第二十四話 フラウちゃん育成計画
フラウは、
【身体強化】
【思考加速】
【身体機動】
の3つは特に問題なく慣れることが出来た。
山間部の村で育ったようだから、もともと素養はあったのだろう。
どうやら、『百万長者』内のスキルを他者に貸し与えても、すぐに扱えるようになるわけではないようだ。
というよりも、スキルを使えても身体が追い付いてこない、と言った方が正しいか。
とりわけ、肉体強化系のものはその傾向が強いようだ。
おそらく、スキルというのは才能に近いのだろう。
その内容に卓越した才能を発揮するが、慣れていないと扱いきれない。
そんなところだろう。
とはいえ、
フラウは今まさに練習中の、
【隠者】
【隠遁術】
に関しても、おそらくすぐに修得できるだろう。
それならばと、リフレッシュも兼ねて、フラウの魔法適性を見てみることにした。
トリアさんに聞いたところによると、魔法を使うには適性があり、その適性に応じて使える魔法の種類も属性も異なるらしい。
それによって、冒険者なんかは自分の職業を決めるそうだ。
冒険者や職業なんかも気になったが、詳しくは北の<マリアルクス>で聞いた方がいいとのことだった。
「フラウ!
ちょっとおいで!」
俺が森に向かって声をかけると、しばらくして右手方向の森から、ガサガサと音が聞こえてきた。
「はい!
なんでしょうか!
ご主人様!」
ザッ!と俺の前に降り立ったフラウは膝をついて、こちらを見上げた。
「うん。
【身体強化】による高速移動中の姿勢制御や状況判断なんかも、【身体機動】や【思考加速】のおかげでとても良くなったね」
「はい!
ですが、【隠者】は何とかなりそうですが、【隠遁術】は難しいです。
むにしきりょういきしたではい景をあく。
りあるたいむで……とき更新して自信に……すぎ。
って、よく分からないです」
「…………うん。
無意識領域下で背景を把握。
リアルタイムで随時更新して自身に透過、
な」
偏光迷彩の説明がフラウには難しかったようで、理解に苦しんでいるようだった。
『スキル【隠遁術】は光系統の魔法適性も必要になるので、先にフラウ様の魔法適性を見てみることが先決かと思われます』
うわっ!
『びっくりしたー。
サポートシステムさんか』
頭の中に急に声が響いたので驚いた。
彼は万有スキル『百万長者』に付随するサポートシステムで、『百万長者』内の検索エンジン兼知恵袋的な役割を担っている。
俺は彼のことを密かに、パン神の唯一の良心と呼んでいる。
『急にどうしたんだ?』
『いえ、最近出番が少ないので忘れられていないかと』
『は?』
『冗談です』
『いや、あんたAIみたいなもんだろ』
『失礼しました。
提言が必要であると判断されたため、不躾ながらお声を掛けさせていただきました』
『そ、そうか。
それで?』
『はい。
フラウ様の魔法適性を確認してからの方が修行効率が30パーセントほど上昇致します』
『そうなのか!
じゃあ、そうしよう!
魔法適性の診断に必要なスキルをピックアップしてくれ!』
『かしこまりました』
俺はサポートシステムの出してくれたスキルを確認していくことにした。
『百万長者』のサポートシステム。
彼が提言を出来るようになったのは、俺とフラウが<ワコク>を出立する前日の夜のことだ。
蒲団の中で明日からの計画を練りながら、『百万長者』内のスキルの確認をしている時、ふと、サポートシステムに『百万長者』内のスキルを統合できないものかと思って、彼に尋ねてみたのだ。
すると彼は、
『それは隠しコマンドであり、そちらから提案されなければ、こちらからは提案してはいけないものでありましたが、スキル保持者から提案があった場合、それは可能ですと答えることが出来ます』
と答えたのだ。
つまりは、アップグレードは出来るが、俺に言われるまでは内緒にしていたってことらしい。
俺が他にも隠しコマンドはあるのか?
と尋ねたら、隠しコマンドに関しては隠しコマンドですので、としかお答えできません。
と答えてきた。
是でも非でもない答え。
まあそれは仕方ないかと置いておくことにして、俺はサポートシステムの強化をすることにした。
そもそもサポートシステムを強化しようと思ったきっかけは、スキル内に【有識者】というものがあったからだ。
このスキルは、スキル保持者の過去の経験や今までの知識を踏まえて、最適だと思われる解答を提言してくれるというスキルだった。
このスキルの問題点は、自身の内にその問題に対応出来るだけの知識も経験もない場合は意味を為さないことだ。
だが、俺の中には前世からの知識と、約百万もの膨大なスキルがある。
もしもこの【有識者】とサポートシステムを紐付けすることが出来れば、俺の知識と『百万長者』のスキルを組み合わせた最適解を瞬時に検索することが可能になる。
それは咄嗟のスキル付与にも活用できると思い、俺はサポートシステムにこのスキルを統合することにしたのだ。
そうして、特にスキルに関しては俺以上に良いチョイスをしてくれるサポートシステムさんが誕生したのだ。
フラウに与えるスキルも、彼の提案のもとにリストアップされたものだ。
彼は、最初は10個ほどを与えるよう提案してきたが、俺が、いやいや、もうちょい行けるだろうと食い下がったら、しぶしぶ30個を挙げてきたから、俺はその案を採用した。
サポートシステムさんはしばらく、
『…………』
と、無言で何かを訴えてきていたような気もするが、まあ気のせいだろう。
その後、フラウにいくつかの診断用のスキルを貸し与えて試してみたが、残念ながら、フラウにはあまり高度な魔法を扱うことは出来ないようだった。
サポートシステムさん曰く、こればかりは本人の資質によるものだから仕方がない、らしい。
フラウはしょんぼりしていたが、出来ないものは仕方ない。
それならば他の部分を伸ばしていけばいいのだ。
俺はそれを踏まえて、改めてサポートシステムさんにフラウに見合うスキルを、とりあえず40個ほど見繕ってもらった。
『…………』
サポートシステムさんの無言の圧力など知らない。
結局、フラウは短剣の扱いがうまいことが分かり、短剣術を中心としたスキルと、それをサポートするスキルをメインに馴染ませていくことにした。
それからしばらくすると、フラウは【短刀術】、【短刀格闘】、【舞姫】、【魔剣操作】を扱えるようになった。
【舞姫】は踊りがうまくなるスキルだが、短剣術は舞を踊るのに近いらしく、サポートシステムさんの勧めもあって、修得してもらうことにした。
【魔剣操作】は刀を魔力で覆って強化するスキルだが、フラウは魔力の扱いが苦手のようで、多少は扱えるようにはなったが、こちらはまだまだ精進の必要がありそうだ。
さて、そろそろいいか。
俺はフラウがある程度成長したことを確認すると、フラウに課題を与えた。
「えっ!?
この森で、1人で、ですか?」
「そうだ。
俺は少しやることがある。
これから1週間。
君はここで1人で生活するんだ。
スキルはそのまま使っていていい。
だが、外の国に行ったり、他の人間に遭遇するのは駄目だ。
襲い来る魔獣を時には打ち倒し、時には逃げ、人間が近くに来たらバレないようにやり過ごすか逃げる。
人間に遭遇したら、サポートシステムを通じて俺に分かるようになってるからな。
そうしたら、期間がさらに1週間延びる。
1週間。人間に見つからずに1人で生き延びることが出来たら修行は終了だ」
「そ、そんなぁー」
そんな声出しても駄目だぞ。
「で、でも、ご主人様はお一人で大丈夫なんですか?
ご主人自身はスキルを使えないんですよね?」
ははっ!
フラウに心配されてしまうとはな。
スッ
「え?」
俺はフラウの背後に瞬時に回り込み、首もとに指を当てた。
「俺の心配をする必要はない。
自分が生き残ることだけを考えろ」
「は、はい」
俺の言葉に、フラウは冷や汗をかきながら返事をした。
「では、今からスタートな。
じゃあまた、1週間後にな」
「え?
あ!ちょっ!?
もうですか!?」
そのままフッと消えた俺に、フラウは焦ったようにキョロキョロしていた。
「ご主人様。
自分ではスキルを使えないってことがバレても平気なんじゃ…………」
…………フラウ。
まだ聞いてるからな。
そうして、フラウの修行が始まった。