛び跳ねた。


「どうせなら、プルたちと合流して、皆で食べに行くか」


「そうしましょー!」


フラウは拳を空に掲げて上機嫌だったが、俺は再びの爆食三姉妹を目の当たりにして、その提案をすぐに後悔することになるのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒影刀のパワーアップフラグきました!ますます強力な武器になりますね。 [一言] フラウも少しづつ成長し、たくましくなっていますね。
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