第三十六話 幼女ばかりではないのです
あなた『も』って言ったか?
この人は?
「君は?」
別に転生者であることを隠すつもりはないが、おおっぴらに公表するつもりもないので、まずは先に相手に名乗らせることにした。
「私はミツキ!
山木三月!
やま!
き!
さん!
つき!
簡単でしょ!」
そう言って、彼女は満点の笑顔を晒してきた。
同い年ぐらいだろうか。
名前的にも、苗字を先に名乗る所からも、おそらく転生者で間違いないのだろう。
薄栗色の髪をハーフアップにした、快活な女の子だ。
瞳はやはり黒。
背は俺とプルの間ぐらいか?
スタイルが良く、手足がすらりと伸びていて、何となくJK感のある子だ。
「転生者認定証はあるか?」
「んもー!
疑り深いわねー!
ほら!
これでいいでしょ!」
ミツキは胸元から認定証を出した。
おい!今それどこから出した!
「確かに。
俺は草葉影人。
こっちはプルプラ。
俺も、転生者だ」
俺はそう言って認定証を見せる。
「プルはプル。
転生者。
ではない」
プルはそう言って、えっへんと胸を張っている。
うん。見れば分かるよ。
あっちにエルフはいないからね。
「なにこの子!
かわいー!」
ミツキはそう言って、プルの頭をなでなでする。
心なしか、プルも嬉しそうだ。
「それで、転生者が俺に何の用だ?
というか、ここで何を?」
「もー。
つれない子だなー。
同郷のよしみじゃーん!」
ミツキはそう言って、肘でつんつんしてくる。
やめてください。
話を聞くと、本当にただ同じ転生者っぽかったから声をかけた、というだけらしい。
魔王なんかとは戦いたくなかったけど、別にやることもなく、かといって生活費は稼がないといけないから、この喫茶店で住み込みで働かせてもらっているらしい。
「おや!
ミツキちゃんの知り合いかい!
珍しいね!」
「おばちゃん!」
しばらく話していると、ミツキの代わりにホールに出てきていた恰幅の良い女性が声をかけてきた。
どうやらお昼時を過ぎて一段落したようだ。
「そうなの!
この人も私と同じ転生者でね!
懐かしくて、思わず声かけちゃった!」
ミツキは嬉しそうに話す。
「あらそうなのかい!
ミツキちゃんには内装とかメニューとかいろいろ考えてもらって助かってるから、あんたたちにもサービスしてあげるよ!」
女性はそう言って、大きなホールケーキを持ってきてくれた。
ミツキは目を輝かせ、プルは飛び跳ねている。
「やったー!
おばちゃん大好き!」
「うん。
おばちゃん良い人!」
嬉しそうな2人に、女性も満足気だ。
プルさん?
先ほどケーキ食べてましたよね?
そして、俺も実は嬉しい。
辛いものも甘いものもどちらも好物だ。
あの、おふたりさん?
三等分って知ってる?
それ、二分の一って言うんだけど。
結局、ホールケーキは2人に食われてしまい、哀れに思ったおばちゃんが三角ケーキを持ってきてくれた。
ほんとにすいません。
ありがとうございます。
プルさん。
物欲しそうな顔はやめなさい。
ケーキを食べて一息ついた所で、改めて話をしていく。
やはり、ミツキは俺と同い年だそうだ。
話しぶりからも、ほとんど同じ時代から来たのだろう。
クラスの女子と話している気分だ。
まあまあぐいぐい系の女子だが。
「あ、そうそう。
私は弓士なんだけど、影人はジョブはなんなの?」
じょぶ?
なんすか、ジョブって。
ゲーム的に想像はつくが。
俺がきょとんとした顔をしていると、ミツキは、ああ知らないのね、と詳しく説明してくれた。
「ジョブっていうのは役職のことね。
まあ、男子の方がゲームとかで詳しいと思うけど、たぶん想像通りよ。
私も兄貴がよくやってたから、何となく分かったわ。
ジョブを選ぶと、その役職に応じて補正が入るわ。
弓士なら、俊敏性・バランス力・視力・命中率あたりね。
もともと私はメガネだったけど、必要なくなったわ。
あとは、熟練していけば、それに応じたスキルを獲得しやすくなるらしいわね」
「なるほど」
そんなシステムがあったのか。
役職補正があるのはありがたいな。
転生スキルを自分では使えない俺にとって、後天的に得られるスキルの獲得は必須だ。
「そのジョブはどうやって決められるんだ?」
「冒険者ギルドで出来るわよ。
旅をしてるなら、ついでに冒険者として登録しておいた方が便利ね。
別に依頼ノルマとかもないから、転生者認定証を出したくない時の身分証代わりにもなるから」
なるほど。
冒険者ギルドね。
異世界ファンタジーっぽくて少しワクワクしちゃうじゃないか。
「あ、言っとくけど、別に新人に絡んでくるような荒くれ冒険者とかはいないからね。
どっちかっていうと、お役所とか免許センターに近いイメージでいた方がいいわ」
「あ、そうなのか」
ちょっと残念な気分の自分がいる。
「なんなら、これから連れてってあげよっか!
私は行き慣れてるし、夕方までに帰ってくればいいからね!」
「それは助かるが、」
俺はチラッとおばちゃんを見る。
「構わないよ!
行ってやりな!」
そう言うことなら、
「じゃあ、お願いします」
「まっかせなさい!」
頭を下げる俺に、胸をドンと叩くミツキだった。