第四話 東の国
さらに同時刻。
<東の国ワコク>。
「姫!
先ほど神樹から、凄まじい光が観測されました!」
和製の鎧に身を包んだ屈強な男が、バタバタと走ってきて、開け放たれた障子の手前で片膝をつき、声を荒げて叫んだ。
「なんですか、テツ。
騒々しい。
それに、姫はやめてくださいと何度も言ったでしょう」
その言葉を受けた、着物に身を包んだ女性は落ち着いた様子で、琴を奏でていた。
とても豪奢な細工が施された着物からも、その女性が高貴な存在であることが窺える。
「これは申し訳ない!
しかし!あれは!姫がこの地に舞い降りた時と同じもの!
もしや!再び何者かがこの世界に!!」
テツと呼ばれた男は注意されたことを詫びながらも、それでも興奮冷めやらぬといった様子で、口早にまくし立てた。
「おそらく、そうでしょうね。
まったく、あの女神様は。
これで最後だと言いながら、いったい何人送ってくるおつもりなのだか」
女性はハァーと溜め息を吐きながら、ポロンポロンと琴を奏で続けた。
「現在、殿の命を受けて、調査隊が派遣されています!」
テツはようやく少し落ち着いたのか、息を整えながら報告をした。
「そうですか。
調査にはどなたが?」
「まずは先見隊なので、手の空いていた忍を数名向かわせました!」
女性の落ち着いた問いに、テツは勢いよく答える。
どうやら語尾が強調されるのは、彼のもともとの話し方らしい。
「………そうですか」
女性はそれだけ言うと琴を弾く手を止めて、部屋の外に広がる空を見上げた。
「今度は、まともな方だと良いですね」
そう呟いた女性の、長く美しい黒髪が、控えめに吹かれた風にそっとなびいていた。