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第二百四十一話 魔王との対話と正体

 ゴーシュとライズたちの戦いが終わった頃。


「あ~あ。結局、蓋を開けてみれば直属軍の戦いはこっちの全敗じゃーん」


 高台でスキルの奪取を続けていた魔王が呆れたように声をあげる。


「申し訳ありません。こうなったら、私がヤツらを……」


「ん~、いや、いーや。一三四(ふたなし)ちゃんはここで待ってて~」


「……え?」


 戦闘態勢に入ろうとしていた一三四は魔王に待機を命じられ、拍子抜けしたような表情を見せた。


「ま、まさか! 魔王様が直々に出られるのですか!? ダ、ダメです! まだ私がいるのですから、私がっ!!」


「んーん。一三四ちゃんにはやってもらいたいことがあるからさ~」


「や、やってほしい、こと、ですか?」


 魔王に必死にすがろうとした一三四を、魔王はやんわりと諌めた。

 そして、その手を取ると、優しく包み込んだ。


「そ。これを持っててほしいの」


「……これは」


 魔王が渡したのはモノではなく、あるスキルだった。


「貴重な枠を取っちゃって申し訳ないけど、私に何かあったら、コピーしたそれを大事に持ってて」


「そんな……。

 わかりました。1番枠に入れておきます」


 一三四は言いたいことを飲み込んで、魔王からの命令としてそれを受け取った。


「ありがと」


「……」


 魔王が一三四の髪をくしゃっと撫でると、一三四は潤んだ瞳で魔王を見上げた。


「……ふふ」


「……ん」


 魔王はそんな一三四のおでこに唇をつける。


「いってくるね」


「……お気をつけて」


 そして、魔王は戦場へと降り立っていった。
















「やっ! 影人!」


「……」


 俺が声の届く距離まで行くと、魔王は嬉しそうに片手を上げた。

 戦場はすでに停止しており、痛いほどの静寂があたりを包んでいた。

 魔族も連合軍も自陣に下がり、俺たちの動向を注視していた。


「……久しぶり、だな」


「それはどっちのかしら? 魔王として? それとも……」


 魔王は期待を込めた瞳で小首を傾げる。


「……久しぶりだな、桜」


 俺がそう言うと、魔王はパッと顔を輝かせた。


「ようやく思い出してくれたのね! 嬉しい!」


「……」












「か、影人殿は魔王と知り合いだったのか?」


「いや、俺は彼がこの世界に降り立ったときから知っている。魔王との接点はないはず……」


「ん? 魔王は冒険者オウカとしてドワーフの国にいたことがあったのだ。そのときに魔王とは会ってるのだ」


「そ、そうなのか」


「……でも、あれはたぶんそういうのじゃない」


「……プル?」











「……俺の知っている桜はそんな姿じゃなかったからな。分からなくて当然だろう」


「あ、そりゃそっか」


 魔王は、桜はケタケタと笑う。

 その無邪気な様子はあの頃の面影を残しているように思えた。


「それに、桜は俺のことを名前で呼んだりしなかっただろう。気付くわけがない」


「いや~、さすがにこうなってまで影人のことをお兄ちゃんだなんて呼ぶのも恥ずかしいじゃん?」


 桜が照れくさそうに頬をかく。

 その仕草はかつてと同じ癖。


「……おまえは、あのあとこっちに来てたんだな」


「そー。ま、降り立ったのはそんなに昔じゃないけどね。あっちで死んだ時間軸はあんま関係ないみたいだし」


「……まあ、そうだな」


 カエデ姫は平安時代から来たぐらいだしな。


「でも、まさか、影人もこっちの世界に召集されるなんてね~。あ、でも影人は闇の帝王の因子を持ってたし、必然ではあったのかな?

 ところで、影人は何歳で死んじゃってこっち来たの? ちゃんと天寿を全うした?」


「……17、だったか。死因なんかは覚えていない。気が付いたらパンダの前にいた」


「うっそ! 早くない!?」


 桜は大げさに驚いてみせた。

 職業柄、長くは生きないとは思っていたが、正直、俺もここまで早く死ぬとは思っていなかった。

 しかも、死の際の記憶もないからなぜそうなったのかも分からないしな。


「……う~ん。さてはあのパンダ。焦ったな。影人に関しては時空間のねじ曲げがうまくいかない可能性があるって思ったのかな」


「……?」


 桜がアゴに手を当てて考えているが、言っている内容はよく分からなかった。

 そういえば、桜は昔から頭が良かった。

 俺も悪い方ではなかったが、俺より年下のはずの桜が俺と同じ内容の勉強をしているのは知っていた。


「なあ、桜」


「なぁに?」


 俺が声をかけると桜は嬉しそうに首をかしげる。

 久しぶりの会話自体を楽しんでいるようだ。


「……なんで、おまえは魔王なんかやってるんだ? この世界の人類を滅ぼすため、みたいな非効率で非生産的なことをおまえがやるとは思えないんだが」


「ん~」


 桜はアゴに人差し指を当てて体を傾ける。

 仕草なんかは当時の、幼い少女の頃のままだ。


「正直、影人がこっちに来た時点で私の目的の8割は意味をなくしちゃってるんだよね~」


「……なに?」


「でもまあそれによって、今度はそれが残りの2割と合わさって逆の意味での目的になった、のかな」


「……どういうことだ?」


「んーとね。今となってはこの世界を守ることが私の目的で、その方法が女神とは違ってて、そのためにはこの世界を支配する必要があるってこと!」


「……いや、まったく分からないんだが」


 もっと詳しく説明してもらいたいところだ。


「ん~。ちょっと長くなるからめんどいな~」


「……おい」


 桜はそう言いながら槍を構えた。


「ま、なんにせよ、私はこの世界を私の好きなようにするつもりなの。影人はそれが嫌なら、私のことを止めてみるといいわ」


「……っ。

 なぜそうなる。話し合えば済む話ではないのか?」


 桜が闘気を立ち昇らせる。

 強力な魔力が桜を包み、天まで伸びた。


「無理よ。あの女神は話し合いに応じないわ。誰だって死にたくはないもの」


「……なに?」


「私は、あの女神を殺すつもりなのよ」


「……なぜだ?」


「真なる脅威から、この世界を守るために」


「……それは、どういう」


 桜はそこまで言うと、槍をこちらに向けた。


「もうめんどいから、もっと教えてほしかったら私に勝ってみてよ。そしたら、全部ちゃんと話してあげる。

 勝てるものならね」


「……わかった」


 にやりと笑う桜に応じ、俺も黒影刀を抜く。

 

「……そういえば、前の世界では俺は一度も桜に勝つことができなかったな」


「ふふふ。それはこっちでも同じじゃないかな」


「……どうかな」


 そして、俺は地面を蹴った。




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