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第二百五十話 流星煌めく

「……【恐怖(フィアー)】ね」


「ん。【威圧(プレッシャー)】と【精神抑圧】も常時展開されてる」


 他の者よりも比較的耐性のある魔王とプルが冷静に分析する。


「あなた、大賢者の眼を持ってるわよね。アレの名前とか称号ってどうなってるの?」


 魔王がプルに尋ねる。

 人のスキルやステータスを視る大賢者の眼はジョブスキルなので魔王はそのスキルを奪えず、また自身も大賢者にはなっていないようだった。


「……名前の部分が、なんかボケてて見えない。称号は、『闇の帝王の因子』。でも、『の因子』って部分が今にも消えそう。

 こんな現象は初めて……」


 空に浮かぶ漆黒のソレを見つめながらプルが珍しく驚いた表情を見せる。


「……まだ、間に合うってことかしらね」


 魔王は完全に闇の帝王になりきっていない影人にまだ希望を持っていた。


「……あれ、まずはどうすると思う?」


「……んー、あれは女神への怒りと憎しみの塊。最終目標は女神だろうけど、まずは自分への脅威を排除しようとすると思う。

 アレにとって、この場における最大の脅威はあなた」


「……ま、そうなるわよねー」


 プルの言葉を聞いて、魔王は嫌そうに首を振る。


『……』


 そして、空から眼下を見下ろしていたソレが魔王をじっと見据える。


「……一応、聞くけど、ちょっと手伝ってくれたりはしないわよね?」


「やだ。巻き添えはごめん。

 でも、あなたがやられると次はたぶん私かノア。だから、やられるならなるべくアレを消耗させといて」


「はは。嫌な子」


「ファイトー」


 プルは魔王の嫌みを聞き流して、手を振りながら転移魔法でその場を離れた。

 ついでに魔王以外の全員を丘の上に転移させる。


「……はぁ。こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」


 魔王はやれやれとため息をつきながら槍を振り構える。


「女神たちに期待するのは癪だけど何かしらやってるでしょ。影人が戻ってくるまで時間ぐらいは稼いであげるとするわ」


『……ヴ、がぁっ!』


 そして、魔王を自身の障害と断じたソレが魔王に向けて急降下する。

 魔王はそれを迎え撃とうとしていた。




「うおおぉぉぉぉぉーーーーっ!!」


『!?』


「えっ!?」


「あれはっ!?」




 しかし、そんな2人の間に地面を吹き飛ばして黒鬼(こっき)が割り込んできた。


「黒鬼っ!?」


「あいつ、どんだけしぶといのだー!」


 魔王とノアが突然現れた巨体に驚く。


「あやうく死ぬところだったぞー! 巨人族の王めー!」


 黒鬼は全身に火傷の痕があるものの、魔力自体はほぼほぼ復活していた。

 むしろ、当初よりパワーアップしているようだった。


「はっはっはっ! この大地の深淵に触れた俺はそれを吸収し、これまでとは比べ物にならない力を手に入れた!

 巨人の王よ! 今度こそ貴様を殺す!」


 どうやら黒鬼は惑星の中心近くのマグマの力を吸収して、地上まで這い上がってきたようだ。


「おーい、黒鬼ちゃーん」


「はっ! 魔王様っ!」


 足元から見知った声を聞いて黒鬼が振り返る。

 魔王は黒鬼を見上げながら手を振っていた。


「上ー。めんどいのがいるから何とかしてくれるー?」


「上?」


 魔王が自分よりも上空を指差しているので黒鬼はそれに倣って上を見上げる。


「な、なんだあれはっ」


 そして、遥かな上空から堕ちてくるソレを見た黒鬼は、それがすぐにとんでもない脅威だと理解する。


「……なるほど。巨人の王どころではない。まずはあれを排除するとしよう!」


 そして、黒鬼は全身に白い炎を纏った。


「これが俺が大地の深淵で得た力! 黒炎を超えた炎ですべて焼き尽くしてくれる!」


 そして、黒鬼は全身から立ち上らせた白炎をソレに向かわせた。


『……ガ』


 それを見た闇の帝王の成りかけは静かに炎に手をかざす。

 すると、手の前に小さな無数の黒い点が生まれた。

 向かってきた白い炎はその黒点にぶつかるとすっとその姿を消してしまった。


「バ、バカなぁっ!」


「……アレ。私のと同じやつ」


「プル?」


 プルは影人が生み出したそれが、魔人の杖で自分が使った黒球と同じものだと理解した。


『……』


 白い炎を完全に消し去ったあと、無数の黒い点は一度大きく瞬いた。

 そして、そのひとつひとつがまるで黒い流星のように黒鬼に向けて流れる。




 ギィンッ……




「ぐ、がぁっ!」


 無数の黒い流星となったそれは黒鬼の体を貫き、縫い止める。

 黒鬼は細長い線となったそれに全身を貫かれ、身動きが取れなくなってしまった。


「……キレイ。あんな使い方もあるんだ」


 空から降り注いだ黒い流星にプルは感心したような姿を見せた。


『……』


 そして、手のひらを上に向けた影人の元に再び無数の黒い点が現れる。

 今度はそれらがどんどん手のひらの中心に集まっていき、ひとつの大きな球体へと変化した。

 影人の頭上に集った黒球はとてつもない大きさになっていた。黒鬼をまるごと屠れるほどに。


『……』


 そして、影人はそれをそのまま黒鬼に向けて振り下ろした。


「やばっ!」


 それを見た魔王が慌てて『世界の扉』で遠くに転移する。


「ぐ、ぐおおぉぉぉぉぉーーーっ……」


 そして、それの直撃を受けた黒鬼は跡形もなくこの世界からその存在を消し去った。

 地面まで落ちて完全に黒鬼を消滅させた黒球はふっと消えていった。

 黒鬼を縫い付けていた黒い流星もいつの間にか消えていた。


「……力の、桁が違うのだ」


「……さすがに、私も魔人の杖であそこまでは出来ない」


 影人の力にノアたちが固唾を飲む。


「いやー、ホント勘弁してほしいわよ」


 プルたちのいる丘に移動していた魔王が呑気にぼやく。


「こっち来ないでよ」


「分かってるわよ」


 プルに邪険に扱われ、魔王は面倒そうに再び扉を出現させた。


「……出来るだけのことはするわ。もし私が何とか出来なかったら、あとは頼んだわよ。

 必ず影人を戻してあげて」


「……ん。分かってる」


 魔王の覚悟にも似た言葉を受け、プルはしっかりと頷いた。


「……じゃ、いってくる」


 それを聞いた魔王は再び扉の向こうに姿を消した。






「……さ。影人。また私と遊ぼっか」


『……グ』


 そして、今度こそ魔王と影人は改めて対峙したのだった。





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