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第二百五十九話 影が大地に堕ち光が差す

「……て感じ?」


「あー……そういう皆の力を合わせて~的なの嫌いなのよね~」


「ん。それでこそ魔王。模範的。テンプレ。魔王の鑑」


「……それはそれでウザいわね。わかったわよ。やればいいんでしょ」


「ん。やればいい」


「……なんかプル、魔王の扱い方がうまいわね」


「だてに長生きしてないのだ!」


「……ノア? 何か言った?」


「な、なんにも言ってないのだ!」


 謎の威圧感を発するプルにノアはたじたじしていた。


「さ、あんまり時間もないわ。さっさとやりましょ」


 フラウとセレナの様子を見て魔王が場を取りまとめる。

 自分の攻撃が当たらないことに違和感を抱いて止まっていた影人もそろそろ動き出しそうな様子だった。


「じゃ、私はフラウたちに内容を伝えたら詠唱に入るから。タイミングは適当に合わせるから皆も合わせてねー」


 プルはそう言うとフラウたちに念話を送り出した。


「やれやれなのだ。適当って……」


「まー、ああ言っててもプルは完璧なタイミングでやってくれるから私たちは気にせず全力でやればいいわよ」


「……信頼関係ってやつね。いいわ。今だけそれに乗ってあげる」


 魔王はそう言うとミツキとノアの足元の地面に『世界の扉』を出現させた。


「私より格下の移動なら大軍じゃなければ私への負担はないわ。影人の力場の外に繋げるからあなたたちの減衰もない。扉をくぐったらとにかく全力でね」


「オッケーなのだ」


「わかったわ」


 プルからの念話を受け終えたフラウたちがミツキたちの方を向いて頷いた。

 プルはすでに呪文の詠唱に入っている。


「んじゃ、いってらっしゃい」


「いってくるのだ!」


「はいはい」


 それを受けて魔王が扉を開く。

 ノアとミツキは目の前の足元に開かれた空間へと飛び込んでいった。











『……』


 自分の放った攻撃が当たらない。

 影人の記憶を持たない闇の帝王の因子はそれの原因の特定を急いだ、が、すぐにそれに当たりをつけ分析した。

 そうなったのは彼女たちが現れてから。

 つまり、自分の攻撃を逸らさせているのはこちらに手をかざす2人。


『……!』


 そのうちの1人が地面に膝をつく。

 鼻から出血。

 体力の消耗とダメージを確認。

 こちらの攻撃によるダメージを身代って受けたにしては少ないダメージ。

 つまり、あれは能力使用の代償によるダメージ。

 代償を必要とするほどの能力。

 あれだけの攻撃を回避する能力。

 十中八九、概念干渉系。確率変動型。


『……ギッ』


 希薄な、かつての闇の帝王としての記憶。

 モヤの中の曖昧な記憶であっても、それに苦戦させられたことは覚えていた。

 あの2人は当代の巫女。

 影人はすぐにその結論に至った。

 ダメージを受けている方が神託の巫女で、もう1人は光の巫女だろう。

 闇の帝王はかつての戦いで神託の巫女が道を作り、光の巫女の剣によって闇の衣を剥がされ、女神によって討たれた。

 あの2人が自分にとってどれほどの脅威かは欠片となった今でも十分理解していた。


 しかし、かつての巫女と違って当代の巫女はまだ力を使いこなせていないようだった。

 神託の巫女の消耗が激しい。


『……』


 影人は、それならば神託の巫女が力を使い果たすまで、光の巫女を接近させないようにしながら攻撃を続ければいいという結論に至り、再び攻撃を開始しようと刀を振り上げた。


「ちょおっと待った~っ!!」


『!!』


 そこに、空が矢となって降ってきた。否、空と見まごうほどの大量の矢が上部から射たれたのだ。


『……っ』


 埋まる視界。

 転移魔法なら感知できるので、おそらくは『世界の扉』による移動。この矢の上に何があるか分からない。

 影人は巫女たちへの攻撃ではなく、ひとまず矢の迎撃に注力しないわけにはいかなった。


『!』


 端の矢が軌道を変えてこちらに向かう。

 追尾機能付きの[アタランテ]。

 その全てを迎撃するまで止まらない強力な矢。


『ガァッ!』


 影人は刀や槍では迎撃しきれないと判断し、魔人の弓の力で同数の矢を生成して放った。

 それらはすぐにぶつかり合い、爆ぜ、空中に小規模な爆発がいくつも起きた。


 そして、その爆風を吹き飛ばすようにして現れたのは、


『ガッ!?』


 大地だった。

 影人から見たら、それは足元の地面が突然空から墜ちてきたかのような衝撃だった。


「ったく。あんなバカデカいのを扉に通せだなんて、どんだけしんどいと思ってるのよ」


 ぼやく魔王の前には四角く大きな穴が空いていた。

 魔王はノアの『世界動地』でくりぬいた地面を『世界の扉』で丸ごと転送したのだ。


『……グッ!』


 すぐにそれを理解した影人は刀と槍でもってそれを砕く。

 砕かれた大地がバラバラと本来の大地のもとへと降り注いでいく。


『!』


 と同時に影人は直下で転移魔法の作用を感知する。

 バラバラと降っていく瓦礫の下。影人のちょうど真下に転移魔方陣が現れる。


『……』


 影人は彼女たちの狙いを理解する。

 そして、予想通りに魔方陣から現れたのは2人の巫女だった。

 同時に、影人の頭上に第三の攻撃が現れる。


「……《極点黒洞[重力万倍]》」


『……グッ!』


 それは小さなブラックホールだった。

 その影響下にある影人は上からの強力な重力で押し潰される。

 そして、影人は地上へと落下していく。


『……グ、ガガガガガッ!!』


 が、影人は強力な飛翔魔法でそれに抗った。


「おいおい。1万倍の重力なんすけどー」


 プルは魔法を行使しながらそれに抗う影人に呆れたように声をあげた。


「押し込むわよ、ノア!」


「オッケーなのだ!!」


『ガッ!?』


 そこに、滞空していたミツキとノアがそれぞれ矢を射ち、巨大化させた鎚を叩く。


『グ、ググググ……』


「まだなのだ!?」


「どんだけ耐えるのよ!」


 2人からのダメ押しを受けても耐える影人のもとに最後の一手が打ち込まれる。


「影人。もういいわよ」


 ミツキたちのさらに上空に転移していた魔王が魔人の槍を真下に向けて墜ちてきた。


「さっさと堕ちて、元に戻りなさい!」


 そして、影人は魔王の槍の衝撃を受ける。


「……未来を決定できると言っても可能性がなければそれは叶いません。

 いま、ようやくその未来が演算できました」


 影人に手をかざすセレナが口端から血を流しながら微笑む。


「……『あなたはそのまま大地に堕ちて、光の巫女の聖剣に討たれる!』」


『グッ! ガアァァァァーーーッ!!!』


 そして、セレナによって定められた未来に従って影人は大地へと落ちていった。

 凄まじい轟音を上げて、影人が地面に激突する。


『……グ』


「……ご主人様」


『!』


 地面に叩きつけられた衝撃で麻痺した体を回復させようとした影人の体に小さな手が触れる。


「……いま、助けます」


 砂ぼこりの中から現れたフラウの手が大きく輝く。


「……【生成|《聖剣(エクスカリバー)》】!!」


『ガアァァァァーーーッ!!!』


 そして、光の巫女の剣が影人の中に炸裂した。




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