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第二百三十三話 プルさんの杖

 プルがミツキのところに吹き飛んでくる少し前。




「ふぅむ。上級魔法のゼロ距離直撃でも効かないとなると、それ以上の攻撃をぶちこまないといけないと。それも、出来れば連続攻撃で魔天纏(まてんまとい)を剥がさないといけないわけか~」


 プルは上空で悠然と腕を組んで待っている破理(はこと)を放って1人で作戦会議をしていた。


「……うぅむ。不可能じゃないけど、【魔力徴収】が封じられてるから今の魔力残量じゃ不安が残るな~」


「……おぉ~い。嬢ちゃん。まだか~い?」


「まだ」


「やれやれ」


 プルに素っ気なく言われ、破理はやれやれと肩をすくめた。


「……気が引けるけど、やっぱりアレを使わなきゃかな~」


 プルはそう言うと、亜空間収納に手を突っ込んで持っていた杖をそこにしまった。

 そして、がさごそとその中を探りだした。


「あったあった」


「……おいおい。嬢ちゃん、そんなもの持ってたのかよ」


 プルが取り出したのは真っ黒な杖。

 先端に黒い真球。その周りに2つのリング。さらにそれを囲うように六芒星が施されている魔人の杖だった。

 それを見た破理が臨戦態勢を取る。


「そんなんあるなら最初から出せばいいだろ」


 文句を言いつつも、破理はひどく嬉しそうな顔をしていた。


「いやー、スキルが封じられる前のギリギリに使用条件を達成したから、さすがにぶっつけ本番はな~って思ったんだけど、やっぱりこれしかないっぽい」


 プルはそう言いながら破理がいる上空まで浮かび上がった。

 破理のスキルを封じるスキルによって【時の旅人】を封じられる直前、プルは大賢者のジョブをマスターしていた。

 それによって魔人の杖の使用条件を満たしていたのだ。


「なるほどね。でもまあ、手詰まりじゃないみたいで嬉しいぜ!

 それに影人の魔人武器には1回やられてるからな! いつかリベンジしたいと思ってたんだ!」


 破理は嬉しそうにそう叫ぶと、ブワッ! と強力な闘気を身に纏った。


「うん。たぶん使えるよ、たぶん。きっと、たぶん」


 プルは何度もたぶんと呟きながら、破理に杖を向けた。


「……発動させ出来れば、何とかなる、かな」


 プルはそう呟いてから杖に魔力の塊を溜めた。


「むっ!」


 破理はそれを見て身構える。


「……いけ」


 そして、プルがそれを撃ち放つと、


「……わー」


 なぜか杖から放たれた魔力弾の威力に負けて、プルが後方に吹き飛ばされていったのだった。


「……おいおい。だいじょーぶかー」


 ひゅるひゅると飛んでいくプルを破理はすっかり気の抜けた顔で見送っていた。














「いやー、失敗失敗。力加減が難しい」


 ミツキのもとに落下したプルはミツキに魔法をかけたり念話を送ったりしたあと、再び破理と向き合った。


「……」


 再びプルと対峙した破理はすぐに気が付いた。

 プルの魔力が最初よりも遥かに増大していることに。


「でもまあ、無事に発動は出来たからいっか」


「……そうか。魔人武器には魔力回復と総量アップの効果があるのか」


「そんな感じ。周囲から集めた魔力を持ち主に還元する。封じられてる私のスキルと同等以上の効果。実質、無限に魔法を使える感じ?」


「……ははっ。反則かよ」


「おまえがゆーな」


「……たしかにな」


「……」


「……」


 そして、互いにしばらく見合ったあと、プルがすっと破理に杖を向けた。


「……《天雷球(ボルテクスバースト)》」


「ぬっ!?」


 それは先ほどプルがゼロ距離で放って効かなかった雷系の上級魔法。

 それを今度は離れた状態から、正面から破理に向けた。


「……おいおい」


 しかし、それは先ほどとは比べ物にならないほどの大きさだった。

 さっきは両手で軽く持てるほどの大きさだった雷球が、今度は破理をまるまる包み込めるほどの大きさとなっていた。


「……なるほど。威力の小手調べってとこか」


「そそ。ちょっと試してみてよ」


「気楽に言いやがって」


 バチバチと凄まじい電撃を迸らせる雷球を見ながら、破理はニヤッと笑った。


「いいだろう。来いよ。試させてやる」


 破理はそう言うと魔天纏に力を集中した。

 目の前で待機する雷球は簡単に凌げるものではないと理解していたから。

 それでも破理は試してみたいと思い、あえてそれをその身で受けることにしたようだった。


「あざます。じゃあ、どぞ」


 プルは軽くそう言うと、溜めた雷球を撃ち放った。

 撃ち放たれた雷球は超高速で破理にまっすぐ飛んだ。


「……ふんっ!」


 破理が気合いを入れると同時に雷球は破理に衝突し、そして大きく爆ぜた。


「あちちち」


 プルは飛んできた火花を払いながら行く末を見つめていた。


「……いやー、やっぱスゲー威力だな」


「……やっぱり無傷か」


 そして、収まった雷の中から出てきた破理は服に焦げひとつなく、先ほどと変わらぬ状態で現れた。


「いやいや、こんなん、魔王直属軍でも直撃すればただじゃすまねえよ」


「……おまえも直属軍やん」


「ははっ。直撃すれば、って言っただろ。俺には直撃しないから」


「……さよか」


 プルが呆れたように返事を返すと、破理は大きく伸びをしてみせた。


「……ってと。そろそろ俺からも攻めるとするかね」


 ぐっぐっと体を伸ばしながら、破理は攻めの姿勢を見せた。


「……ん~、ほんなら、私も攻めてみようかな」


「……なに?」


 破理の真似をして体をほぐすプルを破理は訝しげに見やる。


 魔法士は基本的に魔法でしか戦わない。

 近接戦闘が得意なものと戦う場合は極力距離を取るか、障壁で攻撃を凌ぎながら魔法を撃つタイミングを見計らうのが普通だった。


 しかし、プルは音速を越える破理に対して障壁を張る気配さえ見せなかった。


「……まあ、いい。魔人の杖がどれほどのもんか、見せてもらうとするか」


 破理はそう呟いて、足場の空気を強く蹴りだした。



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