第二十九話 影人、また幼子をゲットする
「ふう。
戻ってきたか」
俺は転移魔方陣で、再び神樹の根元に帰ってきた。
辺りは日が落ち掛けていた。
「さて、フラウは……
どうやら無事みたいだな」
俺はさっそくフラウの気配を探ったが、先ほどフラウと別れた場所からあまり離れていないようだ。
今は身を隠しているのか、一ヶ所に留まっている。
「…………」
「…………」
この子は誰だろう。
俺と一緒に転移してきたのか、俺の隣で俺の方を見上げている。
ルルよりは小さい。
フラウと同じぐらいか。
細くてキレイな黄金色の髪を、左右の高い位置でツインテールにしている。
感情を感じさせない座った瞳。
まるでルルの妹といった感じの容姿だ。
ルルはライトグリーンの瞳だったが、この子は薄紫の瞳だ。
「…………」
どうしよう。
このまま見なかったことにして立ち去ってしまおうか。
『ちょっと!
今このまま立ち去ろうとしたでしょ!』
ちっ!
気付かれたか。
頭の中に突然、ルルの声が響いた。
『ルルか。
この子はなんだ?』
これが念話か。
サポートシステムさんと話すのと同じ感覚だな。
『その子はプルプラ。
プルって呼んでるわ。
さっき、この森に棄てられていた孤児の話をしたけど、それは、その子のことなのよ。
ユリエが感知して、私が拾ったわ。
最低限の知識と技能は教えたから、そろそろ外の世界を見せてやりたくてね。
でも、ユリエは外に行きたくないからって、ずっとここにいる子だし、私は神樹から離れるわけにはいかない。
誰か強くて頼りになって、プルを預けても安心な子はいないかなーって思ってた所に、ちょうどいいカモが現れたのよ』
おい。
カモって言い方!
『あなたなら、フラウちゃんの面倒もちゃんと見ようとしてるし、適任かと思って、お願いしまーす!』
『あ!おい!』
切りやがった。
パンダといい、ルルといい、今度会ったら、とりあえず一回どつかせてもらおう。
「…………」
「…………」
あ、さっきからずっとこっち見てたのね。
待たせて悪いね。
たちの悪い君の姉に捕まっててね。
「あー、プルでいいのかな?
ルルから話は聞いてるか?」
俺は覚悟を決めて、目の前の少女に話し掛けた。
「聞いてる。
影人についていけって。
さっきも、ルルから念話で話を聞いてた。
とりあえずついていって、協力すればいいって」
プルは無表情で端的にしゃべった。
最初のルルの話し方はこの子をモデルにしたようだ。
「ずいぶんざっくりした内容だな」
俺がそう苦笑いすると、
「だって、ルルだから」
と、ぽつりと呟いた。
うん!
この子とは、なんだかうまくやれそうな気がする!
「君はそれでいいのか?
こんなよく分からない奴についていくことになって」
いくら育ての親に言われたからって、知らない男にほいほいついていくとか、むしろ俺が心配なんだが。
「だいじょぶ。
あなたからは危険な感じがしない」
それは光栄です。
「分かるのか?」
「何となく」
プルはコクリと頷いた。
「それに、その辺の男には負けない程度の魔力はある」
そう言われて、プルの魔力を感じてみたが、魔法を使える一般人とそんなに変わらない魔力量しか感じ取れなかった。
「君も、ルルみたいに魔力の隠匿ができるのか?」
「できる」
それはすごい。
正直、この技術だけならルルよりうまいんじゃないかと思えるほど、見事に魔力を隠している。
「見せる?」
プルはコテンと首を横に傾けた。
ルルのはあざとさを感じてしまったが、天然だと可愛いもんだな。
俺は思わずそんなことを考えてしまった。
カエデ姫たちがいたら大騒ぎだろう。
「そうだな。
あんまり大規模にやると周りに迷惑だし、調査に来られても困るから、人間軍の魔法部隊の人の魔力がどれぐらいか分かるか?
分かれば、それぐらいの魔力を出してもらいたいんだが」
「分かる。
これぐらい」
プルはそう言うと、自分の周りにぶわっ!と魔力を放出した。
その魔力はプルの身に纏わり、揺蕩っている。
「いや、多くないか?」
その魔力は、ライズ王子の部隊にいた人よりも明らかに大きく、ザジと良い勝負だった。
「あ、間違えた。
これは宮廷魔術師の偉い人ぐらいだ」
うおぉい!
表情がないからボケなのかも分からん。
「失敗失敗」
と言いながら、プルは自分の魔力を抑えた。
「次は失敗しないように頑張ろうな」
「ん、がんばる!」
俺の苦笑いに、プルはぐっと拳を握って応えた。
一瞬だったし、バレてないよな?
いくらなんでも、あれだけで調査部隊が派遣されてきたりしないよな?
その後、影人の期待を裏切って、各国から調査部隊が派遣され、影人はその説明に奔走した。
影人の存在が事前に認知されていたため、何とか難を逃れることにはなったが、その被害を最も被ったのは、あの少女だ。
「え?
なんか急に人が増えましたよ!
わっ!
あっちからも!
え?
こっちからも!
とりあえず隠れなきゃ!
もー!
なんでですかー!」
そう。
人との接触を禁止されているフラウさんだ。
初日からハードコースまっしぐらなフラウさんでした。