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第二百九十九話 暴食の終わり、そして……

「ぐはっ!」


『……ァ』


 俺とフラウは殿様ごと暴食(グラトニー)を切り裂いた。三振りの鎌は容赦なく2人を両断した。


 遠慮はなかった。

 斬った際に殿様の腕は暴食(グラトニー)の口から外れている。ここで暴食(グラトニー)を倒せなければ俺とフラウは死に、殿様はまた魔力枯渇の苦しみを味わって死ぬ。

 そしてそのあとは暴食(グラトニー)がここを移動するまで、延々と魔力を喰われ続けるのだ。

 フラウには事前に言って聞かせておいた。斬るときは躊躇せず殿様ごといけと。

 その場で殿様自身もそう言ってくれたのもあって、フラウも遠慮することなく剣を振れたのだろう。


『……ァ、ァアア、アアアァ』


 両肩から腰にかけて、そして頭のてっぺんから真っ直ぐに切り裂かれた暴食(グラトニー)はそれでも即死せずによろよろと後退した。

 分断された肉体は、けれど地面に落ちずに形を保とうと宙に浮いていた。


「しぶといやつだのう」


 殿様はすでに復活していた。

 いくら万有スキルの効果が飛び抜けているとはいえ、魔人武器のあれだけの攻撃を受けても即時復活というのはやはりとんでもない能力だな。


「とはいえ、アレはもはや原罪龍(シンドラゴン)でもない。あの傷を再生することはできまい」


『アア……ウアアア……』


 殿様の言う通り、暴食(グラトニー)は斬られた体を保つのに精一杯で、それらを再びくっつけて再生することはできないようだった。

 ただただうめきながら、頭を抱えていた。


『……ア』


 やがて、それすらできなくなったヤツはぐしゃぐしゃと地面に崩れていった。


『……ア……グ……』


 地面に崩れ落ちた暴食(グラトニー)は縦に半分に分かれた口をパクパクと動かしていた。

 しかし、それにはもう捕食フィールドを展開する力は残っていないようだった。


暴食(グラトニー)の形質を持たされて動いていただけのナニカ、か」


 かりそめの肉体にかりそめの魂。

 異界への転送装置として造られた神の真似事。


「……こやつも、もはや憐れな存在よの」


 殿様も同じことを考えていたのか。

 地を這うそれを、それでも無慈悲な顔で見下ろしていた。

 こいつが仲間を、ワコクの兵たちを殺した事実は変わらない。憐れな存在でも、そこに慈悲をかける意義はない、か。


「……影人殿。もう、終わらせてくだされ」


「……ええ」


 殿様は止めを差すことを俺に頼んだ。

 実際、殿様にはもうそれだけの体力が残っていないのだろう。


「フラウ。やろう。

 念には念を入れて、武器を聖剣化してくれ」


「……はいです」


 フラウに刀に戻した黒影刀を渡すと、光の巫女の力を込めて聖剣化してくれた。

 真っ黒な刀身に散りばめられた星々がさらに光り輝き、刀全体がまばゆく煌めく。

 フラウから刀を受け取っても光は消えない。

 光の巫女の力をコントロールできるようになったフラウは魔人武器の聖剣化が可能になっていた。

 そしてフラウは短剣に戻した自分の武器も聖剣(エクスカリバー)にする。

 俺に渡したものよりも光が強烈だ。やはり自分で使うものの方が聖剣としての能力は強いようだ。


『……ア、ア……』


 暴食(グラトニー)はどんどん動きが鈍くなっていた。

 このまま放っておいても勝手に自滅しそうだが、懸念材料は早めに処理しておいた方がいいだろう。


「……よし。やるぞ」


「はいです!」


 準備が整った俺たちはそれぞれ剣を振り上げた。


「安らかにいけ」


 そして、一気に聖剣で暴食(グラトニー)を薙ぎ払った。


『アア! ……ウアアアアーーーッ!!』


 聖剣三振り分の力をまともに受けた暴食(グラトニー)は声をあげながら体が消滅していった。


『……アァ』


 どうやら無事に倒せたようだ。


「よし、これで終わ……」


 ったと思った次の瞬間、


『……この光は、やはり危険ですね』


「……なっ」


 突然、暴食(グラトニー)が流暢に言葉を発した。


『……最後に、いただきます』


「フラウっ!」


『アー!』


「え? きゃっ!!」


 暴食(グラトニー)は口だけを残して消え去り、その残った口が大きく開いてフラウに飛びかかってきた。なぜか口だけが元の形に再生していた。


『グッ!!』


「ごしゅっ……!」


「フラウっ!!」


 フラウは俺に向かって懸命に手を伸ばしていたが、俺がそれを掴む前に、フラウは暴食(グラトニー)の口が生んだ異空間に吸い込まれて消えてしまった。


「な、なんと……」


「くそっ!!」


 掴み損ねた手で拳を握り、地面に叩きつける。

 油断した。

 まさかあそこで最後の力を振り絞ってあんな行動に出るなんて……!

 しかもあの声は、傲慢(プライド)


「どうやら、他の肉体の部位を維持する力を放棄して口のみの再生に成功し、転移装置としての役割を最期に復活させたようじゃな」


 そう。

 転移装置だ。

 フラウはまるごと喰われた。

 つまり、


「……フラウはどこかに転送されただけで、まだ生きているってわけだ」


「そうだの」


 それならば、


『サポートシステムさん。魔人の短剣が今どこにあるか分かるか?』


 俺は魔人武器を統合することができるサポートシステムさんに短剣の現在地を尋ねた。せめてその存在がまだあることぐらいなら分かるはずだ。


『……空間的に隔たれた場所にあるようです。この世界ではないですね。ですが、魔人の短剣もその所有者も、まだ生きていることは間違いありません』


『……そうか。ありがとう』


 俺の知りたいことを汲み取って答えてくれたサポートシステムさんに感謝を伝える。

 今はその人間臭さに突っ込むのはやめておこう。


『天竜』


『はい』


 俺は続けて天竜に念話を送った。


『フラウがどこの空間にいるか分からないか?』


『申し訳ありません。私の能力では世界を繋ぐことしかできません。把握はルルの分野になります。

 少なくとも私からフラウさんに念話を繋げないので、この世界にはいないことは間違いなさそうです』


『……そうか。わかった』


 この世界ではない異空間に閉じ込められているのか。

 傲慢(プライド)はフラウの光の力が危険だと言った。ヤツからしてもその力は脅威だということだ。

 しかし、フラウを殺すことはせずに閉じ込めることにした。

 その理由はなんだ?

 フラウの力を利用しようとでも言うのだろうか。


 なんにせよ、まずはフラウを見つけなければ。


「……殿様。俺はこのままルルたちのところに行きます」


「うむ。忙しないが仕方ないな」


 結局は当初の予定通りではある。

 地上の原罪龍(シンドラゴン)はすべて撃破した。

 あとは空で戦うルルたちと合流して憤怒(ラース)を倒し、すべての万有スキルと魔人武器を統合して神とともに傲慢(プライド)を討つ。

 ルルに会えばフラウの居場所も分かるだろう。

 結局は当初のルート通りだ。


 焦りや怒りはある。

 けれども今は冷静に進むしかない。


 冷静に急げ。


 俺は自分で自分にそう言い聞かせた。


「まずは皆から万有スキルと魔人武器を与らないと」


 俺は天竜を通して皆を集めることにした。

 まずはルルたち以外の力を集めて空に向かう。


「しかし、影人殿も戦いづくめだろう?

 体力の方は大丈夫なのか?」


 殿様が心配した様子で気遣ってくれた。

 たしかに色欲(ラスト)のときからほとんど休まずに来ているが、


「問題ありません。皆が頑張ってくれたので俺自身がメインで戦った回数は少ない」


 実際、嫉妬(エンヴィー)とのときに力を多少使ったぐらいだ。


「……それに」


 自分の手のひらを見つめる。


「むしろ、力が溢れてくる。

 闇の帝王の称号を手に入れてから、逆に抑えきれないほどの力が奥底からとめどなく流れてくるようです」


「……」


 これならば、三日三晩は戦い続けられそうだ。


「だから俺の心配は無用です。

 必ずフラウも助け出し、ヤツらを倒します」


「……そう、か」


 殿様は納得していないようだったが、この力ならきっとヤツらも倒せるだろう。


「まずは皆を召集しましょう」


 そうして、俺は天竜伝いに万有スキルと魔人武器の所持者をここに集合させたのだった。




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