第三十話 主人公、フラウさんを心配する
「やれやれ。
偉い目に遭ったな」
俺は焚き火に薪をくべながら呟いた。
「…………申し訳ない」
焚き火を挟んで向かい側で、プルは膝を抱えてしゅんとしていた。
あのあと、先に東の調査部隊と遭遇して事情を説明していたから、北の部隊には身元証明も兼ねて説明を代わりにしてもらった。
プルが間違えて放出した大魔力は、神樹の守護者であるルルがプルに渡した加護で、プルを危険から守る時にしか反応しないから問題はないということにしてくれた。
これでプルは神樹の守護者の加護を受ける者として悪い扱いはされないし、脅威的な力を持つ者として警戒されることもない上に、その力を狙う輩から狙われることもないだろうとのことだった。
神樹の守護者を敵に回すのは、魔王を敵に回すより愚かなこと、らしい。
東の調査部隊には、カエデ姫に同行していた黒装束の人もいたためスムーズに話が進んだが、北と東は昔から仲が悪いらしく、どうにもお互いケンカ腰になってしまって、その度になぜか俺が仲裁することになってしまっていた。
ようやく話が終わり、北の部隊は先に発ち、そのあと少し東の黒装束の人と話したのだが、彼らは最初、フラウの所に行こうとしたらしい。
気配を察知するタイプのスキルを持っているため、会ったことのあるフラウが1人で森にいたので心配になって、接触してみようとしたそうだ。
この人たちはどうにも、任務よりも人命を優先するきらいがある。
一応、王命なのでは?と思ったが、その心向きは嫌いじゃないので、特に何も言わなかった。
だが、フラウは自分たちが近付いているのが分かると、まあ逃げる逃げる。
よっぽど捕まりたくない事情でもあるのかと思い、<ワコク>から出立した時からこちらを把握していそうだった俺たちに話を聞くために出向いたそうだ。
この人が仕事が出来る人で良かった。
フラウの課題も失敗にならなかったし、寄り道しても、北の部隊より早く俺たちの所に来たわけだしな。
あと、ごめんよ、フラウさん。
話が終わって東の部隊とも別れたら、辺りはすっかり夜になっていた。
俺とプルは神樹の根がある範囲から離れ、<ワコク>寄りの位置で夜営することにした。
<ワコク>からもらった携帯食料があったので、薪だけ集め、プルに魔法で火を起こしてもらった。
プルにも携帯食料を分けて食べあい、今日はそのまま寝ることにする。
寝る前にプルが簡易結界を張ってくれた。
魔物避けと、防虫の効果があるそうだ。
交代で見張りが必要かと思っていたから、これはだいぶ助かる。
プルにおやすみと声を掛けると、寝息が返事してきた。
俺は床にしいた外套の上に寝転がると、フラウに意識を集中させた。
どうやら南西方向で、一ヶ所に留まっているようだ。
うまく隠れられているのだろうか。
ちゃんと食事はとれているだろうか。
近くに魔獣はいないようだが、虫とかに刺されていないだろうか。
ちゃんと眠れるだろうか。
そんなことを考えていると、
「うるさい」
とプルに怒られた。
どうやら、無意識に呟いてしまっていたみたいだ。
俺はプルに謝って、地面に寝転がり直した。
まったく、会ったばかりの少女のことをどれだけ心配してるんだか。
俺はそう考えて苦笑した。
だが、俺はもう二度と、俺の預かり知る所で、無意に命を散らすことはさせないと決めた。
だから、俺とともにあることになったフラウも、プルも、俺は全力で守るし、フラウが望む姉との邂逅も果たしてやりたい。
そのためには、俺だけじゃなく、フラウにも強くなってもらわなければ。
今は怖い思いをしているかもしれないが、何とか頑張ってほしい。
一週間たったら、フラウが<ワコク>で嬉しそうに食べてた肉料理でもごちそうしてやるか。
そんなことを考えなから、フラウに意識を向けたまま、俺は眠りについた。
俺が寝たのを確認すると、プルは少しだけ微笑んで、再び寝直すことにしたが、俺にはそれを知る術はなかった。
「おなかすきましたー。
暗いし、怖いよ。
ご主人様。
おねえちゃん」