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第二十五話 神樹の森の真ん中で魔女っこに会う

「さて、と」


フラウに課題を課して、俺は1人でこの森の中心にある神樹へと向かった。


地面を蹴り、隆起する木の根を飛び越え、猛スピードで流れていく景色を視界の端に捉えながら考えていた。


この世界に降り立った時から感じていた違和感。

初めは、この世界がこういう空気感なのかと思った。

だが、<ワコク>に入るとその違和感が消え、再びこの神樹の森に入るとともに、違和感も復活した。



それで確信した。



この森は監視されている。



おそらく、感知結界とでも言うようなものが張られているのだろう。

生物の、森の中の動向を把握できるようになっているのだと思われる。


この広大な神樹の森全域を覆うほど巨大な感知結界。

それは最早、人間業ではないだろう。

感知結界というのは、カエデ姫のような対物対魔結界とは違い、収集される情報量が膨大すぎて、人間1人ではせいぜい10メートル前後が限界らしい。

それはそうだ。

いくら魔法だのスキルだの言っても、人間の脳で処理できる情報には限界があるだろう。

通常の結界でも、カエデ姫の規模は十分異常らしいが。


そんな人智を超えた力で神樹の森に感知結界を張るのは、女神の加護を受けた転生者のスキルなのだろうか。

それとも、特別な力を持った何かなのか。

この世界の者たちも、転生者であるカエデ姫も、感知結界には気付いていないようだった。

人間の領域の中心地である神樹の森であるにも関わらず。

そんな場所にある不確定要素なら、早めに把握しておかなければならないだろう。

他の者が気が付いていないのならば、なおさら。


フラウの成長のためと言うのが一番だが、その調査のためにも俺はフラウに課題を与え、1人で神樹へと向かうことにしたのだ。

感知結界の発信源である、森の中心に。







「ずいぶん、久しぶりな気がするな」


神樹まで500メートルといった所だろうか、ようやく神樹の全貌が窺える所まで来て、俺はそんなことを呟いた。

神樹は樹高が高すぎて、下から見上げても、その天辺を見ることは出来ない。

というより雲を突き抜けて、さらに遥か上空にまで伸びているから、それよりも高高度に飛びでもしなければ到達することが出来ないのだ。

ロケットなど存在しないこの世界において、成層圏をぶち抜くそれにたどり着ける者は存在しないそうだ。

また、その根も半端じゃなく大きい。

鬱蒼と生い茂っているはずの森において、500メートルの距離で神樹を窺い知れるのは、神樹の根がそこまで伸びていて、そこには他の木々が生える余地がないからだ。


地上の周囲500メートルに根を伸ばす神樹。

地下に延びる根はどこまで広がっているか分からないし、そこから生える幹も、計り知れないほど巨大だ。


2、3階建ての建物を越えるように神樹の根を越えていき、俺はようやく神樹の根元にたどり着いた。

結局フラウと分かれてから、まる1日経ってしまった。


フラウの方は、

今のところ人間にも遭遇せずに無事に過ごしてるみたいだな。




俺は最初にこの世界に降り立った時と同じ場所に来ていた。

その場所は半径1メートルほどの、サークル状の更地になっていた。

転生者は毎回、この場所に降り立つそうだ。

そして、そのすぐ正面に、神樹が圧倒的な存在感で鎮座していた。

今は昼間だが、ちょうど幹の陰になってしまっていて、ほとんど夜のように感じられる。



「…………」



俺は正面にある神樹にさらに近付いてみた。

幹のささくれ1枚とっても、俺よりも遥かに巨大だった。

俺はそっと、その幹に触れようとしてみた。



「それに触らないで」



「!」



突然、背後から声が聞こえて、俺はバッ!と振り返った。

さっきまで俺がいた、転生者が降り立つ場所。

そのサークル内に魔方陣が展開され、そこに1人の少女が立っていた。



「君は?」



俺は警戒を解くことなく、その少女に尋ねた。



「それに、触らないで」



彼女は再び同じことを言った。

明らかな敵意を俺に向けて。



「分かった」



俺はそう言って、すっと手を下ろして樹から遠ざかった。

ちょうど、その少女と同じぐらいの距離になるように、神樹から距離をとる形になった。



「それでいい」



彼女はそう言うと、俺に向けていた敵意をすっと納めた。



「君は、この神樹の守り手なのか?」



相手は敵意を納めてはいたが、俺は警戒を解かずに彼女にそう尋ねた。


おそらく転移魔法という、超高等魔法でもって現れたんだろうが、俺が魔方陣の起動にまったく気が付けなかった。

キマイラとの戦闘で魔法が使用された時は、魔力の収束でさえ感じることが出来たというのに。


通常、魔法を使う者は体外に魔力を放出している。

これは無意識的に自然発生するもので、より高位の者ほど、その放出量は多いという。

高位の魔法使いだという、ライズ王子の所のザジの魔力は自身の周囲2メートルといった所だった。

普通の魔法使いはその半分もあれば、十分国軍の魔法兵としてやっていけるレベルなのだそうだ。


それに対して、俺の目の前の少女の魔力量は、ザジの半分より少し少ない程度だろうか。

つまりは、国軍の魔法兵に及ぶか否か、といったレベルだ。

普通なら、転生者が警戒する必要があるレベルではない。

でも、彼女からは魔力量では計れない驚異を感じる。

それが俺に、警戒心を解くことを許さないのだ。



「…………」



「…………早めにここを離れて」



俺の質問には答えず、彼女はそれだけ告げると、左手に持った大きな杖を振るい、再び魔方陣を起動させた。



「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」



慌てて声を掛けたが、俺の制止に耳を貸す気はないようで、彼女は魔方陣の構築を進めた。


このやろう。

そういうことなら、



すっ。



「ちょっとっ!」



俺は再び神樹に近付き、それに触れようと手を伸ばした所、少女は驚いたように魔方陣の生成を止めた。


「そちらが話を聞かないなら、俺は神樹に触れる。

いや、それどころか、何をするか分からないぞ?」


俺はそう言って、黒影刀を抜いた。


もちろん、神樹を傷付ける気などまったくない。

これは脅しだ。

神樹の森を監視する存在。

その詳細も知らずに、これからこの世界を巡るつもりはない。

おそらく、ここには何度か来ることになるだろうし、スキルを他者に知られたくない俺からしたら、常に監視されているのは都合が悪い。


場合によっては、対処することも考えなければ、な。




ヴゥン!




「ぐっ!」


少女は俺が刀を抜いたのを確認すると、俺の足元に魔方陣を展開させた。

身体がズシッと重たくなるのを感じる。


「…………まいったな。

魔方陣が展開される兆候も感じられない上に、展開された時には効果が発揮されてるのか」


通常、魔法は呪文の詠唱によって、その神秘の扉を開き、魔法古語と呼ばれる魔法名を発露することで発動に至ると、カエデ姫とトリアさんに教えてもらった。

魔方陣はその呪文の詠唱の代替として機能したり、効力を増幅したりする効果があるが、布設に時間がかかるし、発光もするから目立つのだという。

今の彼女は、その工程をどれもすっ飛ばしている。


発動された魔法は重力魔法とでも言うのだろうか。

上から体を押し潰すように力を加えられている。


「離れる気がないなら、容赦はしない」


少女はそう言って目を細めると、スッと右手をこちらに(かざ)してきた。




からん。




「…………どういうつもり?」




俺は黒影刀を地面に投げ、両手を上に挙げてみせた。

彼女は訝しげな顔でこちらを見ている。


「降参だ!

神樹には手を出さない!

話がしたい!

それだけだ!」


「…………」


彼女は眉間にシワを寄せて、黙って俺を見続けた。


「…………」


「…………」


えーと、これは何の時間だ?


しばらくして、ようやく彼女が口を開いた。


「師匠が連れてこいって」


師匠?

その師匠ってのと念話でもしてたのか。

それならそれで、一言言ってくれてもよくないか?


彼女はそれだけ言うと、重力魔法を解除して、彼女の足元に展開されていた魔方陣と同じ紋様のものを俺の足元にも展開し、それが完成すると同時に、俺と彼女はその場から消え去った。



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