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第二百五十一話 魔王からの世界

『……ヴ』


「まーったく、言葉までなくしちゃって。情けないわね影人のくせに」


 地上に降り立った影人はやっぱり自我がないようで、私は呆れたようにため息を吐く。


「……ま、あなたのために動くのは嫌いじゃないから別にいいけど」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……ん……ここは?」


 真っ白な何もない空間。

 自分の体も、見えない。

 肉体の感覚がない。

 でも意識だけはあって、私という存在がここにあるのは分かる。


「……そっか。私、死んだのか」


 最後の記憶は崖から突き飛ばした影人の驚いた顔。

 影人は無事に逃げられたかしら。

 とやかく言う人はいたけど、影人こそが次期当主。

 影人を守れたのなら私のお役目としては十分でしょう。


『わー! すごい! ここまで自分の死と現状を受け入れてる人は初めてですよー!』


「!」


 目の前の何もない空間から声。

 声、というよりは頭に直接届いてくる波長。

 頭がないから分からないけど。


『こんにちは~。はじめまして~。この世界を管理してる神で、アカシャと言います~』


「……」


 神と名乗るパンダの着ぐるみ。

 声からして10代後半から20代前半の女。

 この世界、という言葉から世界がいくつも存在していることを明示している。

 彼女が言うこの世界とは、どの世界なのか。

 アカシャというのは、私がいた世界でいうアーカーシャ?

 アカシックレコード、虚無、虚数、空間の神、だっけ?


『ホントにすごいですね~。驚いたり疑ったりするより前に冷静に分析を開始する。これはすごい掘り出し物かもですね~』


「!」


 声は出していない。

 彼女は私の頭の声を読んでいる。

 つまり、思っただけで彼女には私の意思が伝わる。


『まあ、そういうことです~』


「……」


 ……何をここまできて冷静に分析なんてしてるのかしら。


『あら?』


 私はもう死んだ。

 ここに影人はいない。

 生まれた時から影人を守り、支えるためだけに生きてきた。

 そうやって、父に育てられた。

 だから、常に影人のためだけに生きてきた。

 こんな考え方をするのも影人を守るため。

 でも、もうその役目は終わった。

 このふざけたパンダが何をどうしようとしてるのかは分からないけど、もうどうでもいい。

 私はどうもしない。


「……あなたの、好きにしたらいい」


『あら。あらあら。なんか急に弱々しくなっちゃいましたね~。それでは困るんですが~。ま、まあ、一応、簡単に説明はしますね~』


「……」


 そう言ってパンダは私に語り始めた。


 このパンダの管理する世界は私のいた世界とは違うこと。

 私は死に、こっちの世界に転生するために呼ばれたこと。

 闇の帝王なるものがいたこと。

 世界の脅威がじきに現れること。

 そのために強力な力を転生者に与えていること。


『……でー。~~な感じでー』


「……」


 目の前の自称神のパンダの話を聞くうちに、私は少しだけその可能性を考え始めた。

 思っていることを読む神に読まれないように、心の一番奥底で。


 目の前の神なる者は絶大な力を持っている。

 それこそ世界を管理し、余所の世界から死者の魂を引っ張ってこれるぐらいの。

 あるいは、一から世界を、命を創れるぐらいの。


『それでですね~。闇の帝王は私に反抗してきたんですよ~』


 そして、この神の管理する世界の力を合わせれば神に迫れる。

 実際、神の手に刃を届かせた存在もいる。


『……それで、転生者の方には何かお好きなスキルを差し上げてるんですが、何かご希望はありますかー?』


「……奪うスキルが欲しい」


『え~?』


「……力を、スキルを奪うスキル」


 神から与えられたスキル(チカラ)を奪い、集めるスキル。


『……あ~。ちょうどいいのがありますよー。あなたは有望なようだし、特別に差し上げちゃいますね~』


 幸い、心の声とやらは一番表層にあるものしか届かないらしい。

 私の本当の狙いは無意識下でじっくりと思考を進めていく。

 心を読む神にバレないように。

 前の世界での並列思考の技術がここでも役立つなんてね。


『……じゃー、もろもろ以上になります~。何か質問はありますかー?』


「……いえ、ないわ」


 肉体年齢は影人と同じにした。

 まずはスキルと世界情勢の把握から。


『じゃ、頑張って強くなってくださいね~』


「……ええ」


 おまえを、殺せるぐらいにな。


 

 私は神からその力を奪い、神を殺し、自らの肉体と魂を前の世界に再び甦らせようとしていた。

 それだけの力が神にはあったから。

 この世界の脅威だとか、そんなことは知ったことじゃなかった。

 私はただ、もう一度だけ影人に会いたい。

 会えるかもしれない。

 その可能性を知ってしまったから、あとはもう動くしかなかった。

 この世界のすべてを犠牲にしてでも、私はそれを叶えるつもりだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「……でもまさか、その途中であなたもこっちの世界に転生してきちゃうなんてね」


 もしかしたら、あのパンダは私のその狙いさえ看破してて、魔王()という脅威に立ち向かうために世界が進歩するのを狙い、そのあとで私自身が自分の脅威とならないために影人をこの世界に呼んだのかも。


「……そう考えると、なんだか全部があのパンダの手のひらの上みたいでムカつくけど、影人が来てからも私が狙いを変えなかったのは誤算だったのかもね」


 影人が来ちゃったのなら、今度はこの世界を守らなきゃ。

 それにはあのパンダはいらない。

 それに、もし影人があっちで死んだワケじゃないのにこっちに連れてこられてたんだとしたら、やっぱり私には力が必要。

 こんな世界なんて放って、2人であちらの世界に転生し直す、なんてのもありかもね。


「……そのときは、血の繋がりのない関係で、夫婦とかになってみるのもいいかもね、なーんて」


『……ガァッ!』


「あー、はいはい。そろそろやるのね? んじゃ、時間稼ぎでもしますか」



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