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第四十九話 魔王

『意外と手強いのね』


「ふっ。

単身乗り込んできたことは褒めてやろう。

だが、私を殺すことはできない、決してな」


『そう。

でも、それならそれで、やりようはあるというもの』


「くっ……」








ヴヴゥンッ!!



神樹の守護者であるルルの強力な魔力を受けたプルの転移魔法によって、俺たちはマリアルクス城に一瞬で転移した。




ズッ……




「ぐっ。

なんだ、これはっ」


転移した瞬間、全身に絡み付いて、蝕まれるような感覚を覚える。


これは、殺気?

いや、憎悪か。

この場を、いや、この世界全てを憎むような、圧倒的な憎悪。


全員が感じているのだろう。

みな、地面に膝をつき、汗が頬を伝っている。


そして、その発生源が目の前にいる存在なのだと、否が応にも理解させられる。

直視することさえ憚れる存在感。

世界全てに向けられるその憎しみを、一欠片たりとも自分に向けられたくない。

そう感じさせられる。

相対する者を自然と屈服させ、跪かせる、圧倒的な力と恐怖。

あれがそれなのだと、すぐに理解した。


これが、魔王。


俺は何とか目線だけを上に向けて、魔王の姿を視界に納める。


全身を被うマントに角のついた仮面で、その容貌を窺い知ることは出来ないが、意外と小さい。

ミツキと同じぐらいか。

だが、その圧倒的な存在感は、魔王の姿を何倍にも大きく感じさせる。


これは勝てない。

ここにいる全員が全力で戦っても、戦いにすらならない。

俺の全身が、魔王との戦いを全力で拒否している。


ならば、どうするか。


俺がこの場を納める術は何かないかと模索していると、


「ライズ、か」


俺たちの背後から男の声が聞こえた。


その声でようやくハッとしたライズ王子が、ゆるゆると、少しだけ後ろに目線を送る。

魔王を直視することはできないが、その存在から目を逸らすこともできないのだ。

ライズ王子以外は、相変わらず魔王の足元に目線を送ったままだった。

俺も、嫌がる自分を抑えつけて、何とか目線を後方に送る。


「ち、父上。

ご無事、でしたか」


ライズ王子がその姿を見て、絞り出すように何とか声を発する。


「ああ。

私が死ぬわけがないだろう」


声の主は落ち着いた話し方だったが、声に疲労の色が見えた。


これが、マリアルクス王。

若い。

ライズ王子よりも確実に若く見える。

まるで少年のようだ。

その体から、壮年の男性の声が聞こえることに、違和感を感じざるを得ない。

何かのスキルなのだろうか。

チラッと見た感じでは、服に汚れや焦げた跡があるのは分かったが、王自身にはまったくケガがないように見受けられた。

マリアルクス王はものすごく強いらしいという、ミツキの言葉が思い出される。



『ライズ?

第一王子か』



魔王の発する声に、俺たちはさらに固まる。

男とも女とも、若いとも老いているともつかない、全ての声が入り交じったような声。

そして、心臓を鷲掴みにされて、ヤスリで削られているかのような不快感を感じる声だった。


『あなたたち、どうやってここに……


なるほど、守護者の仕業ね』


魔王は何かを感じとるようにして呟いた。


この話し方、魔王は女なのか?


『厄介なエルフ。

この程度の増援など訳ないけど、まあいいわ。

今日はこの辺にしてあげましょう』


魔王はそう言うと、マリアルクス王を指差した。

魔王の挙動に、皆がびくっと全身を震わせる。


『もうすぐ、この忌まわしき結界は消える。

その時こそ、我が軍勢がこの地を蹂躙するでしょう。

貴様は最後の楽しみに取っておいてあげましょう。

それまでに、せいぜい準備しておくのですね…………ん?』


魔王はそこまで言い終わると何かに気付いたように目線を動かす。

俺の方を見ているような気がする。


『…………あなたは』


魔王に直視され、さぞ身も凍る思いかと思ったが、その視線には、わずかな脅威さえ感じられなかった。


『…………』




スウッ




魔王はそのまま、音もなくその場から消え去っていった。







「ぶはぁっ!」


「な、なんなんですか、あれは」


どさっ。


「フラウ!」


魔王のプレッシャーから解放され、皆はようやくまともに呼吸を再開した。

フラウは極限状態からの解放に気を失ってしまったようだ。

ミツキが介抱している。

プルもさすがに辛かったようで、杖を支えに、何とかその場に立っている。


「父上!」


ライズ王子が思い出したようにマリアルクス王に駆け寄る。


「私は大丈夫だ。

それよりも、兵や城の被害が甚大だ。

私は少し休む。

ライズ。

お前が指揮をとり、この窮状を回復させろ」


「はいっ!」


ライズ王子はマリアルクス王からの勅命を受けると、ザジを連れて玉座の間から駆け出ていった。

マリアルクス王は玉座に腰掛け、目を瞑っている。


改めて周りを見回すと、玉座を守るように兵士たちの死体が転がっていた。

絨毯が血を吸い込みきれず、辺りは血の海と化している。


しばらくすると、ライズ王子の指示によって、数人の兵士がやってきた。

城の外の警備をしていた兵士を寄越したらしい。

王は兵士の肩を借りて、自室へと向かうようだ。


王は去り際、こちらを振り向き、


「転生者たちよ。

此度は助太刀感謝する。

後日、改めて謝意を尽くそう。


リード、彼らへ十分な歓待を」


「はっ!」


それだけ言うと、その場から去っていった。


指示を受けたリードが、俺たちを部屋に案内してくれた。

ひとまずの処置が終わるまではここで待っていてくださいと俺たちに言って、リードも城の救援に出ていった。

プルも、自分は回復魔法も使えるからと、手伝いに出た。

俺も何か手伝おうかと言ったが、プルにフラウのそばにいてあげてと言われ、俺とミツキで、ベッドに寝かせたフラウにつくことにした。

フラウは呼吸も安定していて、今は眠っているだけで、じきに目を覚ますだろうとのことだった。





あれが、魔王か。


今の俺では、到底敵わない。

侵略してきている以上、いずれは相対さなければならないだろう。


力が必要だ。

俺自身にも、仲間にも。

そして、強力な仲間が。

強力なスキルを持った仲間が。


俺はそんなことを考えながら、俺自身のスキルのラインナップを眺めることにした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 今の影人でもかなわない魔王⁉遂に恐ろしい敵が現れました!
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