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第二百二十五話 ミツキの戦い

「ははっ! おねーちゃん、良い腕してるね!」


「そりゃ、ど~、もっ!」


 城から近くの高い建物の屋上へと移動したミツキは笑う天狐(てんこ)に向けて思い切り引き絞った弓を放つ。

 天狐はミツキから数百メートル離れた広場に止まっていた。天狐はそこからでも肉眼で容易に姿を確認できるほどの巨体だった。

 放たれた矢は光を纏って巨大化。建物を穿ちながら進み、天狐の眉間に吸い込まれるように飛んだ。


 しかし……。


「よっ、と」


 狐の姿となった天狐の9本の尻尾。そのうちの1本がそれを容易くつかみ、矢はあっけなく無効化された。


「……ったく。対魔用のとっておきを簡単につかまないでほしいわよね」


 ミツキの得意は光属性。

 フラウの光の巫女の力とまではいかなくとも、魔獣や魔族には特効となる属性だった。

 それを何回も、いとも容易くつかんでみせた天狐にミツキはため息をつく。


「……あの金色の魔力を纏った金色の体毛が私の力を届かせてないのね」


 ミツキは金色に輝くふさふさの毛を擁する天狐をじっと見つめる。


「金毛玉面九尾の狐ね。前の世界で聞いたことあるわ。なんでこっちの世界にもいるのかしら。

 あの女神様の仕業かしらね」


 ミツキは初対面でパンダの姿で現れた女神を思い出す。

 やたらとあちら側の世界に精通していた彼女なら魔獣のモチーフにあちらの幻獣を用いても不思議ではないかとミツキは結論付けた。


「……そういや、あの女神様。まさかあんなとんでもない美少女だったとは思わなかったわね」


 ミツキは天狐が近付けないように休みなく矢を射続けながら、なぜか、ぼんやりとかつての記憶をたどっていた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『こんにちは~! お久しぶりでっす!』


『え? だれ? 私、あのパンダ女神と話そうと思って教会にお祈りしに来たんだけど』


『やだな~! 私がその清く正しく美しくがモットーの女神ですよ~!』


『……ごめん。間違えたみたいだから帰るわ』


『待って~! 待ってくださ~い! 女子が久しぶりだったからテンション上がっちゃっただけなんです~!』


『……ホントにあのパンダなの?』


『そうですよ~。ホラっ!』


『わっ! ……ホントだ』


『やっと信じてもらえましたね~』


『あ、戻った。てか、めっちゃ美少女じゃん』


『ふふふ、ありがとうございます~。イリス様に美少女仕様で誕生させてもらったんですよ~』


『イリス様?』


『あ、私の親です~。というか、すべての神はイリス様から生まれてるので、神の神みたいなものですね~。私はイリス様からこの世界の管理を任されてるんですよ~』


『あ、神様もそんな感じなのね』


『そうなんですよ~。こう見えて私けっこう古株で、いろいろ任されてて大変なんですよ~』


『そうなのね。たしか、アカシャ教、だったわね』


『あ、そうです~。私の名前です~』


『アカシャって、アーカーシャ? アカシックレコードとかもだっけ? あれ? そもそもなんの神様だっけ?』


『まあ、いろいろ大変なんですよ~』


『まあ、いいわ。それで忙しいから地上のいざこざは転生者を呼んでまで任せたいってとこかしら』


『う~ん。まあ、そういうことにしておきますね~』


『……神様って、なんで皆こんな胡散臭いのかしら』


『よく言われます!』


『……威張らないでよ、まったく』





『あ、なんか呼ばれてますよ』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「……え?」


「ミツキ!!」


「……はっ!」


 プルの声でミツキがハッと我に返ると、すぐ目の前に天狐が迫っていた。


「あれ? 目ぇ覚めちゃった」


「くっ!!」


 猛スピードで飛び込んできた天狐の体当たりに対して、ミツキは魔人の弓に魔力を集中させた。


「どーんっ!!」


「きゃっ!!」


 そして、天狐の巨体に猛スピードでぶつかられたミツキは後方に思いきり吹き飛ばされた。


「……あっ!」


 そして、建物に思いきりぶつかったミツキは瓦礫に埋もれた。


「……くっ」


 痛みに顔をゆがませながら、ミツキはがらがらと瓦礫から這い出る。


「……魔人の弓の頑丈さに助けられたわね」


 ミツキは全身を走る痛みを堪えながら、弓を地面に突き立てるようにすぐに体を起こし、自分に治癒魔法をかける。プルほどの治癒力はないが、やらないよりはマシのようだ。


「……私、なんで戦闘中にぼーっとしてたのかしら」


 ミツキが先ほどの自分の思考に違和感を覚えると、そこにプルから念話が届く。


『あの狐。幻惑の吐息を出してる。たぶんスキル。魔法じゃないから感知しにくいから気をつけて』


『……そういうことね。ありがとうプル』


『ファイト~』


 プルとの念話を終えた頃にはある程度のダメージは回復できていた。


「……っ!」


「あれ? もう回復しちゃったんだ~」


 そこに、頭上から天狐が降りてきた。

 その衝撃で地面が割れる。

 ミツキは横に飛んでその衝撃を避けた。


「……」


 ミツキは懐から口布を取り出して口を覆った。

 頭の後ろで布を結び、簡易的なマスクにしたあと、それに防護魔法をかける。

 さらに、【狩人の目】で集中して天狐を見ると、口元からかすかに紫色の煙のようなものが出ていることに気付いた。


「……あれが【幻惑の吐息】ね」


「あ、もう気付いたんだ。すごいね~。過去の記憶を思い出すタイプにしたからバレにくいはずなのに。

 あっちのおチビちゃんの助言かな?

 それとも、過去からも干渉するほどの何かとか?

 もしくは両方?」


 天狐が首をかしげながら、チラリとプルたちの方を見ると、プルと破理(はこと)は空中で激戦を繰り広げていた。


「まったく。狐に化かされるってホントだったのね。いつの間にか風下になってたし」


「ああ、それはあの子だよ」


 ミツキは天狐が指差した方をチラリと見やる。

 すると、そこには大きな羽をはばたかせる虫タイプの魔獣がいた、が、それはひどく存在感が虚ろだった。


「……隠匿系のスキルを持つ風属性の魔獣。初めからこのために、アレに風向きを操作させてたのね」


 ミツキはそう言いながら、その魔獣に矢を放って撃ち落とした。


「……でも、それをこんな簡単にバラして良かったのかしら?」


「いーんだよ~。僕の【幻惑の吐息】は強力すぎて集団戦じゃ味方も巻き込んじゃうから、あっちの兵士さんたちには使えないしね。それに、同じ手が効くほどお姉さんは弱くないでしょ?」


「……褒め言葉として受け取っておくわ」


 ミツキはとりあえず兵たちにそれが使われないことに安堵した。


「じゃ、第2ラウンドね~」


「……くっ!」


 ミツキは話は終わったとする天狐から距離を取るために、【縮地】で一気にその場から離れた。

 遠・中距離系の自分ではあの巨体の天狐と近接戦闘をするのは不利。

 ミツキはそう判断し、いったん天狐から距離を取ることにしたのだった。


「お~! スピードアップ系のスキルも使えるんだね~!」


 天狐は凄まじい速度で後方に離れていくミツキをのんびりと眺めながら、ぐっと足に力を入れた。


「……でもね」


「……え?」


 ミツキが高速で動くなか、気付いた時には再び目の前に天狐のが迫っていた。


「僕も使えるんだ、そういうの」


 そして、ミツキは天狐の巨体によって再び吹き飛ばされるのだった。




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