第二百三十八話 突破口?
「プル。フラウたち、少し不利じゃないか?
おまえが行ってやった方が早く解決すると思うんだが」
フラウたちは闇の霧と化した無数の魔蟲に苦戦しているようだった。
倒せないわけではないようだが、数が多すぎてヤツらの弱点であるフラウの攻撃が届ききっていないようだ。
「ん~?」
話しかけられたプルが目を擦る。
「大丈夫やろー。あの2人が協力すれば何とかなるてー。それに、フラウのためにもこの戦いは必要」
プルはフラウたちの方を見もせずにそう言ってのけた。プルなら見ずとも魔力の流れで状況を把握しているのだろうが。
「過保護すぎると成長するもんもしなくなるでー」
「……そういうものか」
「そういうも……くーくー」
プルは全て言い終わる前に再び眠りについた。
「私もいまはちょっと疲れて行けないのだ」
「……いや、いい。ここはフラウたちに任せてみよう」
座り込むノアに気にするなと声をかけ、俺はまたしばらくフラウの戦いを見守ることにした。
『魔力……魔力をよこせぇーーっ!!』
「くっ!」
「えいっ!」
ザジを宿主とした魔蟲たちは不気味な声をあげながら兵たちに襲いかかってくる。
ライズとフラウはそれらを振り払うので手一杯のようだ。
「で、殿下っ! 我々は下がった方がいいのではっ!?」
ただの剣や弱い魔法では効果がないらしく、足手まといになってしまっている兵が後退を進言する。
「いや、おまえらがいなくなると、ヤツらの矛先が他の戦闘兵に向いてしまう。ここで束になってくれている間にヤツを叩きたい。
皆には囮になるような真似をさせてしまって申し訳ないが、必ず守るから、何とか持ちこたえてほしい」
「……わかりました。では、我々はヤツらを引き付けつつ殿下たちのいる方向に誘導していきます」
「……すまない。恩に着る」
エサになれという理不尽な命令を飲み込んで走り出した部下たちに、ライズは心からの感謝を告げつつ再び剣を振るった。
「……はぁはぁ」
「フラウ。大丈夫か?」
「……は、はいです」
わずかな隙を縫ってライズはフラウと合流する。
フラウは肩で息をしており、かなり消耗しているように見受けられた。
「……まだ、その力を長時間放出することに慣れていないのか」
「……そ、そうですね。これだけ長い間力を使ったのは初めてかもです」
「……」
フラウの限界が近い。
フラウの光の巫女の力は要。
何とかフラウが力尽きる前にゴーシュを倒さねば。
ライズはそう考えて策を巡らすが、良いアイデアはなかなか出てこない。
「……はぁ。あ、あの、ライズ王子」
「ん? どうした?」
ライズが頭を悩ませていると、息を整えていたフラウが口を開いた。
「私たちは、どうしていま話せているのでしょう。それだけではなく、たまにこうして休める時間があるような……」
「……どういうことだ?」
「えと、あのゴーシュ? はずっと私たちを襲い続けられるわけじゃないのかなって……」
「!」
フラウに言われてライズは魔蟲たちの方に視線を向ける。
魔蟲たちは宿主であるザジの周りを漂っているようだった。
「……そうか」
「え?」
その様子から、ライズは何かに気が付いたようだ。
「ヤツら、宿主であるザジから一定以上離れられないんだ。もしかしたら時間と距離、その両方の制約があるのかもしれない」
「制約、ですか」
魔蟲からしたら天敵であるフラウからさっさと離れて戦場をかき回した方がいいはず。
それをしないのはザジ本体がここにあるから。
ならば、さっさとザジを移動させればいいはず。
それをしないのは、ザジを移動させるのにザジの中に入り込んだ瞬間にフラウにまとめて撃退されるのを恐れているから。
「……狙いはフラウの消耗か」
ライズはそこでゴーシュの狙いに気が付く。
自分の唯一の天敵を少しずつ削って無力化する。
魔蟲を他の戦場に行かせまいとするライズの策を逆手に取ったゴーシュの作戦。
「……ヤツは、はじめからいたちごっこで消耗戦をするつもりだったのか」
だが、フラウが完全に消耗する前にそれに気付けたことで、ライズのなかで一筋の光明が見えた。
「……よし」
『……皆、これから言うことをよく聞いてくれ』
『……王子?』
ライズは作戦を秘密裏に伝えるため、フラウと兵たちに念話を送ることにしたのだった。
「動き出したです!」
ライズが作戦を伝え終えた頃、魔蟲たちが再び霧のようにこちらに向かい始めた。
「……よし。では、手はず通りに」
「はっ!!!!」
ライズに言われ、兵たちが散っていく。
『……オオォォォォ』
二手に分かれた兵に魔蟲が向かう。
魔蟲は魔力を求めるその習性上、魔力の多い方に向かうようで、二手に分かれた兵の総魔力数が多い方に自然と向かっていく。
とはいえ、すべてがそちらに向かうわけではないようで、全体の1/3ほどの数の魔蟲が少ない方の兵に向かっていった。
「よし! いくぞ! フラウ!」
「はいですっ!」