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第二百六十三話 静養

「……あー。これはもうだいぶですね~」


 そこは虚無空間の世界へと繋がる封印の扉。

 本来は何も存在し得ないはずの世界。

 しかし、その扉の先にはひとつの存在があった。

 静かに眠るその存在がまもなく目を覚まして扉を破壊するであろうことを、その世界と封印の扉を創った女神アカシャは感じていた。


「うーん。やっぱりイリス様のお目覚めは間に合わなそうですね~。というより、イリス様の休眠期に合わせて力が増幅してる、ってとこですかね~」


 扉に手を触れながらアカシャはその時が近いことを感じ取っている。


『アカシャー。こっちもだいぶキてるわねー』


『こちらもです。もうすぐ封印が壊されるでしょう』


『ルル。天竜。やっぱりですかー』


 そこに神樹の守護者であるルルと天竜から念話が入る。

 2人は別の封印の様子を見ているようだ。


『夜想国の方もヤバいみたい。ヴラドがせっかく復興が進んできたのにって文句言ってたわ』


『あー、あそこは暴食ですもんねー。封印が解けたらまた都が壊れてしまうかもしれません』


『その時はあんたが責任もって直してあげなさいよ』


『え~! なんでですか~!』


『アカシャさん。そういうものですよ』


『む~。分かりましたよ~』


 ルルと天竜の2人に言われて、アカシャはブー垂れながらも了承したようだった。


『……とはいえ、あまり時間がないわね。地上の方は皆が動けるようになったら早めに話をまとめるわ。

 そこの封印のはあなたに任せるわよ?』


『仕方ないですー。一番強くて厄介なのを私が何とかしないとですもんね』


『……あとは、あいつの完成次第ね』

















「影人殿。体の具合はどうですかな?」


「ええ。おかげさまでだいぶ回復しました」


「それは良かった」


 魔王軍との戦争から7日がたった。

 俺たちは<ワコク>でのんびりと体を休めていた。

 いや、正確には『俺は』か。


 プルはルルの手伝いとかで消えたし、ノアは一度巨人族の国に戻った。

 ミツキはなぜかエルフの長に、半ば強制的に大森林に連れ去られていった。


 そして、フラウと姉のセレナは挨拶もそこそこに、やることがあるからと2人でどこかへ行ってしまった。


 なので、俺はいま1人で<ワコク>にいる。

 この国は温泉が名物でもあるから療養にはもってこいだった。

 そして今まさに、俺は殿様と一緒にのんびりと温泉に浸かっているのだった。


 自分で動けるようになるのに3日かかった。

 どうやら全身の筋肉が断裂しかけていたらしい。一度プルに治癒魔法をかけてもらったあとも<ワコク>の治癒魔法の使い手に何回も治癒してもらってようやく動けるようになった。

 一週間たって、今は普通に動くことはできるようになった。

 以前のように戦闘行動を取れるようになるにはまだ少しかかりそうだ。


「……反動、か」


「ん? 何か言いましたかな?」


「いえ……」


 あの力は強力だが自身への反動が凄まじい。

 とはいえ、あれだけの力を出すことも出来るのだということが分かった。

 さすがに擬似魔人武器を生成するのは難しいだろうが、黒影刀を媒介にあれだけの出力を出すのは不可能ではないかもしれない。


「……」


 あれだけ暴走していた闇の帝王の因子だが、今はなんの反応もない。闇の力も以前と同じ。

 いや、前よりもより明確にその流脈を感じられるようになった気がするか。なんというか、力の総量を感じ取れるようになった。

 その操作に慣れることができれば今まで以上の戦いができるだろう。

 だが、やはりその力の総量は凄まじい。

 ルルや天竜に感じた次元の違う強さ。それに匹敵する気がする。


「……影人殿」


「!」


 湯につかりながら考えていると、隣でくつろぐ殿様が声をかけてきた。


「<マリアルクス>の復興はほぼ完了しつつある。そろそろ神樹の守護者様から連絡があるだろう。

 そこで各位からさまざまな情報の開示があるはず。ワシも、秘匿していた情報を話すことになる。

 影人殿に課されたものはひどく重いとは思うが、どうかこの世界のために、力を貸してくだされ。他の世界から来た方に頼むのも気が引けますがな」


「……」


 殿様は申し訳なさそうに笑った。

 彼は彼で抱えているものがあるのだろう。


「……俺の世界はすでにここです。俺も、自らの居場所を守るために力を尽くします」


「……そうか。それなら良かった」


 いつの間に持ってきたのか、殿様は熱燗の盃を傾けていた。


「……今宵は、良い月ですな」


「……ええ」


 盃に映る月は、かつて<ワコク>で見たときと同じ真っ赤な満月だった。

 なんだか以前よりも赤い気もするが、少し湯に当たりすぎたか。


「やっ」


「おわっ!」


「プル!?」


 殿様と2人でのんびりと月を見上げていたら、突然目の前にプルが現れた。

 思わず2人して立ち上がる。


「準備ができた。そっちもだいたい大丈夫っぽいから迎えに来た」


「そ、そうですか。思ったより早かったですな」


「影人も、もう準備はおけ?」


「あ、ああ。本調子ではないがとりあえず動けるようにはなった」


 ホントにいきなりの登場だな。


「大丈夫。すぐに前以上に動けるようになる」


「……それも含めて、おまえたちの計算通りか?」


「……私は何も聞いてない」


「……そうか。ところで、」


「ん?」


「視線を下に一点集中するのはやめてくれ」


「……ふっ」


 なぜ鼻で笑う。


「お父様! 影人様っ! どうしましたっ!?」


「カエデ!」


 そして、突然現れた侵入者を感知して浴場に入ってくるカエデ姫。


「……あ」


 そして、全裸のまま振り返る俺と殿様。


「き、き、きゃああぁぁぁぁーーっ!!」


「ちょ、やめっ! 結界で切断しようとするでなーい!」


「……やれやれ」


 とりあえずもう少し湯につかるとするか。




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