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第三百十二話 集まり、至る

「……憤怒(ラース)


 憤怒(ラース)の首を落とした瞬間、俺はいつの間にか再び宇宙にいた。

 どうやらヤツの言う通り、自動的に外に排出されたようだ。


「……」


 憤怒(ラース)は消えたが、まだヤツの気配を感じる。

 これは、俺の中だ。


『マスター。新たな称号を獲得しました。


 憤怒。

 到達者。

 神へと挑む者。


 以上の3点です』


『……称号、か』


 これが憤怒(ラース)を倒したことで得た力。

 称号に付帯するスキルを同時に把握する。

 憤怒(ラース)が身につけていた炎の鎧や氷の大剣も顕現できるようだ。

 憤怒以外のふたつの称号は神に類する存在である原罪龍(シンドラゴン)の力を得たことで取得したようだ。


『これらの称号に加え、全ての魔人武器と万有スキルを取り戻せば、マスターは神の領域に手が届くでしょう』


『……神の領域、ね』


 強すぎる力は破滅を生む気もするが、傲慢(プライド)に俺の刃を届かせるにはそこまでしないといけないのだろうな。


『神がそれだけの力を有しながら破滅を生まないのはその精神性によるところが大きいです。人間がその領域に到達した時、確かに破滅を生む存在となることも多いのも事実。

 ようは使い手の精神性次第。

 マスターが自身を律し続ける限り、その心配は無用かと』


『……あまり過大評価されても困るけどな』


 あるいは、この人なりに釘を刺しているのかもな。

 俺が傲慢(プライド)を倒したあとに、俺自身が第二の傲慢(プライド)とならないように。


『……まあ、今はそれより、アレらを何とかした方が良いかと』


『アレら?』


 サポートシステムさんに言われて顔をあげると、一筋の光が月を喰い尽くそうとしているところだった。


『アレは神を穿つ光。ふたつの守護者の成れの果て。

 ですが、どうやら彼女たちは意識が飛んでいるようです。彼女たちが穿つソレは、もうただの脱け殻でしかない月であるのに』


『ルルとプルか』


 目を凝らすと、その光はひとりの少女が光を纏った姿だと分かる。

 原子レベルでの融合?

 その際の反応を利用して自らを光子化?


『……あれは、あのままでは存在が磨耗してしまいますね』


『ハッ! マズいっ!』


 呑気に解析している場合ではない。

 融合反応を利用するということは消費するということ。つまり、アレは絶えず融合し続けているということだ。

 異なる魂を絶えずぶつけ合い続けて、無事でいられるはずがない!


「ルルっ! プルっ!!」


「……」


「くそっ! 速すぎる!」


 光速移動する『彼女』に何とか近付いて声をかけるが、一瞬で目の前を通りすぎてしまった。おそらく声も届いていないだろう。

 彼女が喰らった月はもう三日月程度しか残っていない。

 憤怒(ラース)が消えても月としての肉体は残るようだ。

 おそらく彼女はそれを喰い尽くすまでは止まらない。自らの命を燃やしながら。


『……マスター。アレは憤怒(ラース)というモノに反応しているようです』


『……なるほど』


 彼女に、俺の方を向かせればいいわけか。


『サポートシステムさん。【憤怒】をフル装備で発動してくれ』


『承知しました』


 俺はさっそく手に入れたばかりのスキルを発動した。

 炎の鎧と氷の大剣が顕現する。


「……!」


「来た!」


 月を貪り続けていた光が俺に気付いた。

 急カーブすると、とんでもない速さで向かってくる。


「見えないから、ずっと全開だ!」


 それは目で追えるような速度ではない。

 俺は全力でそれを迎え入れることにした。

 氷の大剣を前に構えて重心を落とす。


 瞬間、ソレは俺の懐に飛び込んできた。


「ぐっ!!」


 とんでもない衝撃。

 それを感じた瞬間に後ろに猛スピードで後方に飛ぶ。


「ルル! プル!!」


「……」


「ダメか」


 光を受け止めながら2人に呼び掛けるが返答はなし。


『マスター。今のマスターなら、守護者の2人がマスターに使った力を使用することが可能です。使用しますか?』


『俺に使った……?』


 あれか。

 憤怒(ラース)の中にいた俺の精神に働きかけた魔法。


『頼む!』


『承知しました。仕様をインストール。

 どうぞ。即時仕様可能です』


「……よし」


 俺は光の中にいる少女の肩に手を置く。


「……第四天外魔法《心触(こころさわり)》」


「……っ!!」


 天外魔法を発動した瞬間、光が大きく煌めく。


「……う」


「……え、と?」


 その光が収まった時には、ルルとプルは2人に分かれ、元の姿に戻っていた。


「……あ、影人。終わったの?」


「ああ。無事にな」


「私たちも生きてたんだ」


「けっこうギリギリだったけどな」


 やっぱり死ぬ気でああなってたのか。

 にしては、ずいぶんさっぱりしているが。


「てか、私たちが戻れてるってことは第四? もしかしてあんた、天外魔法まで使えるようになったわけ?

 しかも単独で?」


「ああ。じつは……」


 俺は憤怒(ラース)を倒したことで、その力を手に入れたことを報告した。


「なーる。神の領域に踏み込んだ、と」


 プルが興味津々で人のことをジロジロ観察してくる。


「ったく。あっさり私の領域を飛び越えるんじゃないわよ」


 ルルは呆れたようにため息を吐いていた。

 どうやら神樹の守護者の称号を一足飛びで越えてしまったようだ。


「ま、なんにせよ助かったわ」


「ん。普通にそのままグッバイするつもりだった」


「グッバイて……」


 そんなあっさり言うな。


「月は……ほとんどなくなっちゃったけど、まいっか」


「常時三日月かっこいい」


「……派手にやったものだな」


 2人が光となって喰い荒らした月は、元の2割程度しか残っていない。

 この世界の月は潮の満ち引きとかには関わってないんだろうか。


「ま、なんにせよ、残るは傲慢(プライド)だけね」


「……ああ」


 そうだ。

 7体の原罪龍(シンドラゴン)との戦いも、残すはあと1体。

 強力な原罪龍(シンドラゴン)の中でも最も強く、現在、この世界の神であるアカシャが戦っている相手。

 そして、フラウを連れ去って利用し、最高神イリスに取って代わろうとしている狡猾な存在。


「あ、影人。ほい」


「ん? ああ、そうか」


 プルが思い出したように真っ黒な杖を差し出してきた。

 魔人の杖だ。


「あ、忘れてたわね。

 そういや、あの状態の私たちが消えたら杖も私が持つ万有スキルも一緒に消えちゃってたわね」


「おいおい……」


 全力で助けておいて良かった。


「……(あずか)ろう」


 プルから魔人の杖を受け取る。

 だいぶくたびれてはいるが、その内包する力は間違いなく魔人の杖だ。


『サポートシステムさん。魔人の杖の統合を頼む』


『承知しました』


 黒影刀を取り出して魔人の杖と統合させると、刀の刀身に強く煌めく星がまたひとつ増えた。


「んじゃ、私も渡すわ」


 ルルはそう言うと杖の先に強い光を集めた。どうやらあれが最後の万有スキルらしい。


「ほい、っと」


「う……」


 その光が杖を離れて俺の胸に吸い込まれる。

 万有スキル『世界調整』を入手したことが分かり、その詳細が頭に流れ込んでくる。

 世界のバランスを調整するスキル。

 どちらかというと、万物を何でも操るというよりは大まかな流れを任意の方向に導くといった類いの、まさに管理者向けのスキルのようだ。

 滅びの運命にある種族を救ったり、あるいは世界にとって害ある種族を流行り病で滅ぼしたり。ときには天災をも操ることさえできるようだ。

 それらが、当初聞かされていた存在率の調整ということの詳細なわけか。


「……なかなかに強力な能力だな」


「ま、万物スキルの管理職みたいなやつだからね」


「にしても……ん?」


 半ば呆れ気味でいると、万物スキル以外にも渡されたものがあることに気が付く。


「……これは、神樹の守護者の称号?」


「そーよ」


 万物スキルと一緒にルルから渡されたのは、ルルが持つこの世界の管理者たる資格、神樹の守護者の称号だった。

 なぜ、これを俺に?


「あ、べつにあげたわけじゃないから。貸しただけ。それはプルに引き継がせる予定だから、全部終わったらちゃんと返してね」


「返せよー」


「あ、ああ。それは問題ないが……」


 なぜ、これを今俺に貸すんだ?


『マスター。神へと至る称号が揃いました。

 あとは魔人武器を揃えて闇の帝王の力を完全復活すれば、マスターは神と遜色ない力を得ます』


「神へと至る称号……」


「そゆこと。もともと最初にアカシャに生み出された私たちの力を集結させれば、その力は神へと至るようになってたのよ。

 あの子は、この戦いに備えて自分に匹敵する存在、つまりは神をもう一人創ることを考えてたわけね」


 最初の3人。

 神樹の守護者。天竜。闇の帝王か。

 ん?


「俺は天竜からは万物スキルしか受け取ってないぞ?」


「それはあんたが気付いてないだけで、万物スキルを渡すときにちゃんとこっそり渡されてるわよ」


「へ?」


 ルルに言われて自分の持つ称号を改めて確認する。

 すると、その中に天竜の文字があった。


「……いつの間に」


 というか、それなら渡すときにそうと言ってくれればいいのに。


「イタズラ心ね。あの子はそういう子なのよ」


 ルルが呆れたようにため息を吐く。

 なんなら俺は天竜は神連中の唯一の良心だと思っていたのだが……。


「ま、なんにせよ、これであとは傲慢(プライド)に連れてかれちゃった光の巫女を取り返して魔人の短剣を統合すれば、あんたの刀は神にも届くわ」


「……」


 つまりヤツ(アカシャ)は、神に準ずる者を、自分に匹敵する者をもう一人造り上げたってことか。


「あんたが思ってるより、あの子はけっこう高位なすごい神様なのよ?」


 ルルは俺の思ったことに答えるように片眉を上げてみせた。

 俺がそう思うのは、そんな神をあの子呼ばわりするルルのせいな気もするがな。まあ、気持ちは分かるが。


「ま、とにかく、これであとは傲慢(プライド)のとこに行くだけよ。

 着いたらまず、光の巫女を助けることに集中しなさい。じゃないと、今のあんただと傲慢(プライド)の足元にも及ばないわ。なんなら足手まといよ。

 アカシャもそのつもりで準備してると思うわ。着いたら、巫女への道はあの子が用意してくれると思うから」


「なるほど。了解した」


 憤怒(ラース)に一太刀入れ、さらにパワーアップした状態でも足元にも及ばない、か。

 傲慢(プライド)というヤツは、どれほどの力を持っているというのか。


「よし。最低限の魔力は回復したわ。

 天への道に案内するわね」


「ああ、頼む」


 どうやらアカシャの所へは特定の方法でしか行けないようだ。

 ルルが杖を一振りすると、俺たちは転移魔法でその場をあとにした。







「……ここは」


「おかえりなさいませ」


「あんたは……」


「お久しぶりです。影人様」


「月影の魔女……」


 懐かしき老婆が恭しくお辞儀をして出迎える。

 彼女がここにいるということは、ここは……。


「神樹の中か」


「そ」





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