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第三百二十六話 嵐を抜けて

「……暴食(グラトニー)以下が全部盛りってことか」


 完全吸収を可能とする怠惰の鎧を身に纏う傲慢(プライド)は、さらに自身の周りに巨大な牙が伸びる口と、紫電を顕現させた。

 怠惰(スロウス)色欲(ラスト)強欲(グリード)に加え、嫉妬(エンヴィー)暴食(グラトニー)の能力をプラスしてきたようだ。


「もちろんコレも、ですよ」


「……まあ、そうだよな」


 さらに、傲慢(プライド)は黒い炎を撒き散らす。あれは憤怒(ラース)の炎だ。


「当然ですけど、あの牙とか雷とか炎とかに触れてもアウトですね~」


「……まあ、そうだよな」


 傲慢(プライド)が身に纏う怠惰の鎧だけでなく、その周囲に出現させたモノにも同様に完全吸収の効果を。

 つまり、近接だけでなく中遠距離においてもヤツはアドバンテージを得たと。


「……それに対して、こっちがどれぐらい効果があるか、だな」


 手元で白く輝く聖剣(エクスカリバー)

 聖絶。

 まさにそんな言葉が相応しい輝きだ。


 あまねく全てを絶つ聖なる光。

 神をも滅する光。


 正直、こうして持っているだけで手がビリビリするような感覚がある。

 神に対する特効。

 それが3振り。

 傲慢(プライド)に対して、これがどれだけのダメージになるのか。


「まー、効果があっても当てられないと意味がないんですけどねー」


「たしかに」


 アカシャが見上げる先には嵐のような傲慢(プライド)の姿が。いや、もはや紫雷と黒炎と巨大な牙に覆われて傲慢(プライド)の姿を拝むこともできなくなっていた。

 一発でも触れればアウト。

 俺たちはそんな中を掻い潜りながら、傲慢(プライド)本体に聖剣(エクスカリバー)を叩き込まなければならない。


「……なかなか無理ゲーだな」


「まーラスボスなんてそんなものですよー」


「最近のはそうでもないんだよ」


「そーなんですかー?」


「……まあ、攻撃手段があるだけマシか」


 右手に黒影刀、左手に聖剣(エクスカリバー)を構える。

 はじめは黒影刀を聖剣化させようと思ったが、相反するふたつをひとつにするのは危険な気がして二刀流でいくことにした。


「……できるだけ、露払いはするか」


 そして、黒影刀から魔人の杖と弓の能力で黒珠と無数の矢を生成する。さらに魔人の短剣でそれを倍化。

 俺の周りに傲慢(プライド)に匹敵する規模の量面積を誇る武器群が揃う。


「んー、それだとちょっと心許ないですねー。

 フラウちゃん。少々お手を拝借」


「へ?」


 アカシャが周囲に現れた黒珠や矢を見回してからフラウの手を取った。

 

「……何をするつもりだ?」


 今さら信用どうこう言うつもりはないが、ついさっきまで俺たちを吸収しようとしていた女神だ。警戒は当然。


「まーまー」


「ひゃっ!?」


 しかし、アカシャはそんな俺の警戒など何ら気にせずにフラウの力を引き出していく。

 そして、アカシャを伝って放出されたフラウの光の巫女の力が俺の黒珠や矢たちにまとわりついていく。


「……これは、聖剣化?」


「ただの攻撃では傲慢(プライド)に吸収される可能性があるのでー。

 これで少なくとも、あの雷とか炎とかにぶつけてもただ養分になることは避けられるはずですよー」


 この数すべてを聖剣化しただと?

 相変わらず規格外すぎる……


「……おまえ、手が……」


 アカシャの手はかすかに崩壊していた。

 すぐに補完され、再生したが、明らかにダメージを受けている。


「いやー、さすがにこれだけ光の巫女の力を引き出すと、その特効が私にも牙を向いてきますよねー。

 でもフラウちゃんにはまだこんなことをするのは難しいですし。

 まあ、これぐらい問題ナッシングですよー」


「……」


 問題ないわけがない。

 身体を引き裂くような雷を体内に流すようなものだ。

 実際は相当のダメージと痛みのはず。


 信用、などと言っている場合ではない、か。


 少なくとも、今のアカシャの最大の目的は傲慢(プライド)の撃破。それだけは確か。

 ならば、俺も今はそれだけに目を向けることにするか。


「……雷や炎は気にするな。俺がなんとかする。

 誰でもいい。

 誰かがヤツに聖剣(エクスカリバー)を当てることに集中しよう」


「は、はいです!」


「かしこー」


「さあ。はじめましょう!」


 傲慢(プライド)が紫電と黒炎を撃ってくる。

 ご丁寧に俺たちの準備が整うまで待っていてくれたのか。

 まさに傲慢(プライド)、ってところか。


「いくぞっ!」


「はいです!」


「はーい」


 嵐のような雷と炎に飛び込んでいく。


「はぁっ!」


 右手に持った黒影刀を振る。

 周囲に浮かぶ黒珠と矢が聖なる光を纏って白い空を舞う。

 聖剣化された黒珠たちは傲慢(プライド)の紫電や黒炎に触れると瞬時に蒸発して消え去る。

 が、それと同時に向こうの雷たちも抉られるように消えた。


「相殺。十分だ」


 聖剣化された俺の攻撃は吸収されることなく傲慢(プライド)の攻撃と打ち消しあった。

 これは朗報だ。

 おそらくはあらゆる攻撃・防御手段を吸収するであろうヤツの紫電や黒炎にダメージを与えられるのだから。

 それはつまり、ヤツが纏う怠惰の鎧にも同様の効果を与えられるということであり、ひいてはヤツ自身にさえダメージを与えられる可能性が高いということ。

 つまり、俺たちの聖剣(エクスカリバー)を当てさえすれば勝機はある。


「なかなかやりますね。

 ですが、近付くことさえさせませんよ!」


 傲慢(プライド)は紫電たちを消されたことに少しだけ動揺したようだが、すぐに新たな雷と炎を出現させた。

 雷炎吹き荒れる嵐がますます激しく俺たちを襲う。


「くっ」


 フラウがその光景に圧倒され、足を止めようとする。


「止まるなっ!

 進めっ!」


「は、はいです!」


 しかし、すぐに足にぐっと力を入れ直し、フラウは再び嵐に飛び込んだ。


 アカシャが先行し、フラウがそのあとを追い、俺がふたりに襲いかかる雷炎を払っていく。


「ええい。チョロチョロと!」


 雷炎を相殺されている傲慢(プライド)は牙の射程内に俺たちが入ると、イライラした様子で暴食(グラトニー)の牙を動かした。


「まとめて喰らってやる!」


 上下からビル群のような牙が俺たちを潰しに来る。


「出し切ってやる!」


 杖と弓は雷炎の対処で手一杯。

 新たな手数が必要。

 もはや出し惜しみもない。全力で迎撃してやる。


「魔人の鎚、鎌、同時顕現!」


 俺は黒影刀を形態変化させて、鎚と鎌を出現させた。

 鎚は大地を操る能力。ここには操るべき大地がないが、ないなら作ればいい。


「スキル生成【大地創造】」


 新たに作ったスキルでキューブ状の巨大な足場を作る。

 それをすぐに分解。聖剣化させた矢を混ぜ込めば即席の土の弾丸だ。


「いけっ!」


 それを下から猛烈な速度で向かってくる牙にぶつけると、相殺して牙が崩れる。

 同時に鎌に黒珠を融合させて聖剣化。

 それを空から降りかかってくる牙に振るえば互いに消滅した。

 鎌も消えたが存在自体は俺の中にあるから再顕現すれば問題ない。

 牙を迎撃した俺は鎚を消して再び黒影刀を戻す。


「もう少しですよー!」


 先行しているアカシャが、俺が撃ち漏らした雷炎を払いながら叫ぶ。

 どうやら傲慢(プライド)まであと少しらしい。


「道を作る!

 フラウを連れて一気に飛べ!」


「目視できれば行けますー」


「よし! 魔人の槍!」


 俺は黒影刀を今度は槍に変化させる。

 一点突破するなら槍が効果的だ。

 先ほどと同じように矢を融合させて聖剣化。

 その先端に力を集める。


「いけ!」


 そして、その先から青白い巨大な光線を撃つ。

 闇の力を撃つときと同じ要領で光の巫女の力を撃ち出すイメージだ。


 放たれた光線は傲慢(プライド)の雷炎を吹き飛ばしながら直進する。

 突貫力のあるこれなら相殺されずに突き進められるようだ。


「無駄ですよ」


 傲慢(プライド)の怠惰の鎧まで到達したそれは、しかし鎧に触れた瞬間に消え去ってしまった。

 やはりあれの硬度はレベルが違う。


「見えたのなら十分ですよー。

 さ、行きますよ、フラウちゃん」


 傲慢(プライド)の姿を捉えたアカシャが再びフラウの手を掴んでいた。


「え? ……ひゃっ!」


 フラウがきょとんとした顔を見せたのは一瞬で、ふたりはその場から姿を消した。

 アカシャがフラウを連れて『跳んだ』のだ。


「とうちゃーく」


「何っ!?」


 突然、目の前に現れたアカシャとフラウに傲慢(プライド)は驚きを隠せていなかった。


「はい。フラウちゃん攻撃ですよー」


「あ、は、はいですっ!」


 そして、ふたりは光り輝く聖剣(エクスカリバー)傲慢(プライド)に振り下ろしたのだった。




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