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第二十七話 月影の魔女

「私は長らくマリアルクスの宮廷魔術師長を務めておりましたが、年齢的にもそろそろ引退でもしようかと考えていた所、女神アカシャ様から神樹の守護者になるよう啓示を受け、『月影の魔女』として、この地に居を移すことになりました。

この感知結界も、その際に女神様から授かったものです」


『月影の魔女』はお茶を飲みながら、そう説明してくれた。


「なるほど。

そうだったのですね。


それで、この子は?」


俺はその話に相槌を打ちつつ、さっきからお茶菓子をパクついている少女のことを尋ねた。


「女神様の恩恵を頂戴しているとはいえ、やはり私もそろそろ年です。

私の後継となる者を育成していかなければなりません。

その子、ルルは、1年ほど前にこの森に棄てられていた孤児で、私が保護したのですが、魔法に対して並々ならぬ興味と素質を有していたので、この子を私の後継として、私の技術を教えていくことにしたのです。

その結果、たった1年でこの子は重力魔法や転移魔法の魔方陣即時発動が可能なまでに成長しました。

今では、私の代わりに神樹の守護の大半を担ってくれています」


『月影の魔女』はそう言ってルルの頭を撫で、目を細めた。

ルルはそれに気付かないかのようにお菓子に夢中だった。


てか、食べすぎたろ!

俺の分も残しておいてくれ!



その後も各国との関係性や、神樹の加護によって人間の領域内では、人間の魔法抵抗力などがわずかながら上昇することなどを聞いて、『月影の魔女』の話が一段落した。





「なるほど。

とても参考になりました。

少なくとも、あなた方が敵ではないことが分かって安心しました」


そう言って胸に手を当てると、


「そうですか。

それなら良かったです」


と、『月影の魔女』も胸を撫で下ろしたようにティーカップを持ち上げた。



「で、その話のどこまでが本当なんだ?」



「え?」



「!」



俺がそう言うと、『月影の魔女』は口元まで運んだティーカップをピタリと止めた。

ルルも無感情にこちらを見ている。


「何を仰っているのですか。

私は嘘など吐いていませんよ」


『月影の魔女』はやんわりとした笑顔で平然と述べていたが、手が若干揺れているのを俺は見逃していない。

それに気付いたのか、『月影の魔女』は自分を落ち着かせるために、ゴクリと喉を鳴らしてお茶を一口飲んだ。


「俺にはあなたの過去など分からないので、宮廷魔術師長うんぬんの話は本当だとしましょう。

この感知結界も、おそらくあなたのスキルなのでしょう。

だが、あなた1人の力ではないはずだ。

この広大な神樹の森全域を覆うほどの感知結界。

そんなもの、張ることは出来ても、収集した情報をたった1人で処理しきるなんて、到底不可能だ。

女神様の加護。

とでも言いたいのだろう?」


俺はところどころで口を挟もうとしてくる『月影の魔女』に話させないために、話をまくし立てた。


「確かに女神の加護は強力だ。

真に女神の加護を受けたスキルなら、神樹の森全域を覆うほどの感知結界の情報も処理できるかもしれない。

だが、この感知結界には女神の加護の神性が感じられない。

<ワコク>のカエデ姫に聞いた話だが、女神の加護を受けたスキルは強力な効力と神性を帯びるそうだ。

そして、そのスキルには女神の称号か名を冠した名前が与えられるという。

実際に、【守護女神】のスキルを持つカエデ姫に聞いたのだから間違いないのだろう。


そして、俺は<ワコク>を出入りする時に、その神性に触れた。

人間の領域全域に張られた結界からもそうだが、特に<ワコク>に張られたカエデ姫の結界からは強い浄化の力を感じた。

あれが神性ってやつなんだろう。

だが、この神樹の森を覆う感知結界からは、その神性が感じられない。

そもそも、浄化の力があるのに魔獣がいるのがおかしな話だしな。

そこで俺は思った。

この感知結界は張るだけしか出来ないんじゃないかと。

つまり、この広大な土地にデッカい感知結界を張るのがあなたの仕事で、その収集した情報を処理している者が他にいるのではないかと。


それに、どう考えてもおかしい。

たった1年育成しただけで、師よりも圧倒的に強い弟子が出来上がるなんて。


なあ。ルル」


「!」


「え、えと、わたし、わたしは、そんな…………」


「ユリエ。

もういいから」


俺の口勢に『月影の魔女』が慌てていると、ルルが優しくユリエと呼ばれた彼女に声を掛けた。


「彼には初めからバレてた。

大丈夫。

ごめん。

無理をさせた」


もともとあまり感情を表に出さないのか、声は優しいものだが、表情にはあまり変化が現れない。

それでもルルの気持ちが通じたのか、『月影の魔女』はふーっと深呼吸すると、ようやく落ち着いたようだ。


彼女が落ち着いたのを確認すると、ルルはようやくこちらを向いた。

無表情のように感じられるが、何となく警戒と敵意を向けられているのが分かる。


「お察しの通り、彼女は私の隠れ蓑として『月影の魔女』を拝命した子。

本名は月影百合枝。

彼女はこの地に降り立った、最初の転生者」


「なっ」


「そして、私はこの地に神樹が芽吹いた時から、この神樹を守護してきたエルフ。

ルル=ド=グリンカムビ。

常に神樹とともにある、『時を作る者』」





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― 新着の感想 ―
[良い点] ルルが元転生者?そして時を作る者!話が大きく動き出しそうです。
[良い点] また読ませていただきました! すごいスピードで話が進んでいきますね! テンポがいい話はとても好きです。 そして出てきた時をつくる者…… あと、主人公は何者!? って感じですw ま…
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