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第二百十八話 帰還

「……それで、ここで第二師団を横から……」


「……」


「……殿下?」


「……」


「ライズ殿下!」


「……ん? ああ、すまない。なんだ?」


 ライズと魔王軍迎撃の作戦を立てていたザジはライズが上の空で話を聞いていないことに気付いて声をかけた。


「どうしたのですか? 先ほどから集中できていないようですが」


「……ああ」


「……先ほどのフォルトナー博士の情報ですか?」


「……」


 問いに応えないライズの様子から、ザジはそれをイエスととった。


「……<ワコク>の姫のことが心配なのは分かりますが、いまは私情を抜きにして……」


「……そんなことは分かっている」


「え? ……博士に、他に何か言われたのですか?」


「……」


 ライズは黙ったままうつむく。

 長年の付き合いで、ザジはそれを肯定だと受けとることができた。


「……彼は、いったい何を?」


 ザジは嫌な予感しかしなかったが、いまそれをこの場ではっきりさせておかなければ後々大変なことになる。

 そんな感覚に襲われて、ザジは尋ねずにはいられなかった。


「……」


 そして、ライズはゆっくりと顔をあげ、ザジの顔をまっすぐに見つめて口を開いた。


「……おまえが魔王直属軍の闇のゴーシュ。つまり、裏切り者だと言ったのだ」


「……なっ」















「……はぁはぁっ」


「……カエデ姫。大丈夫ですか?」


 俺たちは魔王の城から抜け出したカエデ姫と忍のトリアさんとともに草原を走っていた。

 魔王の領域である闇の霧からは簡単に抜けられた。

 というより何の障害も発生しなかった。

 入ってきたときのまま、念話や転移ができないだけで、やはり出入りは自由なままだったのだ。

 草原を走っている今もとくに妨げになるようなものはない。

 野生の魔獣なんかも現れない。

 これなら神樹の森の方が遭遇率が高かったぐらいだ。


 これは何を意味しているのか。

 野生、などというものが存在しないほど完璧に支配されているのか。

 あるいは、俺たちがいるこの場所だけ意図的に避けられているのか。

 いずれにせよ、魔王は俺たちをこのまま逃がすつもりなのか? 油断はできないが……。


「……はぁ、はぁ」


 カエデ姫が苦しそうに肩で息をしている。

 前の世界では平安貴族だったようだし、いくら転生者として身体能力が上がっていても長距離での移動は厳しいか。

 それなら……。


「カエデ姫。疲れたでしょうから俺が背負います。どうぞ、乗ってください」


「「「「え、えぇっ!?」」」」


「え?」


 俺がカエデ姫の前に屈んだら、プル以外の4人から驚きの声が上がった。

 何か問題があったのだろうか。


「か、影人殿っ! さすがにそういうわけには! そうだ! 私が代わりましょう! さあ! 姫っ!」


「おっと」


「……いや、それもちょっと」


 なぜかテツさんが俺を押し退けるようにカエデ姫の前に屈んだが、カエデ姫は身を引いていた。


「ならば私がやりましょう!」


「ト、トリアなら……きゃっ!」


「ぐひゃっ!」


 そして、テツさんを押し退けて現れたトリアさんだったが、カエデ姫が乗ったらその場に倒れてしまった。

 いくらトリアさんが鍛えているとはいえ、疲労状態で人を背負うのは厳しいようだ。


「な、なら私が!」


「……フラウちゃん。気持ちだけもらっとくわ」


「……早く行かな」


 ……うん。プルさんの言う通りだな。

 そうだ。








「こ、こんなことも出来るんですね」


 で、結局俺の影者召喚で具現化した影に背負わせることにした。

 影に体力なんてものがあるのか分からないが、問題なさそうだからこのまま行くとしよう。


「……さて、ここまで戻ったな」


 そして、俺たちは迷いの森の入口に到着した。

 来たときはいろいろあったが、あの魔物使いの少年のおかげでこの森を抜けることが出来た。

 今回はうまく、そして早く抜けることが出来るだろうか。


「……ん~と、あ、ここだここだ」


「ん?」


 なにやらプルが森の入口でガサゴソやり始めた。

 一本の木に手を添えると魔方陣が展開し、光り始めた。

 そして、その数メートル先の木もまた同じように光っていた。


「一応、来るときにマーキングしといた。この森は魔力の通った森だから、一本一本に少しずつ違った魔力がある。だから迷いの森として木の配置が変わっても、どの木がどう動いたかが分かる。

 それを逆算していきながらたどれば外に出れる」


「おおっ! さすがはプル殿っ!」


「すごいです~!」


「えっへん」




 そうして、俺たちはプルのおかげで帰りは無事に迷うことなく森を抜けることができた。


 そして、行きは天龍の力で気付いたら森の中にいたが、戻る道がなかったので帰りはどうやら橋から帰ることになるようだった。

 橋は意外にもすぐ近くにあり、俺たちは大きくて長い橋を渡ったが、やはりそこにも敵の姿はなかった。





「ようやく戻ってきたな」


 そしてついに、俺たちは再びエルフの大森林の領域に戻ってきたのだった。




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