第五十五話 戦う理由
かくして、3人には新たにスキルをいくつか与えた。
フラウには、
【魔剣操作】【韋駄天】【二刀術】を、
ミツキには、
【制止の極み】【極点集中】【連弓強化】の3つを、
プルには、
【魔力徴収】を貸与した。
プルにはもう少しスキルを与えようと思ったのだが、サポートシステムさんにも、プルにも、これで十分だと言われ、渋々引き下がった。
ミツキとプルは、そのスキルを試してみると言って出掛けていき、俺はフラウの修行に付き合うために、まずは2人で武器を見に行くことにした。
「フラウには、二刀短剣を使ってもらおうと思う」
「にとーたんけん、ですか?」
<マリアルクス>の城下町を武器屋に向かいながら、フラウに武器の説明をしていく。
フラウは、魔法適性が低い代わりに、武器道具の扱いに長けているようだ。
器用さといった所か。
だからこそ、扱いが難しいが有用なものを使ってもらおうと思う。
「そうだ。
短剣を2本使う技術で、本来は同じ種類の剣を使うんだが、今回フラウには、長さの違う剣を使うようにしてほしいと思う」
「それは、普通のと違うんですか?」
「ああ。
フラウは左利きだったか。
そうしたら、左手に長めの短剣を。
右手にいま使ってるような、ナイフタイプの短剣を持つ形になる。
このスタイルは攻撃と防御のバランスが良くて、近接から超近接での戦闘も可能だ。
小柄で、手先も器用なフラウにはピッタリの装備だと言える」
「そうなんですか……」
「不安か?」
俯いたフラウに聞いてみる。
「いえ、ご主人様の言うことなら、きっとそれが私に合っているんだと思うし、それが不安ってわけではないです」
含みのある言い方だな。
「なら、何が不安なんだ?」
俺は出来るだけ優しく聞いてみた。
「えと、その武器は、やっぱり誰かを、その、殺してしまうためのもの、なんですよね」
フラウはポツリと、そう呟いた。
そういうことか。
まだフラウは幼い少女だ。
今まで、動物だって殺したことがなかった、ごく普通の少女。
それがいきなり、武器を持って戦えと言われても、そりゃあ不安にもなるか。
幼い頃から命をかけた戦いに身を置いていた俺とは違うんだ。
少し、配慮が足りなかったな。
「怖いか?」
俺はフラウの頭に手を置いて尋ねる。
「怖い、です。
でも、お姉ちゃんを探すためにも、必要なんだってことも分かってます」
フラウはズボンの裾をぎゅっと握って答える。
「お姉ちゃんを探すのは俺たちに任せて、フラウは待っていてもいいんだぞ?」
実際、ミツキはその方がいいんじゃないかと言っている。
その上で、自分が代わりに探してやるとも。
「でも、それで、ご主人様たちがケガをしてしまうのは嫌です。
それに、もし、もしも、そのせいで誰かが死んでしまったりしたら、それはもっともっと嫌です」
フラウはぎゅっと握っていた手を、さらに強く握りしめた。
そうだったな。
この子は、自分だけを残して、その村の人も、両親も、亡くしてしまっていたんだ。
たとえ、その原因が自分ではなかったとしても、自分と関わりのある人が傷付くのは、やはり嫌なんだろう。
「フラウ」
俺は地面に膝をついて、フラウを目線を合わせた。
ぎゅっと握りしめたままの小さな拳を、そっと包み込む。
「それは俺も同じだ。
俺は、俺の大切な人たちに傷付いてほしくない。
だから、俺は守るんだ。
だから、俺は皆を害そうとする奴らに、容赦はしないんだ。
そのために、強くなる。
今よりももっも強くなる。
皆を守るために。
そのためなら、俺は人も殺す。
それが、俺が力を求める理由だ」
俺はフラウの目をしっかりと見た。
自分の思いを、きちんと伝えるために。
「守る……」
「そう。
だから、フラウがもしも、大切な皆に傷付いてほしくないと願うなら、皆を守れるだけ強くなればいい。
もし、人を殺したくないのなら、殺さなくても勝てるぐらい、強くなればいい。
もちろん、俺の大切な人には、フラウも入ってる。
フラウが強くなれるように、俺もフラウを守る。
だから、フラウも俺を守ってほしい。
まあ、無理にとは言わないが」
自分で言っていて、途中で恥ずかしくなって、最後に照れが出たが、言いたいことは伝わっただろうか。
「…………」
フラウは自分の中で一生懸命に考えているようだった。
そして、バッと顔を上げた。
「強くなります!
強くなって、皆を、ご主人様を守るです!」
【決意表明】
フラウの思いは、俺にしっかりと伝わってきた。
「そうか、じゃあ、一緒に頑張ろう」
俺はフラウの頭を撫でながら微笑んだ。
「はい!」
『いつか、ご主人様の一番大切な人になれるように頑張るのです』
「ん?
何か言ったか?」
「いいえ、何でもないです!」
「そうか、じゃあ、武器を見に行くとするか!」
「はい!
あ、そのあとはご飯食べたいです!」
「そ、そうか、ほどほどにな」
「はい!
いっぱい食べるです!」
「お、おおう」