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第二百二十七話 ノアと黒鬼。そして、ライズとザジ

「……ちっ」


 俺は次から次へと奪われていくスキルを何度も回収し、再配布していく。

 いくらサポートシステムさんのフォローがあるとはいえ、かなりのリソースが必要になる。

 俺はここから戦場に出ることはできなそうだ。

 とはいえ、魔王と直属軍の1人を留めておけているのだから、ここは皆に任せるしかないか。


「……リードさん。大丈夫ですか?」


「……大丈夫、です」


 隣ではリードが忙しなく目を動かしている。

 彼はどうやらここで兵たちに念話で指示を出しているようだ。

 さすがに隊長格にだけなのだろうが、全兵数は50万を超える。

 一瞬たりとも油断できないのだろう。

 彼には話しかけるのはやめた方が良さそうだ。


「……ノアとフラウの方は大丈夫だろうか」


 スキルのやり取りに慣れてきた俺は戦場でひときわ派手なやり取りを繰り広げているノアたちの方に目線を移した。

 ノアが相手をしているのは魔王直属軍の1人で、大柄な黒い鬼だ。

 ヤツは鬼神と呼ばれる存在で、オーガなんかにとっては神みたいな存在らしいとリードが言っていた。

 戦の神。戦神と呼ばれることもあるらしい。

 とはいえ、ノアも歴戦の猛者である巨人族の王だ。

 相手が戦神といえども引けを取らないだろう。














「俺の相手はやはり貴様か! 巨人の王よ!」


 黒鬼(こっき)は自分の前にスタッと着地したノアに対して声を上げる。


「いや~。でっかいのだ。巨人族で一番でっかいのと良い勝負なのだ。

 ヴラドの国にいた時はちっちゃくなってたのだ?」


 黒鬼の前に着いたノアは目の上に手をやって上を見上げた。

 巨人族で最も体長が大きい者で50メートルほど。

 黒鬼はそれに匹敵するか、それ以上の体躯を誇っていた。


「当然だ。あんな地下で元の大きさになっていたらあの場所を破壊してしまうからな。魔王様の命令は破壊ではなかったからな」


「ふ~ん。破壊じゃないなら何なのだ?」


「魔王様からはあの場所の調査……え? あ、はい! 申し訳ありません! はい! ……そんなこと言うわけがないだろう! バカめ!」


「……ちぇ。ここの声まで聞いてるのだ」


「そうだ! 魔王様はすごいのだ!」


 ノアは黒鬼があまり頭が回らなそうだと判断して探りを入れようとしたが、おそらく魔王による念話でそれを止められたことに頬を膨らませた。


「……ずいぶん魔王を信奉してるのだ」


 自身が戦神として崇められるほどの存在であるにも関わらず、黒鬼かそこまで魔王を信用している理由がノアには分からなかった。


「ふん! 魔王様は俺に勝った唯一の存在! 強さこそ全てだ! 俺より強い魔王様にかしずくのは当然だろう!」


 黒鬼は腰に腕を当てて、えへんとふんぞり返った。


「……なるほど。おまえの理屈はよく分かるのだ。巨人族も強者に従う。今や影人は私よりも強い。だから私は影人に従ってるのだ」


「ふん! 魔王様より強いヤツなどおらんわ! 貴様も魔王様の強さを見れば従いたくなるだろうな!」


 黒鬼はそう言うと、わっはっはっ! と笑いだした。

 その声だけで風圧がノアのもとに届くほどだった。


「まあ、そういうシンプルなバカは嫌いじゃないのだ」


 ノアはその風を受けながら嬉しそうに上を見上げていた。


「バカって言った方がバカなんだぞ!」


 黒鬼はノアの言葉に地団駄を踏む。

 その衝撃で地面が揺れ、周囲で戦っていた兵や魔族たちが離れていく。


「おまえ、けっこう面白いヤツなのだ」


 ノアは楽しそうにそう言いながら、小型化して背中に背負っていた魔人の鎚を手に取った。


「でもまあ、これ以上言葉はいらないのだ。私たちは言葉より拳で語るのだ」


 そう言って鎚を黒鬼に向けると、黒鬼はその大きな口を開けて、にやっと笑った。

 開いた口からは鋭く尖った牙が覗く。


「その通りだ。それこそ戦闘種族。来い。巨人族の王よ。戦の神の戦いを見せてやろう」


「ふふふ。楽しみなのだ~!」


 ノアは楽しそうに笑いながら鎚を地面に叩きつけた。














「……」


「ぎゃあぁぁぁ~~っ!!」


「な、なんだこの闇はっ!? 力が、吸い取られっ!」


 一方、闇のゴーシュは周囲に真っ黒な霧を振り撒いていた。

 その霧に触れた兵は力を吸い取られ、やがて吸い尽くされて干からびてしまっていた。


「やめろ! ザジ!」


 そこに雷を纏ったライズが超スピードで墜ちる。


「……」


 名前を呼ばれたザジはちらりとライズの方を見たが、すぐに興味を失ったように霧の操作に戻った。


「ライズ王子! 私も手伝うです!」


「フラウ!? 影人さんか。助かる!」


 そこにフラウも到着し、ライズと並び立つ。


「……光の、巫女……」


 ザジはフラウの姿を見ると、パッと闇の霧を収め、フラウの方へとゆっくりと首を向けた。


「……第一目標を視認。これより確保に移る」


「……ひっ!」


 ザジはまるで機械のように呟くと、黒衣のマントを翻した。

 その中は闇の魔力を放つ無数の虫で溢れ、それらがザジの体を這うように蠢いていた。

 フラウがそれに声を上げて後退る。


「な、なんだあれは……」


「ザジ。いったいどうしちまったんだ」


 そのおぞましい姿を見て、ライズやガルダ、護衛としてやってきた兵たちが固唾を飲む。


「あれが闇のゴーシュの正体ですね」


「きゃっ!」


「わっ! フォルトナー博士!?」


 そのとき、突然ライズたちの背後から声が聞こえ、ライズが慌てて振り返ると、そこには助手のリエルに付き添われたフォルトナー博士の姿があった。


「リエルまで。いつからここに?」


「さっきからいましたよ」


「すみません、ライズ殿下。博士が戦場につれていけとうるさくて」


 リエルは申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。


「リエルのスキルか。誰にも気付かれずにこんなところまで来るとはな」


 リエルのスキルは周囲に完全に同化するもの。

 エルフである彼女は自然の中ではよりそのスキルの効果が発揮されるため、草原地帯のこの場所で彼女のことを感知できる者はそういなかった。

 魔王は気付いていたが、フォルトナー博士は協力者でもあったため、見逃してやっていたようだ。

 ちなみにリエルはフォルトナーと魔王の関係性に気付いてはいない。

 今回も単にスキルや魔法の研究に付き合わされていると思っている。 

 実際、彼の目的はそれ以外にないのだが。


「それより、フォルトナー博士。あれが正体とは?」


 ライズはこの場に彼らが現れたことは置いておいて、彼の発言に言及することにした。


「そのままの意味ですよ。闇のゴーシュとは、あの闇の魔力を持った虫の集合体。彼らは統一意思のもと、宿主の体を操り、強力な力を発揮しているのです」


 フォルトナーはじつに楽しそうにザジを観察しながら解説していた。


「じゃ、じゃあ、ザジはヤツらに操られているだけなのか!?」


「おっと!」


 ライズは思わずフォルトナーに詰め寄るが、フォルトナーはそれをサッと避けた。


「まあ、そうとも言えますし、そうでないとも言えますね」


「どういうことだ!?」


 フォルトナーの曖昧な返答にライズが声を荒げる。


「アレは宿主に取り憑くと、普段はその身のうちに姿を隠します。そして、宿主が眠りに入ると宿主の肉体を操るのです。

 しかし、始めのうちはまだ宿主も抵抗力が高いので、ヤツらを追い払うのは簡単なのです」


「……なに?」


「ただ、ヤツらは宿主に莫大な魔力と闇を操る能力を与えます。その力欲しさにヤツらに身を委ねる者もいるようです。

 つまり、彼は自らの意思であの状態にまで至ったのです。

 徐々に意識の主導権を奪われると知りながら。

 彼がなぜそれをしたかまでは分かりませんが、今はもうおそらくたいした自我も残ってないでしょうね」


「……そ、そんな」


「……」


 ライズが悲壮感に満ちた目を向けると、ザジは虚ろな目をしながら闇の甲虫たちを操作し始めた。

 実際、操られているのが自分自身なのだということも今は分かっていないようだが。





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