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第四十二話 デザートフェスタ

「いやー!

悪かったなぁ、影人!

うっかり殺してしまう所だったぞ」


「うっかりじゃすまないぞ、それ」


俺とプルは再びカイゼルのいる執務室に来ていた。

カイゼルからの謝罪と、今後の説明のためらしい。

カミュは土下座させますと言っていたが、カイゼルはへらへら笑って書類仕事をしながらそう言っただけだった。

なるほど、これが殺意か。

あとカミュさん?

あの時、俺のことを見捨てたこと、根に持ってますからね。



その後、カイゼルは冒険者について、詳しく説明してくれた。


ギルドで依頼を受注して、達成すれば報酬を得られること。

今は南からは出国できないこと。

人間の領域(カエデ姫の結界内)から出たら、あとは完全に自己責任となること。

不正や虚偽の申告は厳罰となること。

ノルマやランクは特にないが、実績のない初心者には難しい依頼は受けさせないこと。

などなど。


それらを、高く積み上がった書類を処理しながら話す。


「忙しそうだな。

それは何の書類なんだ?」


「先ほどの、ギルドマスターの地下修練場の破壊に関する始末書です」


「ああ……」


俺の質問に、カミュが答える。

そりゃあ自業自得だ。

せいぜい励め。


「まったく!

軽くぶっ壊しただけで大げさなんだから困るよな」


いや、がははははっじゃないよ。

それで殺されそうになったこっちの身にもなってもらいたい。


「それで?

魔法士の修練はミツキがつけてくれるんだって?」


カイゼルが思い出したように尋ねてくる。

ついさっき病室で話したことなんだが、盗聴でもしてるのかってぐらいに情報が早い。


「ああ、明日からギルド管轄の修練部屋で教えてもらえることになった」


俺は病室で決まったことを報告する。

すでに知っているのだろうが、形は大事だ。


「そうか、ミツキみたいなお子ちゃまで大丈夫かー?

大人しく俺の膝にいればいいんだがな」


カイゼルはさらっと気持ち悪いことを言っていた。

ちなみに、ミツキは今回もバックレだ。

一応、喫茶店の仕事に戻るという名目で。


「ミツキさんはもう立派な中堅冒険者です。

新人育成にも積極的で、教えるのも上手いです。

それに、彼女はもう17歳ですよ」


「そうだったな。

時が経つのは早く、残酷なものだ」


カミュの解説にカイゼルはガクッと肩を落とす。

あんた、よくそれでギルドマスターになれたな。


「それで、しばらくはここにいるのか?」


カイゼルが気を取り直して尋ねてきた。


「そうだな。

数日後にライズ王子との面談があるから、それまでは魔法士の修練をするし、そのあとすぐに移動するわけでもないだろうからな」


王子に王への紹介を頼んでも、すぐには会えないだろう。

数週間か、1ヶ月は待たされることは覚悟しておいた方がいい。

それに出来れば、エレメントマジシャンまで修得してから動きたいしな。


「そうか」


カイゼルはそれだけ言うと、顔を上げてこちらを見た。


「お前がどう振る舞うかはお前の自由だ。

冒険者はしがらみに囚われない。

お前の好きに生きろ」


「そのつもりだ」


俺の返答を聞いて、カイゼルはハッハッハッ!と笑っていた。


「それでいい。

話は以上だ。

もう下がっていいぞ」


「分かった」


カイゼルはそう言うと、再び書類に目を落とした。

俺とプルは立ち上がってドアに向かう。


「あー!そうそう!」


ドアに手をかけた所で、カイゼルが声を上げる。


「北に行くのは構わんが、マリアルクス王には気を付けろよ」


「どういうことだ?」


俺が振り向くと、カイゼルは黙々と始末書を書き続けていた。

どうやら返答する気はないようだ。


「……わかった」


俺はそれだけ言って、ドアを開けて部屋を出た。




俺たちの足音が遠ざかっていくのを聞き、カイゼルは手を止める。


「間違っても、逆らおうとはするなよ」


カイゼルはそれだけぽつりと言うと、再び書類に向き合っていった。







「さってと!

じゃあ、まずは座学から始めていくわね!」


翌日、俺はギルドの修練教室で、メガネ姿のミツキから魔法士についての講義を受けた。

別に目は悪くないので伊達メガネらしい。

プルは自分には使命があると言って去っていった。

デザートフェスタのパンフを握り締めながら。


ミツキの講義を受けながら、俺は何か忘れているような気がしたが、まあ気のせいかと、気にしないことにした。







その頃、忘れられたフラウさんは、


「ご主人様は今ごろ何をしているのでしょう」


狩って捌いた鳥を焼いて、豪快にかぶりつきながら、そんなことを呟いていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] こんな態度をとられたら影人でなくても殺意を覚えそうです。 [一言] ご主人様を気にかけながらも串をほおばるフラウさん、あなた大物になりますよ。
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