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第三百二十一話 神々の反乱と提案

「ま、待てっ! 吸収だとっ!?」


「そうですー」


 にこやかに返答を返すアカシャ。

 だが、吸収ということは……。


「お前に吸収されたら俺たちはどうなる?」


「えーと、私の一部になるのでおふたりの意識は消滅しますね。個という意味では死ぬことになるかとー」


「そ、そんな……」


「……」


 さっきまで懐いていたフラウが一転して怯えた様子を見せる。

 アカシャはまったく悪びれた様子がない。

 まるでそうするのが当たり前のような。何がダメなのか分からないかのような。

 当然の帰結といった雰囲気だ。


「……始めから、そのつもりだったのか?」


「んーと、そうですね~」


 アカシャは顎に人差し指を当てて少しだけ考える仕草を見せる。


傲慢(プライド)の能力と強さ次第な所もありましたね~。

 それ次第では3人で力を合わせて、とかも考えたんですが、どうやら傲慢(プライド)も吸収ができるみたいですし、思ったより強いんですよー。

 だからおふたりが半端に相手に吸収されても面倒だし、先に私がおふたりを吸収してしまって1人で戦った方が早いし効率的かなーって」


「……なるほどな」


 前にイリスが、アカシャは人からの信仰の影響をあまり受けていないから原初の神の状態に近いと言っていたことがあったが、この冷酷とも思える冷静な判断能力は確かに人のそれの影響を受けていないとも言えるな。感情のない機械が計算だけで答えを導き出すかのような。


「だから、ここはおとなしく私に吸収されといてください。

 大丈夫です。おふたりの力があれば私は傲慢(プライド)がどれほどパワーアップして戻ってきても勝てますから!」


「……こちらの意向はお構いなしか」


「え? 世界全てを救うために人間2人の命で済むのなら安いものじゃないですか?」


「……ああ、そうなるのか」


 全ては大義のため、か。

 導くべき方向に世界を向かわせるためなら悲劇ぐらいいくらでも造る。

 全てはより大きいものを、そしてより多くを救うため。

 コイツは、そういうふうに『造られている』。


『……イリス。お前はどうなんだ?』


『……』


 それならば、『親』に聞いてみるとしよう。

 人々の信仰の影響を受け、感情というものを理解したイリスはどう判断するのか……。


『マスターたちの心情は理解できます。


 が、私は私の世界を守るためなら人々に悲劇をも与えてきました。

 今回、全ての世界の全ての人々に悲劇、どころか破滅が待ち受けている状況で、おふたりの心情を考慮している余裕は正直ありません。

 実際に傲慢(プライド)と戦闘を行っていたアカシャがそう判断したのなら、それはそうなのでしょう。

 ならば私は、私の創った全ての世界を守るためにおふたりの命を奪います。

 それが、全てを始めた私の責任というものでしょう』


『……残念だ』


『申し訳ありません……』


 イリスの言うことは理解できる。

 理解はできるが、ならば、はいそうですかと死を受け入れるのかと言われれば当然ノーだ。

 俺だけならまだしも、フラウを犠牲にするわけにはいかない。

 これまでずっと大変な目に遭ってきたんだ。

 フラウには、これからは幸せに生きて欲しい。


「……」


 俺は黒影刀を鞘から抜いた。


「あや?」


 アカシャが不思議そうに首を傾げる。


『マスター。それはオススメしません』


「そうか。なら俺は、お前たちの選択をオススメしないな」


『……』


「ご、ご主人様……」


「フラウ。俺の後ろに」


「は、はいー」


 アカシャと対峙した俺の後ろにフラウが隠れる。

 ここに来てから常に光の膜で自身を覆っているから、ふいを突かれても一撃でやられることはないだろう。


「うーん。そっかー。そうなるんですねー」


「……」


 アカシャは顎に人差し指を当てたまま、左右にゆらゆらと揺れて考え事をしているようだった。

 俺はいつヤツが動いてきてもいいように、刀に力を行き渡らせる。

 だんだん力の使い方は理解してきた。

 この世界を斬る力。それを、焦点を絞るようにフォーカスしていく。

 アカシャという女神だけを存在ごと切り裂くように。


「あ! じゃあ、こういうのはどうでしょうか!」


「……」


 アカシャは何か考え付いたようで、胸の前でパンと手を叩いた。


「フラウちゃんは吸収しないであげます!

 非効率になりますが、光の巫女の力が必要な時だけ、その力を貸してもらいます。

 で、影人さんだけを吸収させていただく、というのはどうでしょう?

 それならば私も傲慢(プライド)に遅れを取らずに倒すことができると思いますー」


「……」


「ご、ご主人様……」


 そうか。こいつらは俺の考えてることが分かるんだったな。

 俺がフラウだけでも……と考えたことをそう解釈したわけだ。


「……それなら、俺の答えも分かっているはずだ」


「……」


「わぷっ」


 俺はフラウを安心させるために後ろ手でフラウの頭を撫でる。


「論外だな。

 それでお前がフラウを無事でいさせる保証はない。俺を吸収したあとにフラウを吸収しようとしても、それを止めるヤツはもういないんだからな」


「ご主人様!」


「そうですかー。そうですよね~」


 アカシャは残念そうに肩を落とす。

 もはや、その仕草の全てが機械的にプログラムされた動きのようにさえ思えてしまう。


『マスター。提案があります』


『……なんだ?』


 正直、イリスの立ち位置は微妙だ。

 俺たちが自主的に犠牲になる意志がない以上、ここは3人で力を合わせて戦うのが最適解のように思う。

 が、冷徹なほどに計算的なアカシャはあくまで俺たちを吸収しようとするだろう。

 そうなると当然俺たちは抵抗する。

 が、俺とフラウがアカシャとぶつかってお互いにダメージを受けるのは傲慢(プライド)の思うつぼ。それはイリスたちも避けたいはず。

 折衷案などあるとは思えないが、聞く価値はある、か。


『アカシャにおふたりを吸収させてあげていただきたいです』


『……結局それか』


『それで、傲慢(プライド)を倒したあと、おふたりを記憶を残したまま、同じ姿で仲間の待つ世界へと再び再生しましょう』


『!』


『おふたりの力は強すぎる力ですので、光の巫女の力と神の力は取り去らせていただきますが、最低限の能力はそのままに再生転生いたします。

 マスターがアカシャの世界に転生した時と同じですね。

 いかがでしょう?

 これならば、おふたりは死んだわけではなく、その力だけをアカシャに渡して生まれ変わるだけになります。

 肉体も記憶もそのままなのですから問題はないと思うのですが』


『……』


 そう来るか。

 たしかに、一度同じ方法で前にいた世界から転生されてきた身としては、それでも俺が俺であるということが分かっているから受け入れやすい。

 俺たちにイリスたちを信用しろという感情論を持ってくるあたりも、いかにも人の影響を受けたイリスらしい提案だ。


『……が、やはり受け入れるのは難しい』


『……やはり信用いただけませんか?』


 イリスは分かっている。

 俺がもうイリスとアカシャを完全に信用していないことを。

 その上で、俺が合理性を理解して提案を受け入れることに賭けてみたのだろう。


『もちろんそれもある、が、それだけというわけでもない』


『……と、いうと?』


 イリスは俺が心の奧で考慮していたことを把握していないようだった。

 おそらく、神は神の心の声を聞けない。

 俺がその力に馴染んでいくことで、こいつらは俺の心の声が分からなくなりつつあるようだ。

 だからこそ、提案などということをしてきたのだろう。

 俺がなんて答えるかが分からないから。


『……俺の中に生まれた力。

 これを、アカシャが有効に扱えるとは思えない』


『……』


「えー! 失礼なー!」


 アカシャは両手を振り上げてプンプンと怒っているが、今は放っておこう。


『……マスターは、自分の中に目覚めた力を既に把握しているのですね?』


『……やっぱりあんたも分かってたか』


 だからこそ俺の力を吸収させようとしたのだろう。


『これは想像力がモノを言う。

 世界全てを生み出したアンタならまだしも、管理するために生み出された他の神に俺の力を使いこなせるとは思えない。

 ならば、それを最大限有効活用するには俺が俺の意思でこの力を使うのが最適解だ。

 違うか?』


『……』


 イリスは考えているようだった。

 きっと自分の中で既に答えは出ているのだろうに。


『……分かりました。その提案を採用しましょう』


「えー!」


 アカシャは不満そうだが、イリスが認めたのなら認めざるを得ないだろう。


「足手まといを守りながら戦う余裕なんてないですよー!」


 ふっ。コイツはある意味正直すぎて、もはや好感が持てるな。

 原初の神というのは嘘がないのか?

 それならそれでこっちもやりやすいが。


「それはこちらのセリフだ。

 守ってやるからせいぜい役に立て」


「むー! 言いましたねー!」


 プンプンと怒りながらも、アカシャは共闘姿勢を見せた。

 やはりイリスの意向には従うようだ。




「ふむ。これは残念ですね。

 同士討ちしてくれればどれほど楽だったか」


「!!」


「来ましたねー」


 そして、突然現れた空間の亀裂から傲慢(プライド)の高慢な声が届いた。

 現れた傲慢(プライド)は、フラウを幽閉していた所にいたモノと同じ姿をしていた。

 

 肩口まで伸びた銀色の髪。

 銀縁のメガネ。

 そして、龍の瞳。

 服だけは白いヒラヒラとした、質素ながらも豪奢な衣裳。空想上の神を思わせるような衣裳を纏っていた。


「……」


 悠然と、余裕を持った傲慢(プライド)の表情。

 なるほど。これは……。


「……内輪で争っている場合ではなかったな」


「だから言ったじゃないですか~!」


 アカシャが最適解を求めて俺たちを吸収しようとしたのも頷ける。


「……さて、そろそろ始めましょうか」


「っ」


 圧倒的なオーラ。

 隣に並び立つアカシャよりも、明らかに強力で凶暴な魔力。

 少しでも油断すれば死ぬ。


 これは始めから全力で挑むしかないようだ。




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