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第四十一話 バナナはお見舞いに適任ですか?

「うっ」



気が付いたら、ベッドの上で天井を見上げていた。

どうやら気を失っていたようだ。


なんとか、生きていたか。


俺は軋む身体を起こす。

全身がぎしぎしと音を立てるように痛む。

カーテンで仕切られているため、周りの状況を窺い知ることは出来ないが、おそらく病院のような所だろう。


ベッドの音で気付いたのか、カーテンがシャッ!と開かれる。


「影人!

起きたの!?」


ミツキが心配そうな顔で現れた。


「いったいどうなったんだ?」


俺はとりあえず状況を聞くことにした。


「どうもこうもないわよ!

あのバカオヤジはっ!

いくら影人が転生者だからって、来たばっかの新人に《光輝剣(シャイニングブレード)》を使うなんてっ!

普通なら、跡形も残らないわよっ!」


ミツキさんはカンカンだ。

どうやら、俺は下手したら消滅するぐらいの攻撃を受けたらしい。

自分でも、よく生きていたなと思う。


「影人」


「プルも居てくれたのか」


ミツキの後ろから、プルもひょこっと顔を出す。


「これあげる」


「あ、ああ。

ありがとう」


プルは俺にバナナを一本差し出す。


プルさん。

口にバナナの欠片が付いてますよ?

もしかして、1房買って、他は全部食べちゃったんですか。

まあいいけどね。

いいんだけど、なんかさ。


「影人。

なんで生きてるの?」


「え?

ダメでしたか?

ごめんなさい」


俺は思わず謝ってしまった。

あ、結局、そのバナナも食べちゃうんですね。


プルは首を横に振る。


「あれを受けて、影人が生きてるのが不思議。

影人では耐えられない攻撃だった」


そういうことか。

存在を否定されたのかと思って傷付いたぞ。


「ああ。

あれは……」







「いやー、まさか、あの状態から攻撃に転じてくるとはなー!」


カイゼルは執務室で書類を書きながら、カミュにそう話し掛けた。

全身に包帯をぐるぐる巻きにして。


「まったく。

影人様がああしてなければ、彼を殺してましたよ、分かってるんですか」


カミュは呆れたように文句を言いながら、カイゼルに包帯を巻いている。


「いやいや、あいつなら何とかすると思ってな!

避けると思ったが、あの攻撃に向かってくるバカは初めてだ!

だが、あいつが俺に攻撃してきたから、俺は回避か防御の二択で迷い、判断が遅れた。

結局、防御に魔力を割くことにして、そのまま剣を振り下ろしたのだが、あいつは俺の眼球を容赦なく狙ってきた。

魔力でガードしていても、さすがに避けざるを得なかったよ。

おかげで手元も狂うし、狙いは定まらないし、おまけに俺の背後に回って俺を盾にしやがった。

術者にダメージを与えない仕様を逆に利用された。

まあ、さすがに余波で吹っ飛んだがな。

だが、狙いが外れた反動で、俺までこの様だ」


カイゼルは包帯を巻かれた手をひらひらと泳がせる。


「…………久しぶりに頼もしい奴が降りてきた。

今後が楽しみだな」


カイゼルは泳がせていた手をぐっと握って笑う。


「そんな方を殺すところだったのですから、反省して、さっさとその始末書を書いてください」


「イテッ!」


カミュはバシッ!と、包帯を巻き終えた箇所を叩いた。


「まったく。

相変わらず優しくないねぇ。

俺のこのケガ、あのあとカミュとプルさんにやられたものの方が多いんだからな」


「自業自得です!」


情けなく溜め息を漏らすカイゼルに、腰に両手を当ててぷんぷんしているカミュであった。







「……って感じだ」


俺はカイゼルとの戦闘の最後のシーンを2人に説明した。


「いやいやいやいや、そんなの、紙一重で死んじゃうようなやつじゃん。

シャレになってないから」


ミツキはドン引きだった。


「世の中そんなもんだろ?」


「いや、あんた、どこの魔界から来たのよ。

なに、あっちの世界は私がいなくなったあと、宇宙大戦でも始まるの?」


きょとんと首を傾げる俺に、ミツキが呆れ顔でツッコむ。


「うん。

影人はすごい。

すごい変態」


プルさん、それやめて。

けっこう傷付くから。





俺はベッドで上半身を起こした状態のまま、拳を開いたり閉じたりしてみる。


「なによ。

まだどっか悪いの?

先生呼ぼっか?」


ミツキが心配して尋ねてくる。


「いや、魔法士の身体機能のマイナス補正ってのは、あのレベルの戦いになってくると、かなり痛いな。

通常戦闘なら問題ないが、精緻な肉体操作が必要な時に、引っ掛かりのようなものを感じる」


これはかなり由々しき事態だ。

同レベル以上の相手と戦う時には、慎重にならざるを得なくなる。

いざという時に全力を出せないのなら、待っているのは死だ。


「そうね、私も冒険者として活動して短くないから、一瞬の油断が命取りになることを知ってる。

懸念要素は早めに取り除いた方がいいわ」


「そうだな」


ミツキが真面目な顔で応えてくれた。

その顔はもう、かつての平和な世界の、学生のそれではなかった。

ミツキも大変だったようだ。


「プル」


「ん?」


俺は隣の患者さんのお見舞い品に手を出そうとしていたプルに声をかける。

やめなさい。

真面目な話だからちゃんと聞いて。


「俺に魔法の基礎を教えてほしい。

魔力とはなにか、その根本から学びたい」


俺はプルの目をしっかりと見つめて頭を下げる。


「…………無理」


「なぜだ」


プルは少し考える仕草をしてから、そう答えた。


「プルは生まれた時から魔法士を修得してた。

だから、魔法は使えて当たり前。

魔力は呼吸と同じで当たり前。

理論を説明しろと言われても無理。

せめてエレメントマジシャンになってから聞きに来い!」


プルはそう言って、俺にビシッ!と指を向けた。


それなら仕方ないか。

しかし、生まれた時からって、さすがにズルくないか?

それはそれで、転生者並みのチートだろう。


「そうか。

ならどうするか。

カミュさんあたりに紹介してもらおうか」


俺がどうしようか迷っていると、


「あ、魔法理論なら私が教えてあげるよ」


「え?」


ミツキがバナナを食べながら提案してきた。

あ、あなたも持ってたのね。

俺のは?

あ、もうない。

そうですか。


「私は元々弓士を持ってたから、まず魔法士を修得したんだ。

そのあと、光の属性に適性があったから、光のエレメントマジシャンになって、弓士の上級職である弓心者(アルクス・コラー)を経て、今は魔弓師を修得中。

だから、魔法士に関しては一通り教えられるよ」


「神!」


俺はミツキの手を両手でぎゅっと握り締めた。

ミツキは善きに計らえと調子に乗っていたが、このまま乗らせておこうと思う。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読ませていただきました~。 カイゼルさんが面白すぎるw やはりプルさんの実年r (ry 戦闘シーンもすごかったです~。 また読ませていただきますね!
[良い点] おお、生きてましたか! ここから修行パートですね。
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