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第五十一話 マリアルクス王を待つ間に、お菓子の取り合いをする奴ら

翌日、俺たちはマリアルクス王に謁見するために王城を訪れていた。

城門は破壊されたままだった。

門はU字型に消し飛ばされ、門を留める柱だけが屹立していた。

今はぽっかりと空いたその空間を簡易的なバリケードで塞ぎ、兵士が見張っている。


「あ!草葉殿っ!」


門の所で指示を出していたリードが俺たちに気が付き、駆け足で近付いてくる。


「お待ちしてましたー。

王は時間にうるさいですからね。

早めに来ていただけて良かったです」


リードは後頭部に手を当てながら、へらへらしている。

他の者と比べると、ずいぶん気安い人物のようだ。


「王をお待たせするわけにはいきませんから。

それに、王にお会いできる喜びで、ろくに眠ることなど出来ませんでしたので」


俺は軽く微笑みながら、胸に手を当てて頭を下げた。

フラウがきょとんとした顔をしている。


「あ、オッケーです。

そういう感じでいっていただければ問題ないです」


リードは安心したように、さらに笑顔を見せた。


「なら良かった。

さっさと行こう。

疲れるからな」


「うわーお。

切り替えの早さ!」


すっと表情を落とした俺に、ミツキがわざとらしく驚いてみせた。


あ、そうだ。


「プル。

プルは敬語って使えるか?」


俺は心配になって尋ねてみる。

王様にタメ口なんて聞いたら、不敬罪で処刑されるんじゃないだろうか。


「……敬語。

美味しそうな響き」


あ、ダメだこりゃ。

プルには黙っていてもらおう。


「あ、神樹の守護者様のお弟子様なら、王に対しての態度もある程度は許容されますよ。

外見は子供ですし、王は、子供と老人にはお優しいので」


リードが俺たちを案内しながらそう言ってくれた。

それなら良かった。

神樹の守護者ってのは本当にすごいんだな。

まあ、その加護のおかげで、人間の底力も上がっているらしいし、当然なのか。


「ライズ王子はいらっしゃるんですか?」


俺はそういえばと、リードに尋ねてみた。


「あー、王子とザジはあっちこっち動いてますね。

国内外への対応もあるし、しばらくは忙しいでしょうね」


「そうですか。

<リリア>の戦線は、皆さんがいなくても?」


主戦力がいなくては大変なのではないだろうか。


「そちらは、<ワコク>から多めに兵を出していただいていますし、ギルドに依頼という形で傭兵を出してもらっているので何とかなってます。

王子が戻れるようになるまでは大丈夫でしょう」


それなら良かった。

王が城でどっしりと構えて内政を取り仕切り、王子が動く。

なかなか良い構図だ。

王子の顔を売る機会にもなる。

転んでもタダでは起きないというわけだ。


「さ、とりあえずこの部屋で待っていてください。

王の準備が整ったら、またお呼びします」


リードは俺たちを部屋に案内すると、礼をして出ていった。


あ、また美味しそうなお菓子だ。


その後はリードが再び呼びに来るまで、お菓子の争奪戦になったのは言うまでもない。








リードに呼ばれた俺たちは玉座の間まで案内された。

部屋はすっかりキレイに片付けられていて、玉座までの赤絨毯の左右に多くの兵士や大臣などの重鎮たちが軒を連ねている。

リードが先導し、俺たちがそれに続く。

王の前まで着くと、リードが跪いたので、俺たちもそれに倣う。


「王よ。

転生者、草葉影人様をお連れ致しました」


リードが頭を垂れて口上を述べる。


「うむ。

よく来た。

面を上げよ」


王に言われて、俺たちは顔を上げる。

それに伴って、リードはすっと横にはけた。

王は、やはり若い。

下手したら俺と同い年ぐらいに見受けられる。

低く渋い声だけが年相応で、やたら違和感を感じる。


「まずは名前を聞こうか」


王が自己紹介を求める。


「草葉影人と申します。

この度は王にお会いでき、まことに、光栄の極みでございます」


「ミツキと申します。

わたくしも転生者でございます」


「プル。

ルルの弟子」


「あ、フラウと申します。

えっと、影人様は私のご主人様です」


俺の後に続いてそれぞれ自己紹介をしていく。


「ふむ。

この度は助かった。

諸君らが来たことで、被害を減らすことが出来た。

この通り。

礼を言おう」


「っ!

王よっ!

たかが転生者に頭を下げるなどっ!」


王がすっと頭を下げると、周りの家臣たちが驚きの表情で止めに入る。

俺も焦ってそれを止める仕草をする。

尊大な王が一介の転生者に頭を下げるなど、通常では考えられない。

何か、狙いがあるのだろうか。

それとも、本当にそういう王なのか。


「いや、私は優秀な味方には最大の敬意を持って接する。

ましてや、諸君らは私の命を守るために来てくれた。

いま下げずして、いつ私の頭を下げようか」


王にそう言われて、騒いでいた家臣たちが押し黙った。

お前たちは私を守れなかった上に、魔王にやすやすと侵入を許したのだからなと、暗に言われているのを感じたのだろう。

だが、俺はそれとは別の意味合いも感じていた。


「いや、本当に助かった。

諸君らが私の味方である限り、私は出来る限りの礼を尽くそうではないか!」


王はそう言って、両手を広げて笑顔を見せた。


『味方である限り』、ね。

味方には優しいよってことか。


俺は王の眼をよく見てみる。

その瞳の、奥の奥に広がる世界を。

それは、ルルに負けずとも劣らない、広さと深さを持っていた。

だが、ルルとは違って、濃く、にごり、一寸先でさえ覗かせないほどの、深く暗い世界だった。

見えなくとも、その奥には深淵を感じさせる、まるで深海、さらに底を覗き込むかのような感覚。

底が知れない、という言葉が最もしっくり来る相手だ。


俺に覗かれていることに気付いているのか、王はうっすらと微笑みを浮かべている。


読めない相手は一番厄介だ。

出来ることなら、敵には回したくはない相手だな。

まあいい。

そちらがその気なら、こちらも、そちらが味方である限り、友好的にさせてもらうとしよう。



その後も当たり障りのない会話をいくつか交わし、そろそろ謁見も終わりかと言うところで、王が話を振ってきた。


「そういえば、フラウ、と言ったか。

そなたの姉の行方を探しているらしいな」


突然、王に名前を呼ばれ、フラウがびくっとする。


「ええ。

この子は魔獣によって滅びた村の出身で、その直前に領主に連れていかれた姉を見付けられないものかと思いまして」


俺はフラウの代わりに答えてやる。


「ふむ。

村の名前は分かるかな?」


王は優しく微笑みながらフラウに尋ねる。

その表情は、何の含みも感じられない、本当に慈愛を持った笑顔に見えた。


「え、と、バルタス村、です、西の」


「ほう」


フラウがかすかに聞こえるような声で言うと、王は驚いたような表情を見せた。

周りの家臣たちもざわついている。

何かあるのだろうか。


「……それは情報も集まりにくいだろう。

ならば、こちらでも調査をかけよう。

行方不明者捜索という形でギルドにも依頼を出す。

何か分かればすぐに伝えるように致そう」


王は少し考えたあと、そう告げた。


「陛下の寛大なお心、痛み入ります」


「なに。

気にせずとも良い。

此度の褒美とでも思えば良いだろう」


恭しく礼をする俺に、王ははっはっはっと笑ってみせた。


「ふむ。

話は以上だな。

もう下がって良いぞ」


王にそう言われて、俺たちは改めてお礼を申し上げて、王の御前を後にした。


この王には、恩を売っても、買わされることはないようにしたい所だ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも思うのですが、結構水面下の心理戦の描写がとてもお上手に感じます。 [一言] この王もなかなか食えない人物そうなので用心に越したことはなさそうです。
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