第二百六十九話 解散
『全ての万有スキルと魔人武器をひとつに戻す?』
『はい』
サポートシステムさんは新たに取得したという能力をそう説明した。
もともとは闇の帝王が所持していたという万有スキルと魔人武器。闇の帝王の死後、それらはそれぞれ7つに分かたれたと聞いたが。
『俺はてっきり7つの武器とスキルを入れ換えながら戦っていたのかと思っていたが、もとはどちらもひとつの武器とスキルだったのか』
『はい。武器はその都度、使用者の望む形態に変形してましたが、スキルはもともとひとつでした。
それが神との激突によって、武器は今まで使ったことのある形態7種に分かれ、スキルもまた系統別に7種類に大別されたのです』
『ふむ……』
あれほど強力な能力を有するものが、もとはひとつだったのか。
それを束ねていた闇の帝王は、やはり戦闘特化と言わざるを得ないだろう。
とはいえ、分かれていた方が使いやすいというのもある。力を分散した方がその能力のみを極めることもできるだろう。
かつての闇の帝王が今のそれぞれの魔人武器と万有スキルを合わせただけの能力を有していたかどうかは微妙なところだな。
『……それで、万有スキル『百万長者』には、それらを再びひとつに合わせる能力があると』
『その通りです』
『……ふむ』
やはりそれもまた、あのパンダの思惑通りなのだろう。
そもそも闇の帝王自体が原罪龍を討伐するために創られたようなものだ。
その力を継ぐ俺に再び力を集め、原罪龍どもを倒させようと言うのだろう。
ヤツは闇の帝王を完全に討ち滅ぼしたつもりが、その因子がたまたまあっちの世界に飛んでいた、などと言っていたが、もしかしたらその力を惜しいと思った神がわざとその因子だけをあっちの世界に逃がした可能性もある。
自分に反逆した魂だけを消し、新たな魂にその力を受け継がせて。
そして、それが俺。
『……あり得ない話じゃないな』
『マスター?』
頭のなかで無意識に呟いた言葉にサポートシステムさんは首をかしげるように応えた。
どうやら、彼? は俺が頭のなかで話しかけようと思わなければ思考は届かないようだ。
『……なあ、サポートシステムさん』
『なんでしょう』
『……結局、あんたはなんなんだ?』
『……仰っている意味がよく分かりません』
『システムのくせに、返答にタイムラグがあったな』
『……』
『俺は最初、パンダとかルルとかのくせ者ばかりのこの世界で唯一の良心だと思ったが、しょせんはシステム。機械的な存在なんだと思っていた。
だが、あんたは変に人間くさい』
『……』
『まあ、あの神の創ったものなんだろうから一概には言えないが、俺にはあんたがただのシステムには思えない。
そんなものに任せるには重すぎる役割だ』
『……逆に、だからこそ機械的に判断するシステムが入れ込まれたのかもしれないですよ』
『……もう、その返答がシステムじゃないんだよな』
『……』
『……まあいい。あんたには感謝してるし、べつにそれが分かったところでどうこうというものでもない。
今さらどこで誰が糸を引いていても驚かないしな』
『……それがいいでしょう。今はまだ、私はたただのサポートシステムですから』
『……そうか』
時が来れば、ってことね。
『それならいい。これからもよろしく頼む』
『はい。マスター』
『あ、そうだ。魔人武器や万有スキルを集めるにあたって、いろいろ聞いておきたいことがあるんだが』
『なんなりと』
「ふーん。つまり、魔人武器と万有スキルをあんたに渡すことになるわけね」
結局、俺はあのあと魔人武器と万有スキルの所持者にもう一度集まってもらった。
俺の新たな能力について説明するためだ。
「これ、けっこう気に入ってたんだけどなー」
ミツキが魔人の弓を残念そうにさする。
魔人の弓を持つとミツキはエルフ化していた。
どうやら同期して、魔人の弓に触れるとエルフ化がかかるようにしてあるようだ。
「悪いな。原罪龍の相手をするのに必要なようだ」
と、神のヤツは考えているのだろう。
「……たとえば、『真祖』や『双子天使』を渡したら、それを持っていた者はどうなる?
本来の寿命をとっくに迎えていたものはその時点で死ぬのか?」
マリアルクス王がそう質問してきた。
結局、情報共有してあった方がいいだろうということで魔人武器と万有スキルの所持者にはそれぞれの能力が説明された。
というか、ルルが勝手に話した。
マリアルクス王は不服そうだったが、背に腹はかえられないといったところだろう。
「いや、スキルを得た時点で時間は止まってるので、不死性が失われるだけで、今の状態から再び寿命なんかの時間がスタートするようですね」
「……それなら、まあまだいいか」
マリアルクス王は不満そうではあったが、しぶしぶ受け入れたようだ。
「……ふむ。私も構わないが、原罪龍を相手取るのに『真祖』の力がないというのは厳しいのではないか?
力を集めたとはいえ、影人がその全てを相手取ってくれるわけではないのだろう?」
吸血鬼の女王が懸念を話す。
彼女の言うことはもっともだ。
「その通りだ。ルルが言うには、各地の封印はほぼ同時期に解けるらしい」
「そーね。多少のラグはあっても、あんまり変わらないと思うわ」
「だから、皆にはやはり原罪龍と戦ってもらわないといけない」
「ならどうするんだ?」
「俺が、各地を順に回るしかないだろうな」
「ふむ」
「まずはエルフの大森林で色欲を迎え、戦うにせよ何にせよ、事が終わり次第ミツキから魔人の弓を預かってワコクへ。そこで暴食を倒したらノアや殿様たちから回収して次へ……と言った形だ」
「ふむ。それならいいか」
「もちろん、各自で原罪龍を倒していたらそちらから渡しに来てくれると助かる。
で、最終的には天竜とルルのところを経由して、神を手伝いにいく感じになるだろう」
おそらく、それが神の考えなんだろうからな。
つまりは、そんな手助けさえ必要なほどに神と傲慢の実力は拮抗しているということなのだろう。
「おっけー。じゃあ、影人のとこに渡しに行けるようにしておくわね」
「ああ。よろしく頼む」
桜は気安くそう言ってのけた。
神の敵対者である魔王だが、味方になればこれほど頼もしいものはないな。
「よっし。じゃあ、今度こそそんなとこね。
時が近くなったらまた連絡するから、それまで各自万端の状態で準備しといて。
じゃ、解散でー」
話が終わるとルルはさっさと手を振って皆を各地に飛ばした。
どうにも緊張感がわかないが、この方が逆に気負わずに済むのかもな。
こうして、各地に散った面々はそれぞれの担当の土地で準備を進めた。
兵たちも神の脅威の討伐ということで気合いは十分なようだ。
そして、その時はすぐにやってくるのだった。