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第三百十三話 天へと至る門

「神樹から天に昇るわけか」


「そ。この世界唯一の天へと至る道ってわけ」


 ルルに転移魔法で連れてこられたのは、やはりというべきか神樹の内部だった。

 まあ、最初に生んだ生命体に神樹の守護者として護らせるぐらいだからな。まさに神の門番だ。その弟子であるプルも含めて、人々から特別扱いされるわけだ。


「あ、ちなみに物理的に神樹の先に天界があるわけじゃないわよ。だから外側から神樹をよじ登っても天には行けないわ。

 あの魔王ちゃんも分かってたんだろうけど、物は試しとかって1回神樹に沿って飛んでたことあったわね」


 そうだろうな。

 もしそうなら、さっき憤怒(ラース)と戦う時に宇宙空間に向かった時にそれらしき空間を見ているはずだしな。

 そういや、桜はそれで神樹の葉を傷付けてルルにキレられたことがあるんだったな。


「さ、前置きはいいわ。さっさと行きましょ。

 こっちよ」


 神樹の内部にあるルルたちの部屋。

 その一角にある扉。

 ルルはそこまで先導してスタスタと皆で歩いていった。

 プルは分かるが、月影の魔女も一緒に来るのか?


 扉の前に立つと、ルルは自分の杖を取り出して扉の鍵穴に向けた。

 特段、取り立てる特徴もない、至って標準的な普通の扉だ。


「ほら、ツッキーも早く!」

 

「あ、は、はいっ!」


 ルルに急かされて、月影の魔女は慌てて懐から小さな木の杖を取り出した。プルはいつの間にかルルと同じように杖を扉の鍵穴部分に近付けていた。

 月影の魔女だから、ツッキーなわけね。


 3人が杖の先端を鍵穴に向けると、順に解錠の詠唱を開始した。


「我、神樹の守護者。神へと至る門をここに解放する。

解錠(開けゴマ)》」


「え、と……我、守護者の従者。神へと至る門をここに解放する。

解錠(オープン)》」


「我、守護者を継ぐ者。神へと至る門をここに解放する。

解錠(おなかすいた)》」


「……」


 それぞれの解錠の呪文がだいぶ適当なんだが。月影の魔女が一番マシだぞ。

 プルに至ってはただの今の心境だろ。


「あー、解錠キーはそれぞれが自由に設定できるのよ」


 にしてもだろ。これでいいのか神の門。解錠って書けばなんて読ませてもいいと思うなよ。


「ほら。開くわよ」


「お、おう」


 なんとも締まらない雰囲気のまま、とくに厳かな雰囲気もなく扉は普通にガチャリと開いた。

 とはいえ、3人による詠唱とキーワードが必要なんだから、そのセキュリティはだいぶ高いが。


「……ん? なんだここ?」


 扉の中には階段も部屋も道もなく、エレベーターのような箱、というか部屋の窪みのような一角に扉を取り付けただけのようなスペースがあるだけだった。

 まさか本当にエレベーターじゃないよな?


「足元を見なさい。転移魔方陣よ。

 この世界唯一の天界へ向かう転移魔方陣」


「あ、なるほど」


 そこには複雑な紋様が刻まれた転移魔方陣が青白い光を放っていた。

 これが天へと至る門か。

 ある意味、異世界版のエレベーターなわけね。


「天へは空間的な隔たりがあるから転移魔法でも少し時間がかかるわ。早く行きなさい」


「分かった」


 ルルに急かされて扉の中へ。と言ってもすぐに行き止まりで、魔方陣の上に立つだけだが。


「おっと」


 転移魔方陣の上に立つと、青白い光を放っていた魔方陣から同色の光が立ち昇り、俺の全身を包んだ。

 感覚的にすぐに移動が開始することが分かる。


「じゃあ、いってくる」


「はい、いってらっしゃい」


「お、お気をつけて」


 ルルはもう部屋の中央にあるテーブルの椅子に腰掛けて、月影の魔女が淹れたお茶をすすっていた。ずいぶんあっさりしたものだが、ルルらしいと言えばルルらしいな。月影の魔女はそんなルルの様子を窺いながら見送ってくれた。


「影人」


「プル」


「……フラウを、よろしく」


「ああ。任せろ」


 扉の前で見送るプルは心なしか悔しそうに見えた。

 本当は自分もフラウを助けに行きたかったのだろう。

 だが、余裕そうに見せているが、ルルもプルも憤怒(ラース)との戦いで魔力を使いすぎてボロボロだ。

 自分が行っても役に立たないことをよく理解しているのだろう。


 俺はだからこそ、しっかりと託された思いを受け止めてこくりと頷いた。


「……いってくる」


 そうして、俺は天へと昇っていった。














「あー! 疲れたー!

 ツッキー! なんか作ってー!」


 影人が天へと昇ると、ルルはすぐに足をバタバタと揺らした。


「あ、はいはいっ! ……って、ルル様。お姿が……」


「……」


 月影の魔女はルルに急かされてパタパタとキッチンに駆け込もうとしたが、ルルの姿を見て愕然とした。

 プルはそれを無表情に見つめる。


「……私の分まで魔力使ってくれたんでしょ。若さを保ってられないほどに消費してる……」


 その細くシワの刻まれた腕を見ながら、プルは少しだけ悲しそうな顔を見せた。


「べつにご飯食べればすぐに回復するわよ。

 だからツッキー。いっぱい魔力込めてたくさん作ってよね」


 ルルは痩せ干そった白い足をぶらぶらと揺らす。2人に心配させまいとしているのだろう。

 影人の前では懸命に姿を保ったように。


「……はい。丹精込めて、作らせていただきます」


「……手伝う」


「ありがとうございます」


 月影の魔女はさまざまな思いを込めて、恭しくお辞儀をしてキッチンに入っていった。

 プルもなるべく魔力を込めた料理を作るためにそれに続く。


「……ええ。楽しみに、してるわ」


 ルルはそんな2人を微笑ましく見送る。

 託しても、きっとこの2人ならうまくやるだろう。

 ルルはそんな思いがあったから全てをかけて戦いに臨めた。

 そして、自分以外に天へとアカシャの手伝いに行ける者がいたから……。


「……影人。アカシャを、皆の母をよろしくね」


 ルルは明かりの灯った天井を見上げて、影人の健闘を祈るのだった。





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