第三十七話 こういう時って、だいたいギルドマスター案件だよね
「ここか」
俺とプルは冒険者登録と、ジョブの設定のために冒険者ギルドに来た。
「そうよ!
ここがリルダールのギルド!
<リリア>の中でも屈指の規模を誇るわ!」
ここまで案内してくれたミツキが、じゃーん!と言いながら、ギルドを指差す。
なるほど。
確かにお役所だ。
コンクリートのような材質の壁で覆われた四角形の建物。
4階建てで、大きなガラス窓がはめられた姿は、確かに役所のような企業ビルをイメージさせる。
この辺りはギルド関連の建物が多いようで、似たような建物がいくつか見られた。
「さ!こっちよ!」
ミツキに誘われて、俺とプルは建物に入っていく。
入口は自動ドアだ。
光魔法で動作物を検知したらドアが開くって。
うん、それ赤外線だね。
こんなに現代的なのに魔法か。
ものすごい違和感だな。
中に入ると、
ものすごく事務的だ。
目の前には総合案内の女性がいて、床には矢印、天井からは番号付きの案内板がぶら下がっている。
唯一、感じる違和感といえば、訪れている人々がかなりの割合でゴツいことだ。
もしくは、杖を持っていたり、人間ではなかったり、場違いなのがこの建物の方だと言わんばかりのメンツだ。
「新規受付は、2階ね」
ミツキはキョロキョロする俺たちなんてお構い無しに進んでいく。
「おー!ミツキ!
久しぶりだな!」
「お!今日は男連れか!
珍しいじゃねえか!」
「あ!ミツキ!
この間の報酬もう受け取れるよー!」
新規受付のある2階に向かうまでの間に、ミツキはいろいろな人に声をかけられていた。
獣人やドラゴニュートなどのゴリゴリ系にやたら好かれているように見える。
確かに、ミツキならこういう体育会系のノリにも余裕でついていけそうだ。
ミツキはそれらに軽くノッては別れながら先に進む。
俺とプルはその後ろを大人しくついていった。
「さ!ここよ!」
2階に着いて少し歩いた所の、『5番新規登録受付』というプレートが掲げられた所で、ミツキは立ち止まった。
「ミツキさん。
こんにちは。
そちらの方々は初めましてですね。
ようこそ。
新規登録ですか?」
「そうなのー!
カミュちゃん!
よろしく!」
恭しくお辞儀をするエルフの受付嬢に、ミツキはウインクをかます。
カミュと呼ばれた受付嬢は見事にそれをスルーする。
「ああ。
よろしく頼む」
俺も華麗にスルーして、プルとともに席に座った。
「もー!
相変わらずカミュちゃんはそっけないんだからー!」
ミツキはそう言いながらも、大人しく俺たちの後ろで見学することにしたようだ。
今は椅子に座るプルの頭の上に、後ろから顎をのせている。
プルさんがすごく嫌そうだからやめてやりなさい。
その子、たぶん君より強いからね。
「それではまず、こちらの書類をご記入ください」
カミュはそう言って、用紙を出してきた。
俺とプルはそれぞれ記入していく。
えーと、
名前。
性別。
年齢。
種族。
最大討伐レベル。
前職(ない場合は空欄)。
スキル(任意)。
得意技能。
取得ジョブ。
特筆項目。
うん。
後半がよく分からん。
とりあえず聞いてみよう。
「すいません。
最大討伐レベルと、得意技能以降のものがよく分からないのですが」
「では、ご説明いたします」
カミュはそう言って、一つひとつ丁寧に説明してくれた。
「最大討伐レベルというのは、今まで倒した魔獣の中で、最もレベルの高いものを挙げていただいています」
「…………そもそも、レベルがよく分からないのだが」
「カミュちゃーん!
影人は私と同じ転生者なのよ。
だから、全部イチから説明してあげなきゃー」
会話が噛み合わない俺たちに、ミツキが助け船を出す。
「…………ミツキさん。
それは始めに言っておいてください」
まったくだ。
「失礼しました。
それでは、改めてご説明いたします」
カミュはそう言って頭を下げた。
「そもそもレベルというのは、魔獣のおおまかな討伐指標です。
魔法が使えない一般人を10とした時の、魔獣の強さですね。
神樹の森にいる魔獣でいうと、角ウサギがレベル8。魔狼が15。マジックサーペントが20といった所でしょうか。
もしも魔獣の討伐経験がおありなら、そこにご記入いただれば、依頼を探す際に、こちらで斡旋の参考にさせていただきます。
レベルが分からなければ、個体名でも構いません。
次に、得意技能はそのまま、ご自分の得意分野ですね。
剣、槍、弓、魔法、徒手空拳など、ご自分の得意なものを書いてください。
鍛冶や製薬など、非戦闘分野でも構いません。
取得ジョブに関しては、すでに取得済みのものがあればご記入いただいてますが、降臨されたはがりの転生者の方なら、空欄で結構です。
まれに既得ジョブをお持ちの方もいらっしゃいますが、無自覚のことも多いので、のちほど、こちらで検査いたします。
特筆項目に関しては、差し支えなければ、転生者である旨をご記入ください」
カミュは丁寧に説明をしてくれた。
ふむ。
どうするか。
俺が転生者であることは、ミツキが盛大にカミュに教えてしまったが、あまりお偉いさんに知られるのは得策じゃないか。
ライズ王子にも、マリアルクス王だけに秘密裏に教えたいと言うつもりだが、ギルドの書類に記入したら、面倒なお偉いさんに情報が渡ったりするのだろうか。
俺が記入を迷っていると、
「ギルドは国に従属しているわけではないので、記入された内容を流出させることはありませんので、ご安心を。
もちろん、その書類に書かれていないことは、私は何も聞いていませんので」
カミュがそう呟いた。
どうやら、なかなか話が分かる人のようだ。
「だ、か、ら、カミュちゃんがいるこの時間に来たのよー」
振り向くと、ミツキがこちらにウインクをした。
どうやら、彼女が受付にいる時をわざわざ狙って案内してくれたようだ。
「あ、ただ、ギルドマスターにはさすがに話さないわけにはいきません。
ですが、ギルドマスターも信用の置ける人物なので、ご心配なさらず」
ふむ。
そこまで言ってくれるなら、信用しても良さそうだ。
俺は転生者である旨は書かずに提出した。
もちろん、スキルの欄も空欄だ。
信用とは、そんなにすぐに得られるものではない。
そういや親父にも、すべてを疑ってかかれって言われてたっけな。
「お願いします」
俺は再度確認して、カミュに用紙を提出した。
プルは書き終わっていたらしく、すでに提出していて、置いてあった飴玉を口いっぱいに頬張っていた。
俺たちの書類を確認していたカミュは途中で顔色を変えた。
「し、少々お待ちください」
カミュはそう言って席を立ち、バタバタと奥に引っ込んでいった。
「どーしたのかしらね」
ミツキは呑気にその姿を眺めている。
俺は嫌な予感しかしないのだが。
「すいません。
お待たせしました」
カミュは息を切らしながら戻ってきた。
「少し確認したいことがあるので、こちらについてきていただけますか?」
そう言われて、俺とプルは席を立った。
ミツキもついてくるようだ。
「カミュちゃーん。
どこ行くの~?」
ミツキがカミュに絡むが、カミュは緊張した面持ちのままだった。
「ギルドマスターの所です」
「え゛っ!」
ミツキさん。
そのリアクション怖いんですけど。