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第二百六十話 迎えに来た光と闇の過去

 ……ずっと、暗い暗い闇の中にいた。


 どれだけの時間、そこにいただろうか。


 もはや自分が何なのか。


 何をしようとしていたのか。


 何も、分からなくなっていた。




「……?」




 そんな闇に、一筋の光。


 闇の虚空から、スポットライトのように自分を、俺を、照らす光。


 そうか。

 俺か。俺は俺を、俺と呼んでいたな。


 闇を照らす光が強くなっていく。

 その度に、俺は俺を思い出していく。


 光がその闇の世界を半分ほど照らしだした頃、俺は大方の記憶を取り戻していた。



「……くそ。何がなんとかするだ」



 そして、急激な自己嫌悪。

 おそらくは闇の侵食によってまだ心が弱いからだろう。

 だが、自分で飛び込んでおいてあっさりと闇の帝王の因子に飲み込まれたのは事実だ。


 結果、皆に多大な迷惑をかけた。

 あまつさえ、皆を殺そうとした。


「……」


 うつむき、落とした俺の肩に小さな、本当に小さな、それでいてとても大きく温かい手がぽんと優しく置かれる。


「ご主人様。お待たせです」


「……フラウ」


 顔を上げると、そこには優しく微笑むフラウの姿があった。

 世界がよりいっそう光に満たされていく。


「……そうか。神託の巫女の、フラウの姉の封印を解けたんだな」


「はいです!」


 ルルから事前に聞かされていた。

 もしも闇の帝王の因子に飲み込まれたら、2人の巫女の力でもってでしか解放できないと。

 そして、もしそれが無理そうならルルが俺を消すと。


「……そうか。消されずに済んだのか」


「え?」


 死に損なった、などと思うのはおこがましいな。

 迷惑をかけたのだから、精一杯それに報いるべきだろう。


「……いや。フラウありがとう。助かったよ」


 そう言って頭を撫でてやると、フラウは嬉しそうに笑った。


「はいです!」


 太陽のような笑顔。

 俺は、これを守るためにも生きていかないといけない。


「……行こう。力を貸してくれ、フラウ」


 俺1人では出来ないことも、皆となら……。


「はいです!」


 俺の差し出した手をフラウはしっかりと握る。

 世界を照らす光はさらに強くなり、やがて世界のすべてを照らした。


 意識が昇っていく。

 夢から覚めるような感覚。

 現実に戻ろうとしているのだろう。


「……!」


 そして、目が覚める瞬間、俺は俺の記憶にはない情景が映像のように目の前に広がるのを感じた。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おはよ~。起きましたねー」


「? なんだここは。俺は?」


「君は魔人です。私が創り、ルルと天竜が整えた世界。君はそこの第一知的存在として世界を盛り立てていってくださいね。

 君だけは新たな魔人を個で生み出せるようにしてあるけど、君が生んだ魔人は異なる性別同士で子を成さないといけないから、そこはうまく指導してあげてくださいねー」


「……分かった」


 俺の創造主。

 こいつの命令は絶対。


「あ、そうそう。君には聖なる力を持つ天竜とは逆の闇の力を与えてあるんですよ。あなたが生んだ魔人にもその素養が引き継がれて、あの世界ではおそらくすぐに食物連鎖の頂点になると思います。

 ですが、そんな彼らがあまり暴走しすぎないように管理はしっかりとお願いしますね。

 正直、世界を生み出した時点で私の手を離れているので、滅びてしまうのならそれはそれで仕方ないんですが、私が与えた力のせいでそうなるのはちょっと心苦しいのでー」


「……ああ。分かった」


 自分が生み出したもののことはどうでもいいと言いながら、俺が生み出すものには責任を持てと言う。

 俺は神の言うことに違和感を持ったが、すぐに、神はそういうものだ、神に逆らうなと俺の中の何かが俺に言い聞かせた。





 そして、それからずいぶん長い、永い年月が過ぎた。



「寄越せ! 俺のものだ!」


「俺のだ! この世界は、すべて俺のものだ!」


「私のものよ! 森も山も、動物たちも、みんなみーんな私の!」


「黙れっ! 私が本気になればこんな世界、いつでも破壊できるんだぞ! だから黙って私に世界を任せろ!」



「……」



 結果として、俺は失敗した。

 魔人たちの強すぎる力は強すぎる我を生み、欲を生んだ。

 神のように崇められるのを避けるために始祖であることを隠したのも裏目に出た。

 俺は魔人たちが自力で増えることができるようになると、世界の奥地でひっそりと暮らし、遠くから魔人たちを監視していたのだ。


 初めは小さな奪い合いだった。

 それが、気付いた時には世界の管理権の奪い合いになっていた。

 それだけ、魔人の力は強かった。



「……なあ。知ってるか? この世界そのものを創った女神がいるって」



 そう言ったのは、たまに俺のところに来て酒を酌み交わしていた男だった。

 酒の席だからと一度だけ、俺はその男に神の存在を話したことがあった。



「ってことは、その神ってのがこの世界の持ち主ってことか!」


「ずるい! 私のなのに!」


「奪え! 女神なんか殺して、この世界を俺たちのものにするんだ!」


「おおーーーっ!!!」



 共通の敵、共通の目的を持った魔人たちはすぐに結束した。

 その持ち前の能力を駆使して神の存在、その居場所を特定した。

 彼らは神へと至る道として、一本の樹に多大な魔力を与えた。

 それは急激に成長し、神のもとへと届こうとしていた。

 しかし、そこには強力な結界があった。

 さらに、近付くことで女神の強大な力を思い知った。

 自分たちのすべての力を集結させても女神には届かないかもしれない。

 何か、人智を超えた力があれば……。


 そうして、魔人たちは俺を頼った。


 俺にただならぬ力があることは何となく分かっていたようだ。

 だが、奥地から出てこない俺を脅威と思うことはなく、魔人たちは俺を放っておいた。


「頼む! 力を貸してくれ! おまえに俺たちの、いや、世界中の力を集める。

 その力でもって、女神を倒してくれ!」


 それは俺が最初に生み出した魔人だった。

 もはや俺が親であることも忘れているが、それでもこいつが現れたのは何の因果か。


「……いや、俺は」


「これを見ろ!」


「!」


 その男の後ろにはすべての魔人が控えていた。

 それだけではない。

 魔人が支配しているさまざまな知的存在や魔獣の姿もあった。

 魔人は世界のほとんどを掌握しつつあったのだ。


「世界が、おまえを望んでいる。

 それでもおまえは、それを断ると言うのか」


「……」


 そのとき、俺の中で何かが壊れるのを感じた。


 神が世界の行く末を気にしないのなら、俺が世界をどうしたっていいではないか。

 愛する我が子孫。いや、同胞の頼み。

 神を裂く刃に、俺はなってやろうではないか。


「……分かった」


 俺は刀を抜いて天に掲げた。


「俺に力を! 世界を! 神を殺し、俺たちの手に世界を取り戻すんだ! 俺は、闇の帝王だ!」


 オオーーーーッ!!! という地鳴りのような声が世界に響いた。


 そして俺は世界のすべてを背負って樹を昇った。とてつもなく強力な力が俺を上に押し上げる。滑るように飛び、樹を上がっていく。


 そして、俺は結界越しに刀を思いきり振った。

 世界のすべてを、その一刀に込めて。



『……斬撃は、神には届かない』



 どこかで、そんな声を聞いた気がした。


 結果、俺はそのまま神たちによって倒され、消滅し、魔人たちは魔と人に分けられ、魔人であったことを忘れた。




『いたたたた。届かない未来を選択したのに、それさえぶち抜いてくるとは思いませんでした』


『まったく。力を蓄えないといけないのに余計な手間を』


『この樹はどうしますか? 滅しておきますか?』


『いいわ。私がそこに住んで管理者の役割をこなす。アカシャが言ってた転生者とやらのガイドも私がやるわ。

 天竜は今のでけっこう消耗したでしょ。闇の帝王とか名乗ってたあいつがいた洞窟。あそこの空間をいじって休むといいわ』


『わかりました』


『残ったスキルは強すぎるから七つに分けますね。武器も、七つに分散しておきましょう』


『そうね。

 さ、これでとりあえず世界の方は落ち着くでしょ。あとは転生者たちによって世界全体の底力を上げながら厄災に備えましょ』




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そこで映像は途切れ、俺は今度こそ現実世界に目を覚ますことができた。




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