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第二百二十一話 開戦

 そして、2つの軍勢は互いに向き合った……。




「……こちらとあちらの数は、ややあちらの方が多いか」


 平原に並んだ軍勢。

 こちらはほとんどが人間。たまにぽつぽつと獣人や竜人がいるが、あれは冒険者や<ワコク>の者だろう。獣人は基本的に魔王側だが、こちらにも何人か味方がいるようだ。

 今回は間違えないように全員が和製鎧を身に付けている。


「……こちらはマリアルクス・リリア・ワコク、ならびに冒険者などの有志による連合軍で、総数70万です。

 対する魔王軍は約100万。数の上ではこちらが不利ですね」


「……ふむ」


 隣に立つライズ王子が報告を受けて説明してくれる。

 一般兵や冒険者たちの実力が敵の魔族と同レベルだとすると、たしかにかなりの不利だ。

 俺たちや殿様が魔王直属軍と戦うとしたら、せめて数の上でもイーブンに持っていきたいところだが……。


「影人っ!」


「ミツキっ!」


 そこに、ミツキが黒い弓を背負って現れた。


「どうやら間に合ったようですね」


「長さんも」


 そして、その後ろにはプルの父であるエルフの長率いるエルフの部隊の姿があった。


「エルフの大森林精鋭25万。助太刀いたします」


「長殿。助かります」


 ライズ王子が深く頭を下げる。

 

「な、なんか揺れてるです~」


「……これは」


 そして、フラウがそれを感知する。

 たしかに、地面がズシンズシンと揺れているのを感じる。


「か~げとっ!」


「うわっ!」


 どこからともなく現れたノアが俺の背中に飛び乗ってきた。


「待たせたのだ!」


 地響きの正体は大量の巨人だった。

 連合軍の横につく形で、何人もの巨人たちが平原を埋める。


「巨人族は数が少ないのだ。5万だけだけど連れてきたのだ!」


「いや、十分だ。ありがとう。助かった」


 巨躯の巨人がいるだけで一気に圧迫感が増した。魔王軍にはかなりのプレッシャーになるはずだ。

 さらに、ミツキとノアが合流したのも助かる。

 黒い魔人の弓を背負っているということは、ミツキも魔人武器を使えるようになったのだろう。

 ノアはそれに加えて万有スキルもある。

 魔王や直属軍と戦う上で大事な戦力となるだろう。


「あ、そうだ。ヴラドたちも来ようとはしたみたいだけど、自分たちの国の建て直しがまだぜんぜんだから今回は来れないって言ってたのだ」


「そうか。まあ、それは仕方ないな」


 不老不死の吸血鬼(ヴァンパイア)たちが加わってくれれば百人力だったのだが、あそこも戦いが終わったばかりだ。

 まずは自国の復旧に努めるのは当然だろう。

 あるいは、魔王はそれさえ見越してあの国を乱したのかもしれない。

 真の策士とは失敗さえも利に代えられるように二重三重に策を労するものだからな。


「だから、さっさと終わらせてこっちの復興を手伝えって言ってたのだ」


「……ふっ。簡単に言ってくれる」


 こちらが勝つ前提か。

 女王らしいといえばらしいな。


「……これで、数の上では100万ずつ。おまけにうち5万は一騎当千の巨人族。

 これは何とかなりそうですね」


「……このままなら、ですがね」


「……それはどういう?」


 ライズ王子が首をかしげる。

 魔王のことだ。

 ここに出てきただけが総戦力とは限らない。

 まだ何か、隠し玉があるはず……。


「お~い! 兄ちゃ~ん!」


「! あれは……」


 そのとき、魔王軍陣営から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 どうやらスキルで拡声しているようだ。


「久しぶり? だね~」


 それは年若い少年。

 魔族の領域で俺たちを迷いの森から出してくれた魔物使いの少年だった。

 少年はふさふさの2本のしっぽをふりふりと揺らしながら、嬉しそうに手を振っていた。


「……そうか。あいつもあちら側だったか」


 堂々と魔王軍の只中に立つ少年は明らかに魔族側だった。

 やはり彼は魔王側として、理由は分からないが魔王の命令で俺たちを誘導していたのだ。


天狐(てんこ)ちゃん。遅かったじゃな~い!」


「ごめんよ~! 足の遅いのも多くてさ~!」


 魔王の声に気安い言葉で返答する天狐という少年の正体はなんなのだろう。


「ご主人様。また地面が~」


「……なんだ」


 フラウが再び地響きを感じ取る。

 少しすると俺もそれが分かるようになった。

 地面が揺れている。

 だが、巨人たちはもう連合軍と合流しているので、彼らではない。


「……あれは」


 そして、その正体はしばらくしてやってきた。

 地平の果て。

 魔王軍の背後からやってきた大量のそれは、


「……ま、魔獣の群れ?」


 ライズ王子が驚く。

 現れたのは、言語能力はないが強力な力と魔力を持つ魔獣に分類される化け物たちだった。

 サイクロプスやキマイラ、人面樹など、さまざまな種類の魔獣が巨大な波のように現れた。


「集められるだけ集めたよ! 30万ぐらいかな? すごいでしょ!」


 天狐が腰に手を当てて、えへんと仰け反る。


「……こんな数を。おまえはいったい」


「僕? 僕はねぇ……』


 天狐はそう言うと、巨大な狐へと姿を変化させた。巨人に匹敵するほどの大きさだ。

 2本だったしっぽも9本に増えていた。


『僕は魔王直属軍にして魔獣の王! すべての魔獣は僕の命令に従うんだ!』


 巨大な九尾の狐へと変貌を遂げた天狐は念話のように声を伝えてきた。

 あの小さな少年の正体はとんだ化け物だったようだ。


「い、一個小隊で戦うような魔獣の群れが30万も……」


 ライズ王子は顔を青くしている。

 たしかに、数の上でも100万対130万でこちらが不利な上に強力な力を持つ魔獣まで加わった。

 いくらこちらに弓と魔法の名手であるエルフや、百人力の巨人たちがいたとしてもかなりキツい状況と言えるだろう。

 王子が旗色悪しと見ても仕方ない。


「怯むな! ライズ・マリアルクス!」


「……と、殿」


 そんな王子の姿に、最前線に立つ殿様が激を飛ばす。


「そなたは我ら連合軍の総司令官! そなたが臆してどうする!

 誰よりも冷静に、誰よりも熱くあるのが長たる者の矜持だぞ!」


「……」


 どうやら今回の戦は人類の存亡をかけた戦いでもあると同時に、未来を担う王子を育てるものでもあるようだ。

 殿様は王子に王たる姿を学ばせるために、この連合軍の長という立場を任せたのだろう。


「……そうですね」


 殿様の言葉を受けて、ライズ王子が剣を抜く。

 その剣に雷が宿り、バチバチと爆ぜる。


「俺が臆していては示しがつかない。俺たちが負ければ人類は終わる。これは、人類そのものをかけた戦いだ。

 命を捨てろとは言わない。

 だが、命を懸けろ。

 命を懸けて、大切な人々を守れ!

 俺が言うのはそれだけだ!


 剣を抜け!」


 王子の号令に従って、すべての兵士が剣を抜く。

 エルフたちも矢をつがえて弓を構え、魔法の詠唱を始めた。


「開戦だ!」


 そして、ライズ王子の剣から雷が空に向かって走ったのをきっかけに、両軍が進軍を開始したのだった。













「ふふふ、張り切ってるわね~」


 そんな様子を魔王はのんびりと眺めていた。


「……やっぱりマリアルクス王はいないのね」


 魔王はこちらに向かってくる兵やライズ王子たちの方を注視して、ぽつりと呟く。


「……では、作戦通りに?」


「そうね~」


 黒鬼(こっき)の問いに魔王は手を前にかざしながら答える。


「こっちも始めましょ」


 そして、魔王は『世界の扉』を出現させたのだった。




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