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第四十四話 やっぱり影人は……

「さ!つまらない講義はこのぐらいにして、実際に練習してみるわよ!」


ミツキはギルドから借りた教本をパン!と閉じると、教壇を両手で叩いた。


「……まだ、半分程度しか進んでいないんだが」


ミツキ先生の説明は確かに分かりやすかった。

回りくどい講釈が書き連ねてある教本を、経験者の観点からかいつまんで、的確に説明している。

だが、教本を半分ほど進んだ所で、どうやらミツキ先生は飽きてしまったようだ。


「もうこんなのはいいわ!

後半は前半とおんなじことを言い方を変えてぐだぐだ書いてあるだけだから!

そんなことするぐらいなら、魔法のひとつでも覚えた方がマシよ!」


ミツキは黒板をバン!と叩きながら、教育委員会が聞いたら卒倒しそうなことを言った。

さっきからバンバンうるさいのが気になるのだが、


「テレビの教師ってこんな感じでしょ?

一回やってみたかったのよね」


と、よく分からない影響を受けてのことだったようだ。



「影人は魔刀が使えるのよね?

それなら話が早いわ!

転生者は魔力の感覚を掴むのに苦労するから。

私も初めは意味分かんなかったし。

下手したら、一生かけても理解できなくて、魔法の修得を断念する人もいるみたいだから。

魔法士で一番苦労するのは、まずそのスタート地点なのよ」


確かに、あちらの世界にはない魔力を感じろなど、普通はすぐに出来るようなものではないのだろう。

気配察知などの、目には見えない感覚に慣れていないと、だいぶ苦労するんだと思う。


「とにかく、それが出来れば、あとの難関は1つよ。

その魔力を、呪文を通して魔法に変換する。

その感覚さえつかめば、理論上、どんな魔法でも使えることになるわ!」


ミツキはそう言って、ビシッとこちらを指差してきた。

人を指差すのはやめなさい。


「なるほど。

分かった。

では、次はどうすればいい?」


俺はミツキの言ったことを頭の中で消化し、先を促した。


「魔力感覚を覚えたら、その魔力を自在に操れるようにするんだけど、魔刀を扱える影人は問題ないから飛ばすわ。

そしたら、実際に魔力を、呪文を通じて変質させていきましょう」


ミツキはそう言うと、胸の前まで右手を挙げて、手のひらを上に向けた。


「ほっ!」


ミツキがそう言うと、手のひらの上に魔力球が現れた。

それは白い球体で、大きさはまさに手のひらサイズといった感じだ。


「これを、各属性ごとに変質していくわ」


ミツキが手のひらの魔力球に、さらに魔力を加えていくのが分かる。


「《(イグニス)》」


「《(アクア)》」


「《(テラ)》」


「《(ヴァン)》」


「《(トニトルス)》」


「《(テネブラエ)》」


ミツキが各属性の名前を呼ぶと、手のひらの魔力球がそれぞれの属性を帯びたものに変質していく。


「これは単純に性質変化だから、属性名がそのまま呪文と魔法名の役割を果たしてるわ」


ミツキは話しながらも、次々と魔力球の属性を変えていく。


「魔法は、基本的にラテン語なのか?

それとも、転生者にはそう聞こえるだけなのか?」


少し気になったので尋ねてみた。


「ん?

これってラテン語って言うの?

私はよく分かんないけど、たぶん一番響きが近い向こうの言語に変換されてるんじゃないかな?」


どうやらミツキは自覚なく使用していたようだ。

ラテン語はあちらの世界でも古い言語だから、イメージの中で一番近いものがチョイスされたのかもしれない。


「ま、難しいことはいいわ。

使えればいいのよ。


私のイメージはパソコンね。

私自身は画面のデスクトップ。

呪文がプログラム。

呪文を正しく打ち込めば、画面上にアイコンが浮かぶ。

それが魔法名。

あとは、それをクリックすれば魔法が発動されるわ」


ミツキはあっけらかんと笑っていた。

それもそうか。

きっと、あのパン神の調整だろうし、それぐらいに思っておこう。

それにしても、そのイメージは分かりやすい。

俺もそれでいくことにしよう。


「で、これをやってくと、自分の得意な属性の系統も分かるの。

同じ魔力量でも、その属性だけ威力が増すのよ」


ミツキはそう言うと、再び魔力球を元の状態に戻した。



「《(ルクス)》」



カッ!



「おお!」


魔力球は、先ほどの性質変化とは違い、部屋全体を照らし出すほどの光量を持つ光の球へと変質していた。


「どう?

私は光属性の適性が高いから、同じ魔力量でも、ここまでの差が出るの」


ミツキはそう言うと、ぐっと手のひらを握り締め、出現させていた光球を消し去った。


「これを全属性安定して出来るようになれば、とりあえず魔法士は修了よ。

そこから、自分の適性にあった属性のエレメントマジシャンとして、スペシャリストを目指すことになるの」


ミツキはそう説明してくれた。

俺もさっそくやってみることにする。


「なるほど、こうか」



ボッ



「はぁっ!?」


俺は見よう見まねで、同じように魔力球を手のひらの上に出してみた。

大きさも魔力量も、ミツキと同じぐらいに出来たと思う。


「どうだ?」


俺はミツキに尋ねてみた。


えーと、ミツキさん?

なに固まってんの?


ミツキは一度大きく溜め息を吐くと、呆れたように声を発した。


「一応、言っとくね。

普通は魔力球を放出して、手のひらの上に滞空させるのに、早くても3ヶ月はかかるから」


ミツキはやれやれと、首を横に振っていた。


「確かに、影人は変態だわ」


ミツキがポツリと呟いた。

おい、聞こえてるからな。


俺はその後も性質変化に挑戦した。

その結果を見て、ミツキは呆れるを通り越して、もはや無表情の無感情となってしまったのだった。








その頃、プルはケーキフェスタの会場を騒然とさせていた。

ビュッフェスタイルの会場の、およそ2/3のケーキをプルが食い尽くしたからだ。

さらにはプルの、


「これは皆のだから我慢。

皆のだから我慢」


という呟きを聞いた人が恐怖におののいたのは言うまでもない。


会場を出禁になったプルはそれでも満足気に帰路に着く。


「さて、早く帰らなきゃ。

変態な影人のことだから、きっと今日中にエレメントマジシャンになってる。

全属性のエレメントマジックは、あの子じゃ教えきれないから」


プルは影人の性質変化の結果をピタリと言い当てていた。


「でも、走れないから、ゆっくり急ぐ」


そうしてプルは、膨れたお腹を抱えながら、えっほえっほと歩いていった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり影人変態説(笑)。
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