第五話 北の国
さらにさらに同時刻。
そこは、<北の国マリアルクス>。
北の国ではあるが気候は安定していて、薄着では少し肌寒い程度の、常に過ごしやすい地域である。
そこには、いわゆる貴族と呼ばれる人間たちが多く住まい、神樹を囲んだ4ヶ国からなる人間の領域において、位の高い者たちが集まる国となっていた。
貴族以外にも、その生活を支える者たちと、一部の高位の異種族がその国に滞在している。
特使として派遣されているエルフや、高度な鍛冶技術を有し、国に協力している一部のドワーフなどがそれに当たる。
また、マリアルクスは魔法やスキルの研究に精通し、研究所を設け、日夜その究明に励んでいる。
「ああ!
この反応は初めてですね!
やはり魔法とスキルの深淵は限りなく深い!
もっとです!
もっと新しい魔法を!新しいスキルを!
私に見せてください!」
<マリアルクスの総合研究所>
魔法とスキル、それぞれの研究所からあげられてきた報告をまとめあげ、総括する、この国の技術の粋が集う場所。
「【解析】!」
その総合研究所の所長であるマルクス・フォン・フォルトナーは、マリアルクスの最高学府に飛び級で進学し、首席で卒業。23歳という若さで所長に就任した天才である。
魔法とスキルをこよなく愛し、その謎の解明、新たな魔法・スキルの発見に心血を注ぐその姿から、天才と変態の名を恣にする男である。
端正な顔立ちに、丸メガネから覗くブルーの切れ長の瞳は、一見女性から引っ切り無しにお声が掛かりそうだが、その変態っぷりから、浮いた話は一切出てこなかった。
「ああ~。魔導具の残存魔力でこの魔力量!
やはり転生降臨した者たちの力は凄まじいですね!
王も頑固になってないで、ワコクにも協力要請なされば良いのに!
ああ!まだ見ぬ魔法にスキル!
夢は尽きませんね~」
マルクスは心酔しきった表情で、【解析】された魔法の内容に見とれていた。
「所長。
下手したら不敬罪ですよ、それ」
研究所の扉を開けて、ハーフエルフで助手のリエルが呆れたように溜め息を吐きながら入ってきた。
「おお!リエル君!
見たまえ!これを!
また新たな魔力反応だ!」
リエルの言葉には無反応に、マルクスは興奮した様子で声をあげていた。
「所長。そんなことより、王から召集ですよ」
リエルは自分の言葉が届いていないことがいつものことのように、溜め息を吐きながら話を続けた。
「神樹の森の中心から、凄まじい光と、強力な魔力反応が観測されたらしいです」
リエルのその言葉を聞いて、それまでブツブツと呟いていたマルクスはバッ!椅子から立ち上がって翻り、リエルの両肩を掴んだ。
「それを先に言ってください!
すぐに行きましょう!」
マルクスはそう言って、雲ひとつない晴天のような目でキラキラとリエルを見つめた。
「っ!
まずは王の元に行ってからです!
謁見の間に行きますよ!」
リエルは少し照れた表情を隠すようにマルクスの手を外し、踵を返した。
「ああ~!
楽しみだな~!
次はどんな力を私に見せてくれるのか~!」
研究所には所長の叫びが響き渡り、研究員たちはまたかという表情を浮かべていた。