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第二百三十六話 2人の本気

「や」


「うわっ! プル!?」


 ノアたちと魔王直属軍との戦いを見守っていたら、プルが転移魔法で現れた。

 いつものとは違う、真っ黒な杖を持っている。

 この圧力。魔人の杖だろうか。


「プルがこっちに来たってことは、そっちは無事に終わったのか」


「ん。もち!」


 プルが親指を立てて、グッとしてみせた。


「……ミツキは?」


「勝つには勝ったけど、消耗してたから置いてきた。連合軍の兵たちに任せといたから大丈夫」


「そうか……」


 とりあえずは皆が無事でほっと一息といった所か。


「こっちはどんなん?」


 プルが目の上に手を当てて眼下の光景を見やる。


「一般兵の戦いはとりあえず膠着だな。俺は魔王とスキルの取り合い。ノアとフラウは直属軍とぶつかってる」


「ふむふむー」


 プルは俺の話を聞きながら戦況に素早く目を走らせている。


「そんなら、私はとりあえず様子見かなー。魔王の横のが動き出したら出る。それまでは疲れたから休んでるわー」


「……ああ。分かった」


 どうやらプルは、戦闘中の直属軍はノアたちに任せていいと判断したようだ。


「……すーすー」


「……寝てる」


 プルは簡易結界を張ると、地面に寝転んで眠り始めた。

 魔力は十分すぎるほどあるようだが、体力や精神力を回復させているのだろう。

 きっと必要な時には目を覚ますだろうから、プルはこのまま放っておいていいだろう。


「……さて、ノアたちはどうなったか」

















「……がはっ!」


「……あっついのだ!」


 黒炎を身に纏った黒鬼(こっき)の、接近からのボディーブローを皮一枚でかわし、ノアは自らの拳を黒鬼の腹にめり込ませた。

 黒鬼は苦しそうに前のめりになったが、ノアはその高温の体皮の熱さに耐えかねてすぐに後ろに下がった。


「……俺の速度にカウンターを合わせてくるとはな」


 黒鬼は腹を抑えながらノアに視線を送る。


「おまえの攻撃は速いけど読みやすいのだ。【電光石火】みたいに、超スピードで動き出したら途中で方向転換できないっていうデメリットはけっこう痛いのだ」


「……ふん。わざわざ教えてくれるのか」


「どうせそれだけじゃないのだ。くだらない出し惜しみをしてる間にやられるなんて無様な真似はしないでほしいのだ。それには、こっちはきちんと分かってるってことを指摘するのが一番なのだ」


「……ふん」


 駆け引きはやめて本気で来いというノアに黒鬼も苦笑する。

 だが、それは少し楽しそうにも見える苦笑だった。


「……いいだろう。俺が戦神とまで呼ばれる所以(ゆえん)を教えてくれよう」


「楽しみにしてるのだ!」


 黒鬼はそう言うと、全身に纏っていた黒い炎を手足に集中させた。


「……」


 フ……と、黒鬼の姿が消える。


「……わっ!」


 突然、ノアの目の前に現れた黒鬼がノアの胴に拳を打ち込む。


「ぐっ……!」


 ノアはその拳を受けて、大きく後ろに飛ばされた。


「ふん。自ら後ろに跳んだか」


 手応えの弱さから黒鬼は自分の拳がクリーンヒットではないことを悟った。


「けほ……。いや~、ガードして後ろに跳んでもこのダメージなのはなかなかなのだ」


 ノアは拳を受けた腹をさすりながら体勢を立て直した。

 とっさに魔人の鎚をはさんだことでダメージはそれほど大きくはなかったが、明らかに先ほどよりも力も速度も大幅に上昇していた。


「その黒い炎を手足に集中させることで出力をアップしてるのだ。それに、さっきより身体が収縮した? ような気もするのだ」


 実際、黒鬼は黒炎を集中させるときに自らの身体を圧縮していた。

 より強く、より速く、より洗練させるために。


「まあ、そんなところだ。

 単純な出力の向上。ただし、それまでとは比べ物にならないほどに、なっ!」


「わっ! ……くっ」


 黒炎はすべてを言い終わる前に地面を蹴っていた。

 ノアがかすかに捉えたのはその影だけ。


「ぐっ!!」


 そして、完全に無防備な状態から背後に蹴りをくらった。

 ノアは吹き飛び、地面を削りながら進み、しばらくしてようやく止まった。


「……けほ」


「……ふん。ほとんど傷もつかないか。身体は小さくともやはり巨人族だな」


 ノアは砂ぼこりで服は汚れていたが、口端から軽く血を流しているだけで、目立った外傷はなかった。

 巨人族は生来、身体がとても頑丈なようだ。


「いや~、まいったのだ。ぜんぜん見えないのだ。知覚できない速度で防御をふっ飛ばす攻撃が来るとか、なかなか反則なのだ」


 ノアが服についたホコリを払いながら立ち上がる。


「どうする? このままやられるか?」


 黒鬼はそう言いながら、ゆっくりとノアに近付いていった。


「ん~。さっき自分で言ったことだし、出し惜しみはやめて、私も全力でやることにするのだ」


「ぬっ!?」


 ノアが魔人の鎚を構える。

 そして、ズガッ! と地面に鎚の持ち手を突き刺した。

 その異様な雰囲気に黒鬼は構えを取った。


「……魔人の鎚。解放」


 ノアがそう呟くと、魔人の鎚はズブズブと地面に沈んでいった。


「……なに?」


 完全に地面のなかに消えた魔人の鎚に、黒鬼は嫌な予感を感じていた。


「……ちっ」


 黒鬼は何かマズいと思い、急いでノアを倒す方に切り替える。


「ふっ!」


 そして、力強く地面を蹴ると、ノアに一気に接近する。

 ノアはそれに気が付いていない。



()った!』



 黒鬼がそう確信して、ノアの首を薙ぐ。


 が、



「ぐはあっ!!」



 突然、地面から伸びてきた土の拳にアゴを殴られ、黒鬼は上方に飛ばされた。


「おっ! またそんな近付いてたのだ」


 そこでようやく黒鬼の存在に気付いたノアが黒鬼に手をかざす。

 すると、地面から無数の土の拳が現れて、黒鬼を何度も殴り付けた。


「ぐおおおおおっ!!」


 黒鬼は殴られつつも、かろうじて拳のひとつを足場としてそこから離れた。


「でも、残念」


「……は?」


 しかし、黒鬼が降り立とうとしていた先。

 そこには地面がなかった。

 丸く大きな円状の穴。

 直径5メートルといったところだろうか。

 底の見えない、どこまでも続く真っ暗な穴がそこにはあった。


「……くっ!」


 黒鬼はそこに落ちまいと懸命に手を淵に伸ばす。


「おっと」


「なっ!」


 が、届くはずだった淵はぐにゃりと蠢き、黒鬼の手を避けた。


「飛行系の魔法が使えないヤツにとって私は天敵なのだ。生物は地面がないと生きていけないのだ」


「……ぐ、くそぉぉぉぉぉぉーーーっ!!」


 黒鬼はノアのその言葉を聞くことなく、底のない穴へと落下していった。


「じゃ、閉じるのだ」


 そして、ノアは空いた穴を動かして閉じた。


「……ん!?」


 だが、その穴は閉じなかった。


「な、なんだのだ?」


 そして、地響きとともに大地が揺れるのをノアは感じた。

 穴があった場所を中心にそれは拡がり、やがて、周囲の地面とともに大きく盛り上がった。


「うおおぉぉぉぉぉぉーーーっ!!」


「うわーおなのだ!」


 そして、再び巨大化した黒鬼がその膨れた地面を爆発させながら出てきたのだった。



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