表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

258/340

第二百五十八話 神託の巫女の能力

「おまたせですー!」


「フラウ!」


「フラウなのだ!」


「やっと来たわねー」


 合流したミツキとプルたちの前に突然現れた魔方陣からフラウが飛び出してきた。

 そして、それに続くようにもう1人。


「……封印、解けたんだ」


 フラウと同じ瞳と髪の色。

 髪は長く背も少し高いが、顔立ちはフラウによく似ていた。

 エルフに服を借りたのか、エルフが着る手織りの白いワンピースを着ていた。


「うん! お姉ちゃんです!」


 ほっとしたような顔のプルにフラウは元気よく返事をして自らの姉を紹介する。


「お待たせして申し訳ありません。いつも妹がお世話になってます。フラウの姉のセレナと申します」


 セレナと名乗ったフラウの姉は深々と頭を下げた。


「ずいぶんしっかりした人ね」


「大人なのだ!」


「……なんか、私たちこんななのに……」


「なんかゴメン」


 セレナの礼節をわきまえた振る舞いに、自由気ままな魔王たちは申し訳ない気持ちになっていた。


「私は神託の巫女として教会に従事していたこともありますから、最低限のマナーや礼節は教わっております」


 セレナは胸に手を当てて祈るような仕草を見せた。


「……最低限のマナーや礼節ですってよ、魔王様?」


「……魔王だから野蛮でもいいのよ、神樹の守護者のお弟子様?」


「……もうやめましょ。話が進まないし、見てられないわ」


 嫌みを言い合うプルと魔王の醜さにミツキが呆れたようにストップをかけた。


『ガァッ!!』


「……それに、そんな場合でもないわ」


 上空で立ち昇る殺気と凄まじい力の奔流に全員がそちらに向き直る。

 影人が掲げた黒影刀からは真っ黒な闇の力がとめどなく立ち昇っていた。


「で? どーすんのよ、あれ? 皆でダメ元で迎え撃ってみる?」


「私たちにお任せください」


 ミツキが皆を振り返ると、セレナとフラウがすっと前に出てきた。


「……いけるの?」


「うん! お姉ちゃんがいれば大丈夫です!」


 フラウは首をかしげるプルに元気よく頷いてみせた。


「ふーん。ま、神託の巫女のお手並み拝見といこうかしら」


 魔王は2人に任せることにしたようで、少しだけ後方に下がった。

 フラウの光の巫女の力は魔王にも特効なので、とばっちりを避ける意味合いもあるのだろう。


「気をつけてね」


「頼んだのだ!」


「よろ~」


 ミツキたちも余波に巻き込まれないように魔王と同様に下がった。

 フラウとセレナの2人が影人を見上げる形となる。


「……ご主人様」


「……あれが、あのときの影人様。

 肉体が死に、魂と闇の帝王の因子が離れたことで暴走したのですね。お痛わしい」


 フラウは心配そうに影人を見上げ、セレナは悲しそうに目を細めた。


「……フラウ。いきますよ」


「うん!」


 セレナの声に合わせて2人は影人に手をかざした。


『……ガッ!!』


 影人はそんな2人に不穏な予感を感じて、掲げていた刀を一気に振り下ろした。

 巨大な力の奔流は剣先にある一帯を吹き飛ばすのに十分すぎる威力だった。


「ちょっ! あれ、こっちまで来そうじゃない!?」


 振り下ろされた剣気の射程が思ったよりも長く、ミツキは思わず避けようとするが、


「動かないでください!」


「!?」


 セレナに一喝されて動きを止めた。


「……計算がずれると、当たってしまうかもしれません」


「……どういうこと?」


「ミツキ。今はセレナの言う通りに」


「わ、わかったわ」


 セレナが言っている意味がよく分からずミツキは首をかしげたが、プルに言われて動くのをやめた。


 そして、影人の刀がその場にいる全員目掛けて振り下ろされた。



『……』



 影人は敵は消滅したと思い、刀を肩に乗せる。


 しかし、


「びっくりしたー」


『!?』


「なんなのだ? なんか、攻撃が避けて言ったような気がしたのだ」


 大地まで消し飛ばす勢いで振り抜いたはずなのに、そこから彼女たちの声が聞こえ、影人は驚きを隠せずにいた。

 そして粉塵が収まると、キズひとつない姿で少女たちは立っていた。


『……』


 影人はそれに不快感を抱きながらも、確かめるかのように再び刀を振った。

 先ほどよりも威力は弱いが、確実に彼女たちを葬れる威力の斬撃が飛ぶ。



 だが、



「……すごい。何ともないわ」


「当たらないのだ!」


『ガッ!?』



 再び無傷だった彼女たちに影人は異常事態だと感じる。

 そして、それはすぐに先ほど現れた2人の少女の仕業だと気付く。



「……すごいわね。これ」


「……魔王には分かるの?」


 セレナとフラウの技の正体に気付いた魔王は驚いた様子だった。


「しいて言うなら、確率歪曲概念干渉系未来決定能力、ってところかしら」


「ん。だいたいそんなとこ」


「いやいや、ぜんぜん分からないのだ」


「そーよ。私たちにも分かるように説明してちょうだい」


 魔王の言っていることがよく分からないミツキとノアはさらなる説明を求めた。


「簡単に言えば、自分が望んだ未来に出来る能力ね」


「予言的な?」


「そそ。それを自分の良いように解釈して、自分たちにとって一番都合のいい結末になるようにしてる」


「じゃあ、今のは……」


「そーねー。影人の攻撃がたまたま私たち全員にまったく当たらないっていう未来を選択して、まさにその通りになったって感じかしら」


「なにそれ! ズルすぎない!?」


「そうなのだ! そんなの最強なのだ!」


「……まったくよ。神樹の守護者もとんでもないのを創ってくれたわね」


 その能力の強力さに魔王はやだやだと首を振ってみせた。


「……でも」


「ん。察しの通り」


 魔王とプルの視線につられて、ミツキたちもセレナの方に目を向けた。


「……くっ。ハァハァ……」


「お姉ちゃん。大丈夫です?」


 セレナは地面に片ヒザをつき、鼻から血を流していた。


「……強すぎる能力に人間の肉体が追い付いてないわね」


「未来の演算は途方もなく膨大な情報の処理が必要。巫女はその力を魔法領域で処理してるから魔法を使えないけど、膨大な呪文処理を可能とする魔法領域を用いてもなお、未来の演算は使用者に多大な負担をかける。

 今はフラウのサポートで自分で未来の道を選べるようになったけど、そうすることで負担はより重くなった」


「……あの子が自分を封印していたのは、勝手に演算してしまうことによる負担をなくすためでもあったのね」


「ん。フラウなしで一方的に悪い未来を掴みとり続け、いずれは体が耐えきれずに滅びる。それを避けるためにセレナはルルに頼んで自分を命の樹に封印した」


「で、でも、それならこれからどうするのよ?

 あの攻撃を避けられるのはすごいけど、避けるだけじゃいずれあの人が力尽きちゃうわ」


 ミツキは今にも倒せてしまいそうなセレナを心配そうに見つめる。


「ん。だから、あの能力で影人の攻撃を避けながら、フラウの聖剣(エクスカリバー)を何とか影人に当てる。光の巫女の力を受ければあの闇の衣が剥がれて帝王の因子は再び影人のなかに落ち着く。

 でも、きっと直接触れるぐらいの距離で当てないとダメっぽい」


「それなら私たちが手伝えばいいのだ!」


 しかし、プルはノアの提案に首を振る。


「私たちが動けばそれだけ演算量が増える。そうなるとセレナの体がもたない」


「そっかー……」


「なら、動かなければいいんじゃない? プルの転移魔法とか、魔王の扉のスキルならどう?」


 ミツキのその提案にも、プルと魔王は首を横に振った。


「転移魔法は発動に時間がかかるし、たぶん今の影人なら転移位置を割り出せる。それこそ良い的」


「私のスキルの場合、対象者の力量によって扉を通すのに力がかかる。影人を飛ばすにしても巫女たちを飛ばすにしても、あれだけの力を持った存在を飛ばすとなると私への負担が大きすぎるわ。

 魔王軍を飛ばした時もしばらく動かずに休養しないといけなかったし、たぶん、あれらはそれ以上に負担がかかる」


「そっか」


「……ここはいっそ、魔王様には尊い犠牲になっていただくということでー」


「どうしようかしらね。ここから動かずに魔法やスキルだけで2人をサポートしつつ、手が触れるぐらいの距離まで近付けさせるには……」


 魔王はプルの呟きを無視して話を進めた。


「……んー、ここはやっぱり魔王様にはー」


「それはもういいわよ……」


 魔王はプルの提案に呆れたように首を振ったが、プルはそれに対して首を振った。


「私も多少尊い犠牲になるから、あなたも多少尊い犠牲になって」


「!」


 プルの言葉の続きに魔王が向き直る。


「何か、あるのね?」


「ん。我に秘策あり」


 プルはそう言って親指をぐっと立ててみせた。


「……それが言いたかっただけじゃないわよね?」


「それもある」


「……まあいいわ。聞かせて」


「えっとねー」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ