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第三百二十四話 解析を創る。

「……怠惰の鎧、ってことは怠惰(スロウス)の能力か」


 あいつの能力は確か、全能力値の低下だったか?


「そうですね~。でも傲慢(プライド)の纏うあれはだいぶ強化されてるみたいですねー」


 全能力値の低下というのもだいぶ強力だとは思うが、確かに実際は嫉妬(エンヴィー)の即死効果の能力の劣化のようなもの。

 傲慢(プライド)がそれをそのまま使うわけがない、か。


「強化って、どんなふうにだ?」


「んー。影人さんはたぶんもう自分で解析できると思うから、やってみるといいですよ~」


「……なるほど」


 言われてみれば、アカシャは初見のはずなのにすぐにあの怠惰の鎧の能力を見抜いたようだ。つまりは何らかの解析スキルを使っていたということだ。

 傲慢(プライド)のガードを突破するぐらいに強力なスキルを。

 それを俺にも作れと。


「……ふむ」


 手のひらを前に出し、再び集中モードに。

 自分以外が起こす音がすべて停止する。

 そして、世界すべての時間が動かなくなる。


『ようは【解析(アナリシス)】を改造すればいいんだよな』


 すでに存在し、わりと使える人間も少なくない【解析(アナリシス)】。

 プルの使う《鑑定》とほぼ同じ能力。というか、<マリアルクス>のライズ王子の側近の男も使っていたか。名前は忘れたが。

 それらを参考に。


『……だが、どれだけ強化しても傲慢(プライド)のガードを完全に突破して把握しきるのは難しいだろう。

 俺自身がそう理解してしまっている。

 だからこそ、アカシャもヤツがその能力を見せてから【解析】してみせているようだしな』


『……正解』


 アカシャにさえ出来ないことを俺が出来るわけがない。そう思ってしまっている時点で俺はそれを再現できない。

 だが、どうやらイリスのお墨付きはいただけたようだ。

 それならば話は早い。

 無理に全体を解析しようとするのではなく、その力を一点に集中させることで、ヤツの顕現させている能力のみを知ることに特化させればいい。


『さすがですね、マスター』


『うまくできるかはこれからだ』


 方針が決まればそれを形にしていく。

 このスキル生成の能力は実際、これが最も難しい。

 外形を整えても能力が形をもたないことが多い。

 傲慢(プライド)を無条件で葬り去るスキルとか、アカシャと同じ能力を手に入れられるスキルとか、イリスを復活させるスキルなんかも実は試してみたが、やはり形を成さなかった。

 俺がそれが出来ないと思っているというよりは、能力としてのキャパシティの限界のようなものを感じた。

 好きなスキルを生成できるとはいえ、本当に何でもありというわけではないのだろう。


『……実際には、そういった能力を生成することは理論上不可能ではないかもしれません。

 ですが、おそらくマスター自身がそれは違うと思っているフシがあります』


『……いま、俺の心の声読めたのか?』


『はい。それはもうバッチリと』


『そうか……』


 いかんな。気を抜くとすぐに扉が開いてしまう。

 この距離だとアカシャはおろか、傲慢(プライド)にさえ読まれる可能性があるのだから気を付けなければ。


『にしても、俺がそれは違うと思っている、か』


 それは確かに否定できない。

 どうせなら、あのクソ野郎を完全に打ち負かしてやりたいという気持ちがないわけではない。

 実際には世界存亡の危機なのだから、そんなものすっ飛ばして傲慢(プライド)を一発で完全消滅させるようなスキルを生成するのが一番なのだろうが、俺自身が少しでもそれを疑っている時点でそれは創れないのだろう。


『……やっぱりアカシャにやらせた方が良かったか?』


 あいつなら無慈悲に、効率的に、ただ傲慢(プライド)を滅することだけに特化したスキルを生成して倒してくれそうだ。


『それは違います。

 あの子にはパッケージを与えてもそれを生成させることは難しいでしょう。

 なぜならそこに具体性を持たせることが難しいから。

 爆発で倒す。剣で倒す。魔法で倒す。

 敵を倒す方法はいろいろあれど、あの子ではソレ一発で私の一部であった傲慢(プライド)を滅するような攻撃というものが想像できないでしょう。直接の親である私の一部であった者相手ならばなおさら。

 それが出来るのは、私でさえ万能だと思っていないマスター以外にあり得ないのです』


『……そういうものか』


 まあ確かに、世界の創世神であるイリスを信用していないヤツなんてそうそういないのか。


『まあいい。まずは【解析】を完成させるか。停止状態も限界があるからな』


 俺も動けないが、アカシャと傲慢(プライド)が少しずつ動こうとしているのが分かる。

 今のこの状態は何万分の一秒とか、そんなレベルのはず。その中で、この短時間で挙動しようなんてどうなってやがるんだか。


『……やれやれ』


 もはや呆れてさえ来る。

 だが、俺は目の前の出来ることをひとつひとつやっていくだけだ。


『……生成【極点解析集中】』


 途端、世界が戻る。

 轟音が響き渡る。


「うおっ!」


「きゃっ!!」


 瞬間、アカシャと傲慢(プライド)が消え、数秒後に再び同じ位置に。


「解析できましたー?」


 どうやら時間を稼いでくれていたようだ。

 あの停止した集中モードでさえ動きつつある奴らの動き。俺にはまったく捉えることが出来なかった。


「……ああ」


 だが、おかげで奴の怠惰の鎧の能力が解った。


「……最悪だな」


「ですよねー」


 アカシャも苦笑いを浮かべる。


「まさかアレに、色欲(ラスト)強欲(グリード)の能力を統合してくるとはな」


「ど、どういうことです?」


怠惰(スロウス)の能力は全能力の低下。そして、色欲(ラスト)の能力は全体魅了(テンプテーション)、ほぼ無制限に魅了(テンプテーション)を使える。で、強欲(グリード)の能力は強制簒奪。相手のスキルを奪う能力だ。

 それらを統合させて出来上がったのが、いわゆる完全吸収ってわけだ」


「そうですねー。私が影人さんたちを吸収しようとしてた能力ですー」


「そ、そんな……」


 フラウが絶句する。

 気持ちは分かる。

 フラウは怠惰(スロウス)の能力を見ているからな。触れただけで効力を発揮することが分かっている。

 つまり、奴の纏う金色のオーラの鎧に触れただけで、俺たちは奴に吸収されてしまうわけだ。


「……あんたは、さっきはどうやってそれを防いだんだ?」


 俺が解析する時間を稼いでいたが。


「防いだわけではないですよー。私の分体を創って、それを私の代わりに吸収させて弾いていただけですー。ま、中身のないハリボテだから吸収されても問題はないんですけどねー」


「……それはつまり、直接触れればあんたでもヤバいってことか」


「うーん。分からない、が正しいですねー。

 不確定要素が多すぎて抵抗(レジスト)しきれるか分からないから、触れないならその方がいいって感じですねー」


「なるほど」


 危うきに近寄らず、か。


「とりあえず、影人さんも私たちの速度に追い付いてくれますか~?

 眼でさえ追えないようだと話にならないのでー」


「……ああ」


 少々悔しいがコイツの言う通りだ。

 俺には、さっきの2人を動きを把握することが出来なかった。


「……スキル生成【神速】」


 シンプルに【韋駄天】やら【瞬速】やらのスピード系のスキルを全部合わせてみた。『百万長者』に入っていたやつだな。

 いま思うと、百万ものスキルを閲覧できていた強みが効いているな。

 単純に俺の中の引き出しが増えて想像力が増している。

 あるいは、それさえ女神たちの計算か。


「……よし。オーケーだ」


 体が軽い。

 そもそもが肉体なんて関係ない状態ではあったが、【神速】によってかつての人間としての肉体に対する考えが取っ払われた気分だ。

 今なら、さっきの奴らの動きも捉えられるだろう。【神速】には、思考加速と身体機動も合わせたからな。速く動いても、それに合わせて体と頭も動くようにした。


「……だが、それでもキツいよな」


「そうですねー」


 あっちは一発でも当てれば勝ち。

 それに対してこちらの攻撃はほとんどダメージが通らない。

 これはかなり不利だ。


「つまり、今度は攻撃面も考えないといけないわけか」


「まあ、それに関しては決まってるようなもんですけどねー」


「ああ、そうだな」


 俺とアカシャは揃って後ろを振り返る。


「わ、私ですかっ!?」


 神をも滅する光。

 フラウの、光の巫女の力だ。


「影人さん。フラウちゃんの能力をコピーすることってできますかー?

 で、それを影人さんと私が使えるように出来ると最高なんですがー」


「……不可能ではないな」


 そんなスキルに、覚えがある。


「させるわけがないでしょう」


「なっ!」


「しまったー!」


 突破口は見えた。

 が、傲慢(プライド)がそれを許すはずもなく、俺たちが油断したわずかな隙に、傲慢(プライド)はフラウの真後ろに現れていた。


「フラウ! 逃げろっ!」


「え?」


 フラウが俺の声を聞いて振り返った時には、傲慢(プライド)の手はすでにフラウの頭へと伸びていたのだった。



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