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第三十三話 影人vs.プル

と、言うわけで、俺はプルと勝負することになった。


まあ、別にそういうわけではないのだが。



俺はスキルに関しては、サポートシステムのおかげである程度の知識を得られているが、魔法に関してはカエデ姫やトリアさんから軽く聞いただけだ。

だから、まずは自分で魔法を体験してみようと思って、プルに手合わせを申し出た。


プルは、


「別に構わない。

ただ、

手加減はしない」


とだけ言って、杖を構えた。

俺も外套を脱いだ。




「じゃあ、始めるか」


距離をとった2人は俺の言葉で、ザッと構えをとる。

俺は黒影刀を。

プルはどこから出したのか、自分の身長の1.5倍ほどの長さの杖を構える。


互いの間に風が吹いて、プルの鍔の広いとんがり帽子がはためく。



まずは小手試しに。




ヒュッ!




ギィンッ!




マジか。




俺はプルの背後に回り込んで黒影刀で切りつけたが、プルの魔法障壁で完全に防がれた。

プルを中心とした透明な球体は、俺の斬撃に対してビクともしなかった。



「くっ」



その間に、プルの杖から放たれた複数の光弾が、背後にいる俺を目掛けて迸る。


俺はそれを後方に下がりながら刀でさばく。


魔法には詠唱が必要なんじゃないのか!?

いま何も言わずに撃ってきたぞ、こいつ!


「簡単な魔法なら、詠唱を省略して放つことも可能。

当然、修練は必要」


プルはそう言いながら、追撃の魔法を撃ってくる。


氷撃魔手(フリージア・アロー)


今度は魔法名だけの発動だ。


無数の氷の矢がとんでもないスピードで襲い来る。




ドドドドドドドッ!




俺はそれを寸での所でかわし、氷の矢は背後にあった大木に突き刺さり、その木をなぎ倒した。


さらに、プルがその間に唱えていた呪文の詠唱が終了する。




重力場(グラビティフィールド)




「ぐっ!」


ルルの時ほどではないが、強力な上からの力が俺を押さえつける。


その力に抗っていると、プルの方から危険を察知する。


プルの杖には、バチバチッと、大きな雷球が生成されていた。



「ちょっ!」



《ライトニングボール》




ドッ!

ピシャーンッ!




辺りに雷が落ちる音が響いた。






「ちょっと待て!

まともにくらえば死んでたぞ!」


俺は何とか重力魔法から脱出し、全速力でその場から逃げていた。

服の端が少し焦げている。

ルルの重力魔法を体験しておいて良かった。

初見じゃ、すぐにその場から動けなかった。

ルルほどの威力ではなかったのが幸いした。

でなければ、今ごろ俺は黒焦げだ。

さすがにその威力はやばいだろ!


「でも、あなたは避けた。

これぐらいなら避けられると思った。


それに言ったはず。

手加減はしない」


慌てる俺に、プルは座った瞳をさらに細くしてそう言い放った。




…………



はっ!


上等!




「後悔するなよ。

プル」


「いいからさっさと来るといい」



俺とプルは改めて構え直した。




すっ。




さっきよりも速く、静かに接敵する。

一瞬、プルの後ろに回ってから、さらに速度を上げて正面に回り込む。


プルは後ろを振り向くが、すでにそこに俺はいない。

最高速の俺の姿を、プルは捉えきれないようだ。


俺は上半身を後ろに向かせているプルに向けて、思い切り黒影刀を振り下ろした。




パキャァァァーーンッ!




プルの障壁が音を立てて割れ落ちる。


「そんなっ」


プルはそれにショックを受けていたようだが、さらに追撃を加えるために、再度振り下ろされる刀を見て、杖を振るう。

魔法を発動する余裕のないそれは、魔力で強化された打撃だった。




ガッ!

キィィィンッ!





ぶつかりあった刀と杖は互いに弾きあい、それぞれの後方に弾き飛ばされる。




シュッ!




俺は手刀をプルの喉元まで差し出し、直前でピタッと止めた。


プルも、左手に出現させていた小型の杖を俺の腹部に添えて、その手を止めていた。






「…………終わりだな」


「ん」


俺の言葉にプルも頷き、互いに手を下げた。



「ありがとう。

参考になったよ」


俺はそう言いながら、黒影刀を拾って鞘に収める。


「こちらこそ、まさか私の障壁を突破するなんて。

並みの魔法士なら、何百人がかりでも破れないのに」


プルもそう言いながら杖を拾って、空中に放り投げた。

すると、その杖は空中に現れた黒い空間にスウッと吸い込まれて消えた。


なにそれ。

便利だな。


「ははっ!

そうなのか。

さすがはルルの弟子だな」


「それほどでも、ある」


俺がそう言うと、プルは嬉しそうに胸を張っていた。


「でも、どうやって障壁を破った?

魔法障壁は込められた魔力以上の魔法や、強力なスキルによってでしか破砕できない。

最後のは、ただの斬撃じゃなかった?」


プルはそう言って首を傾げた。


「ああ。

あれは、黒影刀に魔力を流してみたんだ」


俺がそう言うと、プルは驚いた表情を見せた。


「なんで、影人がそんなこと出来るの?

この世界に来たばかりの転生者が、スキルの補助もなしに魔力を扱えるはずがない。

スキルを発動した素振りもなかった。

魔法の教授を受けたことはないって聞いてた。

なのに、なんで?」


「ああ。

俺は、魔法を見たことがあったからな。

マリアルクスのザジと、ルルのをだ。

1回ならまだしも、2回だ。

2回も見られれば、その差異から、魔力の使い方や流れを類推するのはそんなに難しくはない。

ルルのは魔力の流れが早いうえに滑らかすぎて分かりにくかったけどな」


俺がそう言って笑うと、プルはもはや呆れた顔になった。


「普通、そんな人間はいない。

影人はもう人間じゃない。

ただの変態」


「いや、言い方!」


甚だ遺憾だった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 変態、もとい影人の天才性が垣間見えましたね。単にスキルだよりでないことがよく分かりました。
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