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最終話 この平和な世界でいつも通りの光景を。

「……ふう」


「お疲れみたいね、影人」


「……ルルか」


 プルの名の下で行われた、いわゆるお披露目会。言ってしまえばパーティーのようなものだ。

 今日はそれが無事に行われ、俺は大観衆の前で長々と演説を行った。

 そのあとはどこの誰かも分からない偉そうな人々が次から次へと挨拶に来て、その相手に四苦八苦。

 マリアルクス王からは全員の顔と名前を覚えろと言われていて、肉体的にも精神的にも疲れてしまった。


 今は束の間の休憩として、広場を見渡せる時計台の上で夜風を浴びている。

 日はすっかり暮れ、辺りには明かりが焚かれ、酒が入った人々の喧騒が響いていた。

 そんな景色を楽しんでいると、空からルルが降り立ったのだ。


「疲れたな。

 傲慢(プライド)との戦いとはまた違った疲れだ。ある意味あれより疲れるぞ」


「ふふ。そういうものよ」

 

 今回のお披露目会。その主な主役は新たにその座についた4人。


 神樹の守護者であるプル。

 エルフの女王であるミツキ。

 アーキュリアの王である俺。

 そして、新たに法王となった聖女アマネだ。


「……まさか、法王がこんなに早くに亡くなるとはな」


 法王から自身の死期を視たと言われて、新しい法王を勧められて俺が断ってから数日後、彼は眠るように息を引き取った。


「本当はまだ影人たちが原罪龍(シンドラゴン)と戦っている途中に、その未来を視ていたのよ。

 でもそれが寿命によるものなのか、影人たちの敗北によるものなのかが分からなくて言えなかったみたいよ。

 影人たちが無事に勝利したことで、初めてそれが自分の寿命によるものなんだと理解したみたい」


「……なるほどな」


 世界全てが滅びるのか、自分だけが死ぬのか分からなかったわけか。


「……にしても、まさかアマネが法王になるとはな」


「ふふ。貴方がその役職を断ってからの彼女、凄かったわよ」


「そうなのか?」


 大聖堂をあとにしてからは俺も王としての勉強やら仕事やらで忙しくて、なかなか会いに行くこともできず、今日が久しぶりの再会になってしまったんだが。


「ええ。影人がやらないなら自分がやってやるって言って、物凄い勢いで大司教としての仕事を覚えていったわ。

 もともと聖女は法王に次ぐぐらいの扱いだったし、人望もあったから、枢機卿を差し置いて彼女が法王になることに誰も文句は言わなかったそうよ」


「……頑張ったんだな」


 その懸命さは尊敬に値する。


「……」


「……なんだ?」


 ルルの視線が物凄く嫌なんだが。


「……あの子、あんたにちょっとでも近付こうと頑張ったのよ」


「ん?」


「あんたにちょっとでも自分の方を向いてほしくて頑張ってたのよ」


「ああ。そうだな。本当にすごいと思うぞ」


 俺も見習わないとな。


「はあ~~~~」


「……なんだよ」


 無駄に長い溜め息を。


「だから、あんたは影人なのよ」


「……そうだが?」


 なんなんだ。


「まあいいわ。

 それより驚いたのはフラウちゃんよね」


「……そうだな」


「まさか、姉と離れてアーキュリアの高官を目指すなんてね」


「……」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『私は、勉強するです。

 勉強して、これから出来るアーキュリアの王都に行って、アーキュリア王国の、王様の秘書官を目指すです』


『……俺の、秘書官?』


『はいです!』


『……セリアと離れることになるが、いいのか?』


『……はいです。お姉ちゃんとも話しました。

 お姉ちゃんは頑張りなさいって言ってくれました。

 魔法も覚えるです。

 転移魔法を覚えればいつでもお姉ちゃんに会いに行けるし、王様の役にも立てるです。ルルが教えてくれるって言ってたです』


『……そんなことをしなくても、フラウなら何か役職を与えて俺の横につけることは出来るぞ? 護衛でもメイドでも、なんでも』


『それじゃダメなんです!

 私は、ご主人様のお側に自分の力で立ちたいです!

 自分の力でご主人様のお役に立ちたいです! 光の巫女っていう神様から与えられた力でもなくて、自分で頑張って身に付けた力で、今度こそちゃんとご主人様の隣に居たいんです!』


『フラウ……』


『……だから、待っててほしいです。

 ご主人様の隣は、私がいいです。

 私じゃなきゃ、嫌なんです。

 だから、自分の力で必ずそこに行くです。

 だからっ!』


『分かったよ』


『わぷっ』


『……待ってる』


『はいです!!』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……さすがのあんたも、そこまでやられれば分かるわよね?」


 ルルが片眉を上げながら聞いてくる。


「……まあな」


 そこまで言われて気付けないようじゃ、本当にボンクラだ……。


「分かってて、待ってるって言ったのよね?」


「……そうだ」


 その言葉に、嘘偽りはない。


「……ならいいわ」


 ルルがふわりと宙に浮く。

 神へと昇華したルルに肉体はない。

 思念体として、今ここにあるだけだ。

 俺もあのままだったら、今の姿のまま、永遠に変わることはなかったのだろう。

 神は不老不死だから。

 だが、べつにそんなものはいらない。

 俺は、皆とともに生きていきたい。

 そう思ったんだ。


 だからこそ、俺は神であることを捨てた。


 フラウと、皆とともに居るために。


「んじゃー、私は下にごちそう食べに行くわ。

 あんたも来なさいよ。

 主役がいつまでもこんなとこにいたら示しがつかないわよ、王様」


「……やれやれ。仕方ないな」


 神はメシなんて食わなくてもいいくせに。


 ルルに誘われて、浮遊魔法で一緒に降りていく。


「へーい! 私も参加しまーす!」


「アカシャ!?」


「なんでおまえもいるんだよ! しかもパンダ!」


 ルルと2人で皆の所に降りていこうとしたら、天からパンダ姿のアカシャがすごいスピードで降りてきた。


「へへー。仕事が一段落したから来ちゃいましたー。でも私がいるとルルよりも騒ぎになりそうだから、謎の着ぐるみパンダとして参戦しまーす!」


「……いや、この世界にパンダはいないし、そもそも転生者にはバレてるだろ」


 最初の転生時にパンダだったんだから。


「まーまー、細かいことは気にしなーい」


「ったく」


「もー、知らないわよー」


 手足をバタバタさせながら勝手に地上に降り立つパンダに呆れながら、そのあとを追う。




「お、おい! あれ!」


「な、なんだあの生物はっ!」


「え? アカシャ?」


「ア、アカシャって、女神アカシャ様!?」


「今はさらなる高位の神へとなられたあのっ!?」


「見ろ! それにルル様もいらっしゃるぞ!」


「この世界の新たな女神様だっ!」




 当然、速攻でバレて大騒ぎになったのは言うまでもない。



「やれやれ」


「あ! ごしゅっ……陛下!」


「あら、おかえり影人」


「すんごいの連れてきた」


 俺は神ふたりから離れて、爆食していたフラウたちのもとに降り立った。


「……なんか、懐かしい光景だな」


「ふみゅ?」


「ふぇ? ふぁふぃふぁ?」


「むがごがっ?」


 一言ずつ喋ると、もうすでに爆食を再開していた3人。

 前はこんな光景をよく見ていた気がするな。


「……また、これが見られるようになって良かった、ってことにするか」


 俺が王になっても皆は変わらない。

 まあ、神になってもそうだったんだから当然か。

 この平和な光景。

 この景色を壊さないように、俺は俺の国を、そして世界を守っていこう。


 俺の中に唯一残った万有スキル『百万長者』で。

 皆の力を借りないと使うことができない、このちからで。


 大丈夫。

 何も心配することはない。


 俺はもう一人じゃないのだから。



「ごしゅっ……陛下! これ美味しいです!」


「あんたも食べなさいよ!」


「ん。早くしないとなくなる」


「……ああ。今行く」



 俺には、皆がいるのだから。





これにて完結となります。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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