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第三百二話 サポートシステムさんの秘密

「……【魔王】ってスキルはすごいな」


 黒の影の鎧に身を包み、黒い翼で空を飛んでいる俺はそれを可能にしているスキルに感心していた。

 桜から受け取った【魔王】は破格の性能をしていた。

 ただでさえ闇の帝王の称号を得てインフレしていた能力だが、そのカンストを簡単にぶち破ってきた気分だ。


 全能力値上昇。全耐性獲得。魔力消費量激減。各種付帯スキル獲得。飛翔魔法での魔力消費なし。急速魔力回復などなど。


 桜はこの魔王状態の維持には多量の魔力が必要で、そう長い時間は使えないと言っていたが、俺の魔力はいっこうに減る気配を見せない。

 それどころか【魔王】と闇の帝王の称号とが持つ急速魔力回復が相乗作用を引き起こして、俺の魔力を際限なく高めている。


『それは闇の帝王の称号がスキル魔王のデメリットを打ち消しているからです』


『サポートシステムさん?』


『そもそもスキル魔王には魔王状態での魔力多量消費などというものはありません』


『どういうことだ?』


『魔王というものは本来、魔族のみが得ることのできる種族特有称号。しかし、マスターの前にそれを所持していたのは人間。転生者といえども異なる種族の特有称号を無理やり取得しての魔王変化は種族転生もあわせて使用しており、複雑な術式が絡み合っております。

 さらには前任者は同時に魔人武器と万有スキルまで使用しています。そうなると魔王の超速魔力回復でも消費に追い付かず、結果として魔王状態でいられる時間が限定的になっていたのでしょう』


 つまり桜は種族的に人間だったから、本来は魔族で得られないはずの魔王という称号を使うのが大変だったと。


『そしてマスターの場合、闇の帝王の称号によってマスターの種族に左右されることなく、スキル魔王はマスターを闇の帝王として認識しているため、そこに魔力の消費が必要なくなりました』


『闇の帝王は魔族と判断されるのか?』


『そうではありません。

 闇の帝王は神樹の守護者、天竜と同じこの世界の創設たる命。ひいては魔族と人間の源流たる魔人の祖。ならば、そこに種族などという縛りは問題にならないのです』


『……なるほどな』


 この世界のすべての種族の祖先にあたるのだから、現在の種族特有などという括りは関係なくそれに該当するわけか。

 というか、人間なのに魔王の称号を得ていた桜が特別だったんだな。


『……それに、闇の帝王はそもそも原罪龍(シンドラゴン)に対抗するための、つまりは神に匹敵する彼らを討つために女神アカシャによって造られた存在。神殺しに挑む者を差す魔王を扱えるのは当然なのです』


『……神殺し、か』


 たしかに、原罪龍(シンドラゴン)は神の最高峰イリスの落とし種。その力は神そのもの。

 とくにこれから戦うことになる憤怒(ラース)傲慢(プライド)はもはや神と言っても遜色ないほどの力を有しているのだろう。


 ……それに、『彼ら』、か。


『……あんたは、アカシャの分体か何かなのか?』


『!』


 俺はずっと不審に思っていたことをサポートシステムさんに尋ねてみた。

 なぜだか分からないが、今なら答えてくれそうな気がしたんだ。


『……いえ、そうではありません』


『……そうか』


 違うのか?

 それに、まだ教えてはくれないのか。


『……私は、イリスの意志の欠片です』


『!』


 また内緒なのかと思ったら、サポートシステムさんはいとも簡単に答えた。

 というか、イリスだと?


『……イリスというと、すべての元凶のイリスか?』


『……手厳しいですね』


『あ、いや、悪い。べつに非難したいわけではないんだ』


 確認するつもりが嫌みのようになってしまった。


『……でも、その通りですね。すべては私が落とした彼らが、今まさに世界の脅威となっているのですから』


 たしか、人々の信仰が影響を与えすぎて生まれた悪感情とかだったか。

 神の力を高める祈りが世界にとって最大の敵を生み出すというのは皮肉なものだ。


『……というか、あんたはいま休眠期とやらで眠っているんじゃないのか?』


 だからこそ原罪龍(シンドラゴン)を抑える力が弱まって封印が解かれたと聞いているが。


『はい。本体はもはや完全に休眠期に入りました。私たちはそれに伴って封印を破る可能性のあった原罪龍(シンドラゴン)に対抗するために、彼らが封印されている世界に少しでも力になればとイリスの意志のほんのひと欠片としてそれぞれの世界に派遣されたのです』


『私たち? サポートシステムさんの他にも同じアドバイザーのような存在がいるってことか?』


『そうではありません。この世界には私だけです。異なる世界に同じように存在する異相の原罪龍(シンドラゴン)がいる世界に一人ずつ、ということです』


『……ふむ』


 少し難しいが、たしか原罪龍(シンドラゴン)はこの世界に集中して7体がいるということではなく、魔法が使えるような生命体がいる世界に同時に存在していて、それぞれの世界で原罪龍(シンドラゴン)と戦っている存在がいるって話だったな。

 そこに、サポートシステムさんのような存在がそれぞれにいるってわけか。


『ですが、休眠期に入るイリスにとって数多の世界に自身の分体を派遣しきるのは難しく、できたのは何らかの形でアドバイスを送る精神体となることだけでした。

 ある世界では予言を告げる石として。ある世界では知的生命体に声として。またある世界では魔法の極点への到達者が得られる報酬として。

 それぞれの世界で私たちは原罪龍(シンドラゴン)に立ち向かうための一助となるため、何らかの形で介入したのです』


『それがこの世界では、万有スキルのひとつに潜り込むって形だったわけか』


『……』


『違うのか?』


『……本来は闇の帝王たる存在の意識に介入して、直接的に言葉を送る預言者のスタイルでした。ですが、闇の帝王はああなってしまい、私が介入していた闇の帝王の意識そのものがなくなってしまったので、やむを得ず7つに分かたれた万有スキルのひとつに。

 すべての万有スキルを再びひとつにまとめあげるキーたるスキルに入り込めたのは不幸中の幸いでした』


『……なるほど』


 闇の帝王は産みの親であるアカシャからの責務に失敗し、その存在を消された。サポートシステムさんもそのときに一緒に消えてしまいそうなところを、かろうじて残った万有スキルに入り込むことでその存在を保ったということか。


『パンダ……女神アカシャは、あんたのことを知らないのか?』


 知っていたら安易に闇の帝王を始末したりはしないか?


『世界を管理する神たちは私のことを知りません。原罪龍(シンドラゴン)にイリスの意志の欠片の存在が露見すれば真っ先に潰しに来る。原罪龍(シンドラゴン)に近い神たちには私のことを告げるわけにはいきませんでした。

 神たちの行動から私の存在が原罪龍(シンドラゴン)にバレないとも言えませんので』


『あんたが今の今までそれを隠してたのもそのためか』


『……はい。もしも私のことが彼らに知れていたら、傲慢(プライド)は光の巫女ではなくあなたを連れ去っていたことでしょう』


『……そうなのか』


 それならば、俺を連れていってくれた方が良かったが。

 というか、


傲慢(プライド)はなぜフラウを、光の巫女を連れ去ったんだ?』


『それは、彼女もまた、神殺しの力を持つ者のひとりだからです』


『……光の巫女が?』


 それこそ神の申し子みたいなイメージだが。


『はい。光の巫女はすべてを浄化する光。それは神であっても例外ではありません。そもそも神に近しい力を持つ闇の帝王を滅するためにも使われた力です。その光は、神の威光さえ滅するほどに白く清浄な光なのです』


『……傲慢(プライド)は、それを警戒したわけか』


 原罪龍(シンドラゴン)は罪だ。

 神でありながら闇の極地のような存在。

 フラウの光は、まさに天敵ってところか。


『そして、闇の帝王は神の光の部分を滅するための存在。つまり、闇の帝王と光の巫女はふたりでひとつ。

 闇と光の力でもって、神をも屠る力となるのです』


『フラウの力も必要ってことか』


 そんなことは初耳だが、神に対抗するためには当然の理屈でもあるな。

 傲慢(プライド)は懸念のひとつであるフラウの方を確保したわけか。


『ちなみに、フラウはまだ生きてるんだよな?』


『はい。それは確かです』


『なぜだ? 自身を滅ぼす可能性のあるフラウを、なぜ生かしておく?』


 脅威ならば、さっさと殺してしまえばいい。


『それは……おそらくですが、傲慢(プライド)は光の巫女の力が欲しいのだと思います』


『……欲しい?』


『はい。原罪龍(シンドラゴン)、特に傲慢(プライド)は自身を神そのもの、最高神イリスそのものだと思っている可能性があります。

 イリスとは絶対的な光の象徴。

 神をも屠る神聖な光を手に入れることで、名実ともに神になりたいと考えているのかもしれません』


『……傲慢、だな』


 文字通りの性質といったところか。


『……そんなこと、できるわけないのに……』


 サポートシステムさんはどこか寂しそうに呟いた。

 自分の手で捨て去った手前、彼らに負い目があるのだろうか。


『ですが、傲慢(プライド)が光の巫女の力を使えるようになると危険です。それこそ、本当にすべての世界を滅することさえできるでしょう』


『なんにせよ、奴らを倒さないといけないことに変わりはないってことか』


 フラウのことも助け出さないといけないし、そんなやつにフラウを利用させたりなんてするつもりはないしな。


『……私には、アドバイスすることしかできません。あとは、皆さんにお願いするほか……』


 心苦しいようだった。

 自分のせいで始まったことなのに自分は言葉しか伝えられず、やるのは俺たち。

 そのことを、ずいぶん気に病んでいるようだ。


『ま、気にする必要はない。俺たちも世界を壊されたら困る。力が弱っているのに頑張ってアドバイスをくれるんだ。あんたにはさんざん世話になってる。

 あと2体。

 最後までよろしく頼むよ』


『……ありがとうございます』


 俺が気にするなと告げると、サポートシステムさんは深く頭を下げるように礼を言った。


『でだ。次に戦う憤怒(ラース)ってのは、どれほどの奴なんだ?』


 ルルとプルがふたりがかりで戦う時点で相当なのは分かっているが。


『……正直、今までの原罪龍(シンドラゴン)との戦いが児戯と言われても遜色ない存在かと』


『……そんなにか』


 今までの敵も相当なものだったが、それを優に越えてくると。


『そもそもの戦いの規模が違うので、この世界の最高戦力で挑む他なかったのでしょう』


 それで、ルルとプルなわけか。


『……正直、彼女たちでもどうか……』


『……急ごう』


 なんだか嫌な予感がして、俺はさらなる空へと翼をはためかせた。




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