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第二百七十九話 墜ちてくるモノ

『……ォオッ!』


 俺の背後に突然現れた色欲(ラスト)が大鎌を振るう。


「くっ!」


 それを刀でいなしながらかわし、すれ違いざまに刀に闇の力を纏わせて胴を薙ぐ。


「……手応えは、あるんだがな」


 胴を真っ二つにする勢いで振っているし、斬った手応えもちゃんとある。

 にも関わらず色欲(ラスト)はさして気にした様子もなく姿を消す。

 ダメージを与えられている気がしない。

 当てることはできてもダメージにはなっていないようだ。


「この、姿を消すのも厄介ね……」


 ミツキの息が上がってきた。

 ずっとエルフ化した状態で戦っているし、神出鬼没な色欲(ラスト)に翻弄されて疲労が蓄積しているようだ。

 女王は10分間耐えろと言っていたが、戦闘中の10分は状況によって倍にも10倍にも感じる。実際、まだ2、3分程度しかたっていないだろう。


「闇に紛れる力は嫉妬(エンヴィー)の能力よ。もともと実体のないレイス系の存在である嫉妬(エンヴィー)が地で持つ能力ね」


「なるほどな」


 桜が言うように、嫉妬(エンヴィー)には実体というものがないらしい。

 だからこそ物理攻撃が効かないのだろう。

 嫉妬(エンヴィー)のもともとの攻撃方法はまともに姿を捉えられないことを活かした暗殺のようなものが得意らしい。今の奴のように背後に突然現れて鎌で一撃、というわけだ。

 また、肉体を持たない嫉妬(エンヴィー)はレイスの名の通り憑依能力もあるらしい。

 味方の肉体を人質に取られた上に神出鬼没に即死攻撃をされたらたまったものではない。こいつが人が密集したマリアルクスなんかに現れていたらと思うとぞっとするな。


「レイスの憑依能力ってのは今は使ってこないんだよな?」


「そうね。今は色欲(ラスト)に憑依してる形になってるし、色欲(ラスト)の能力でほとんど自我もなくなっちゃってるからその心配はないと思うわ」


 事前に聞いていた情報ではその憑依能力に気を付けろとのことだったが、どうやらその心配はないようだ。

 色欲(ラスト)と合わさったことで嫉妬(エンヴィー)はたしかに強くなったのかもしれないが、自身の一番の攻撃方法を失う形となってしまった。

 傲慢(プライド)とやらはなぜそうまでして嫉妬(エンヴィー)のもとに色欲(ラスト)を向かわせたのだろう。


「……色欲(ラスト)がここに来るまでの間、嫉妬(エンヴィー)は憑依能力を使わなかったのか?」


「んー、どうだろ。でもたぶん、どっちにしろ女王の魔人の鎌は魂に直接ダメージを与えるから、誰かに憑依していようが関係なく嫉妬(エンヴィー)をぶった斬れるからあんまり意味なかったんじゃないかしら」


「そういうことか」


 憑依したところで女王には通じず、頼みの即死攻撃も不老不死の吸血鬼(ヴァンパイア)にはたいした意味をなさない。

 嫉妬(エンヴィー)はこの国に封印されていた時点で詰んでいたわけだ。

 それを色欲(ラスト)の力で無理やりブーストすることで吸血鬼(ヴァンパイア)たちに対抗したってところか。

 結果として今は自分で自分の首を絞めていても、そのときにはそれが最善だったんだな。


『……ォオッ!』


「おっと」


 だが、今となっては肉体があることが逆に不利になっている。

 どうやら今の奴は半実体のような状態で、攻撃の瞬間には実体化しなければならないし、こちらの攻撃も魔人武器ならば簡単に通る。

 消えて、突然背後に現れるのも慣れてしまえば対応はそう難しくない。


 自我もないから戦略もあまり立てられないのだろう。

 さっきから同じような攻撃が多い。


「よっ、と」


 先ほどまで翻弄されていたミツキも慣れたようだ。

 背後に突然現れる色欲(ラスト)を軽く避け、一撃をいれる。

 さっきからその繰り返しになっていた。


「……千日手だな」


 あちらは手詰まり。

 こちらは女王を待つだけ。

 これは勝敗が見えたか。


 そう思ったときだった。


「……ん?」


 夜想国の上空で戦う俺たちのさらに上空に、違和感を感じたのは。


「影人! 上! 何か来る!」


 桜もそれに気付いた。

 そう。

 何かが空から落ちてこようとしている。


『……ヴ?』


 色欲(ラスト)も姿を現して上を見上げた。

 どうやらこいつにとってもイレギュラーらしい。


「……なんだ?」


 眼を凝らすと、だんだんとその影が近付いてきていることが分かった。


「……ねえ。ちょっと……ううん。かなり、おっきくない?」


 ミツキがその影を捉えて呟く。

 まだまだ遠くにいるが、それはたしかに、かなり……。


「……おい。これ、マズいんじゃないか?」


 近付いてくるにつれて、それがとんでもない大きさであることが分かる。

 しかもひとつではない。

 ふたつ。

 いや、2体。


「……2体の、ドラゴン?」


 それは2体の巨大なドラゴンだった。

 それが組み合い、争いながら遥か上空から落ちてきていた。


「……いや、こいつら、夜想国並みにデカいぞ!」


 こんなのが落ちたら、死にかけの吸血鬼(ヴァンパイア)もこの国も終わりだ!

 というか、まず俺たちもヤバい!


『ご主人様ぁっ!』


『フラウっ!?』


 慌てて逃げようとしていると、フラウから念話が届く。正直、今はそれどころではないんだが。


『ごめんなさいです! なぜか急に怠惰(スロウス)さんが封印から出てきて、天竜さんが応戦して、そしたらなんでか私とお姉ちゃんも天竜さんの背中に乗っちゃってて、それでいつの間にかこんなところにまで来ちゃってたです!』


『落ちてきてるのは怠惰(スロウス)と天竜なのかっ!? というか、フラウたちもそこにいるのか!』


『はいです! ごめんなさいです!』


 いや、情報過多すぎる!

 怠惰(スロウス)の封印が解けたことも、戦いになったことも、こんなところにフラウたちとともに来ていることも。

 だが、今はとりあえず落ちてくるアレを何とかしないと!


「桜! 扉で別のところに飛ばせないか!?」


「いや、さすがに無理よ! あんだけの大質量で、しかも原罪龍(シンドラゴン)と天竜でしょ? そんなの移動させることもできないわ!」


「くっ……」


 桜の『世界の扉』は移動に魔力を消費する。それは移動させるモノの質量や強さに比例するから当然といえば当然か。


『……ヴ』

 

「……色欲(ラスト)は逃げたか」


 上を見上げていた色欲(ラスト)が再び闇に消えた。実体化していなければアレが落ちてきても何の問題もないと判断したか。


「ちょっ! とりあえず逃げましょ! スカーレットも一旦【魅了(テンプテーション)】解除して逃げるわよ!

 吸血鬼(ヴァンパイア)たちは完全に死なないことを祈るしかないわ!」


「仕方ないわねん!」


 ミツキの言う通り、女王には申し訳ないが逃げるしかないか。

 再生力が残っていれば吸血鬼(ヴァンパイア)たちは粉々になっても時間はかかるが復活できる。


「分かった! 行こう!」


 俺たちはとりあえず色欲(ラスト)のことも放置して、全員で逃げることにした。

 スカーレットの【魅了(テンプテーション)】が解除されて吸血鬼(ヴァンパイア)たちが動き出すが問題ないだろう。

 むしろ俺たちを襲おうとついてきてくれた方が何人かは助かるかもしれない。


 まずは全力でこの場を離れるとしよう。




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