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第二百三十二話 ミツキの決着



 ……わかる。この弓の使い方が。


 さっきまでほとんど尽きかけてた魔力が、今はどんどん回復していってる。

 魔人の弓が周囲の魔力を集めて私に還元してくれてる。

 そのおかげで体力も戻った。


 私のスキルと合わせれば、私は永遠に矢を放ち続けられる。







『……く、そぉっ!』


 天狐(てんこ)は8本となった尾からそれぞれ特大の火球を放つ。

 それと同時に口からも強力な火炎をミツキに向けて吐いた。


「……もう、無駄よ」


 ミツキの瞳が瞬時にそれらの穿つべき点を見抜く。

 そして、静かに発射された矢は9つに分岐し、8個の火球を消し、向かい来る火炎の波をも吹き飛ばし、それはそのまま天狐の尾の1つを消し飛ばした。


『ぎゃあぁぁぁぁーーっ!!』


 空に天狐の悲鳴がこだまする。

 先ほどもこうして尾の1つを貫かれていた。


「……凄まじい貫通力。いえ、もはや『通過』といっても過言じゃないわね。そこにあるものを障害と見なさない」


 ミツキは自身の射ち出す矢の威力に自分で驚いていた。


「……九尾の尾はひとつひとつ魂を持ってるんだったわね。つまり、あと7回あなたを射てば、残すは本体だけってことね」


『……はぁはぁ。くそぉ~。やるなぁ~』


 天狐は尾を2つ失ってなお、まだ楽しそうにしていた。


「……あなた、楽しいの?」


 ミツキは天狐のその姿に首をかしげた。


『そうだね。楽しいね。僕とまともにやりあえるのなんて直属軍ぐらいしかいなかったからさ。でも、直属軍同士で戦うのは魔王様に禁止されてたから、ずっとストレスだったんだよね』


「……私には分からないわね。こんなものの、何がいいのか」


 ミツキにとっての戦いとは、たんに自分が生きていくために必要だったから行っていたことに過ぎない。

 弱肉強食。

 生きるために狩る。

 それが狩人である自分の流儀であり矜持だった。


「……だから、やらなくていいなら、私はこんなもの、ホントはいらないのよね」


『……ふん。君には分からないよ。生まれたときから王になることが決まってた、自分よりも下のヤツしかいなかった僕の考えなんて……』


「……そうね。私の周りは、私よりも上にいるような人ばっかだったもの。

 でも、だからこそ、ずっと高みだけを見てきた。その過程で、いろんな人と触れ合った。

 その人たちが生きるのを邪魔するなら、私も生きるために戦う。

 戦う理由なんて、所詮そんなものよ」


『……ふーん。生きるために戦う、ね。僕は今まで死にそうになったことなんてないからよく分かんないよ』


「……それが、あなたと破理(はこと)の違いかもね」


『なんでそこで破理が出てくんの? たしかにあいつとは気が合うようで合わなかったけど』


「……軽いのよ、あなた」


『僕は重いよ?』


「……そういうとこよ」


『むむむ~、なんかよく分かんないけど、バカにされてるのは分かるぞ!』


「してるのよ」


『もう怒った! 本気の全力だ!』


 天狐はそう言うと、大きく咆哮した。

 そして、バキバキという音とともに肉体が変形していく。


『ふふ、ふふふ。僕が、僕が本気を出せば、おまえなん……ぎゃっ!!』


 が、その変形の途中で、ミツキは天狐の7本の尾のうちの6本を射ち抜いた。


「いや、そんなの待ってらんないわよ」


『ず、ずるいぞぉ~!』


 尾が1本となった天狐はしゅるしゅると体が小さくなりながら地面へと落ちていった。


「……遊びじゃないのよ、こっちは」


 ミツキはそれを冷たく見下ろしながら天狐を追って地上へと降りていった。








『……ぐぅ。ち、力が……。痛い。痛いよぉ』


 小さな子狐の姿になった天狐は口から血を流しながら、よろよろと逃げていた。


「……惨めなものね」


『ひゃあっ!』


 追い付いたミツキを見て、天狐が怯えて物陰に隠れる。


「どう? 初めて追われる側の気分を味わったのは?

 あまり気持ちのいいものではないでしょ?」


 天狐が隠れている場所を見据えるミツキの目は恐ろしく静かで冷たかった。

 狩るべき獲物。それも害を為す獣を駆除するときの狩人の眼。


『ひ、ひぃぃぃっ!』


 天狐は初めて感じるその感情が恐怖だと理解した。


『も、もうやだよ~! こんなのもうやだぁ~! もう帰りたいよ~!』


「それが、あなたが楽しいからって言って狩ってきた相手が抱いていた感情ね」


『ぼ、僕はそんなことしてないよ~! 僕より弱いヤツをいたぶったってつまんないもん! 僕に挑んでくるヤツを倒して遊んでただけだもん』


「……あら、そうなの」


『そうだよ~!』


 ミツキはそこで、天狐の精神性がただの子供と同じなのだと理解する。


「……ねえ。あなたって魔物を使役できるのよね?」


『え? そ、そうだよ。魔獣の王の付帯スキル【魔物使役】で全ての魔物は僕の言うことを聞くんだ』


 それを聞いたミツキは少しだけ考えたあと、ふっと笑って口を開いた。


「……なら、いま暴れさせている魔物たちをすべて撤退させなさい。で、今後人に害を為すようなことはしないように命令するのよ。そうしたら、あなたのことは見逃してあげる」


『え? ホ、ホント?』


 ミツキにそう言われ、天狐が物陰からひょこりと顔を出す。


「ええ。ホントよ」


『……えっと、自分たちを守るときには反撃してもいいかな?』


「もちろんよ。人間にもいろんなヤツがいるからね。自分たちのテリトリーを守るためなら戦うことを認めるわ」


『……で、でも、そんなことしたら魔王様に怒られるんじゃ……』


「あとで魔王様に怒られるのと、今ここで私に殺されるの、どっちがいいかしら?」


『ひ、ひぃぃぃっ!』


 ミツキの輝くような笑顔に天狐は再び物陰に隠れた。


「……安心しなさい。信用できない人間は多いけど、私は約束を守るわ。森の狩人は森を守りもするのよ」


『……分かってる。エルフたちは僕たちを無意味に狩らない。彼らは彼らで生きるためにそれをする。だから、君の言ってることは分かる』


 天狐はそう言うと、物陰から完全に姿を現した。

 そして、大きく息を吸うと、天に向かって大きく咆哮した。


 その声を聞いた魔物たちは動きをピタリと止め、踵を返して森へと帰っていった。

 戦っていた連合軍の兵たちがその場に腰を下ろす。


「……ありがと」


 尖った耳をピクピクと動かして魔物の帰還を察知したミツキはにこりと笑ってみせた。


「1人で帰れる?」


『……大丈夫。迎えも呼んだ』


 すると、空から大きな鷹の魔獣が飛来してきて、天狐の横に着地した。

 天狐はその鷹の背に飛び乗ると、鷹はすぐに再び空に舞った。


「……今度は一緒に遊びましょ。戦いとかじゃなくて、他の楽しい遊びを教えてあげるわ。

 お菓子も用意しておくわ」


『遊び! お菓子! わかった!』


 ミツキの言葉を聞いた天狐は残った尻尾をフリフリと振ってみせた。


『じゃあね! エルフだか人間だか分かんないお姉ちゃん! 魔王様は強いから頑張って!』


「……ええ、ありがと」


 ぶんぶんと尻尾を振る天狐に手を振りながらミツキは見えなくなるまでそれを見送った。


「……ふぅ」


 そして、だらんと手を下ろすと、いつの間にか耳は元に戻り、髪の色も元の黒に戻っていた。


「……プルめ。戻るときも、めちゃくちゃ痛いじゃないの」


 ミツキはそれだけ言うと、バタリと地面に倒れてしまった。


「ミツキ様っ!!」


 そして、倒れたミツキは駆け付けた連合軍によって保護されたのだった。




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