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第二百十四話 脱出

「テツさんっ!」


「お任せをっ!」


 2方向から飛んでくる無数の手裏剣をテツが弾く。

 手裏剣には魔力が通っていたが、テツのスキルの方が上回っているようだ。

 テツのスキル【黒鉄(くろがね)】はどうやら単純に肉体を鋼鉄化させるだけではなく、魔力による超強化も兼ねているようだ。

 そのため、魔力を使った魔刃や魔法の類いもある程度防げる優れものらしい。


「ふっ!」


「……!」


 遠距離からの援護がなければ俺と刀の忍との一騎討ち。

 おそらくは影長レベルであろう忍では俺の攻撃を防ぐことは難しい。

 隠密や死角からの攻撃には面食らったが、正面からの戦闘になれば敵に勝ち目はない。


「……! 影人殿っ! 他のウッドサーバスが!」


「……数で来るか」


 完全に勝ち目がないと判断したのか。

 森は行動を停止させていた他のウッドサーバスたちを動かし始めた。

 今度はどれもそれなりに早い。

 単騎の実力では勝てないから量で押しきる作戦で来たようだ。

 さっきまで戦っていた忍のウッドサーバスの動きが目に見えて悪くなる。力を他の奴らに等分したからだろう。


「あとは持久戦ですね。フラウが壁を破るまでもちこたえましょう」


「承知!」


 幸い、1体1体の力は等分したことでかなり弱まった。

 2人で相手をし続けることは出来そうだ。


「……フラウ。頼んだぞ」


 俺はフラウにぽつりとエールを送りながら、目の前のウッドサーバスに刀を振るった。












「フラウ。どんなん?」


 周囲のウッドサーバスたちが動き出したことで状況の変化を察し、プルはフラウに進捗を尋ねた。


「……さっきよりはぜんぜん溜まるのが早いです。でも、まだこの壁を破るほどではないかも」


 フラウは目をつぶって光の巫女の力を溜めることに集中していた。

 プルのことを信頼しているからこそ出来ることだろう。


「がああぁぁぁっ!!」


 ウッドサーバスがフラウたちに攻撃を仕掛けてくるが、プルの結界に弾かれて腕が吹き飛んでいた。

 ウッドサーバスはそれにも関わらず、体をぼろぼろにしながら何度もプルの結界に突っ込んでくる。


「死の行進やね~」


 結界に群がるウッドサーバスをプルはどこからか取り出したクッキーを頬張りながら呑気に眺めていた。


「あんまりのんびりもしてられないみたいだよ」


「ひゃっ!」


「……!」


 そのとき、突然隣から声をかけられ、フラウは驚いて目を開けた。

 そこには、いつの間にかちゃっかり結界に入っていた少年の姿があった。

 プルは声をかけられるまで気付くことの出来なかった少年に強烈な違和感を感じていた。


「ほら、あれ見てみなよ」


「……な、なんですか、あれは」


「……むう」












「か、影人殿っ! 天井と地面から蔦がっ!」


「……あれは」


 ウッドサーバスたちを次々と倒していたら、突然、すべてのウッドサーバスがピタリと動きを止めた。

 何事かと思っていたら、地面と天井からしゅるしゅると蔦が伸びてきて、それらが交わったところに大きな蔦の塊が出来た。

 そして、それはどんどん大きくなっていき、やがて近くにいたウッドサーバスを取り込んでいった。

 そこからそれはさらに大きくなり、なおも勢いを落とすことなくその体積を増やしていった。


「……おいおい。あれ、どこまで大きくなるんだよ」


 それはあっという間に地面と天井につくほどの大きさとなり、今度は残りの空間を埋めるように横に広がっていった。


「か、影人殿。これはまずいのでは?」


 テツがじりと後ずさる。

 たしかに。

 どうやら質でも量でも敵わないと判断した結果、ドームの中の空間ごと食らうことにしたようだ。


「……ヤバいですね。フラウたちのところに行きましょう」


 おそらく、あの蔦の塊は壁と同じ素材。

 魔法やスキルで簡単に破壊できるものではないだろう。


 俺たちはどんどん近付いてくる蔦の壁から逃げるようにフラウたちのいる壁際まで走ることにした。













「げっ! あれ、どんどんでっかくなってない!?」


 少年が遠くで大きさを増す球体を眺めながら驚いたような顔をする。


「ご、ご主人様は……」


「影人たちはこっちに向かってきてる。いいからフラウは集中して」


「う、うん」


 プルに言われて、フラウは慌てて目を閉じて再び力の集中に注力した。










「プル! フラウ!」


 壁際まで着くと、プルの結界が見えた。

 中にフラウと少年もいる。

 どうやら全員無事なようだ。


「フラウ。どうだ?」


 俺とテツも結界に入れてもらう。

 球体は地面と天井を擦りながらどんどんこちらに近付いてきていた。


「……もう、少しです」


「……そうか」


 力の溜まりが遅い。

 フラウ自身が力をコントロールしきれていないこともあり、その状態で力を吸われたから俺たちよりも力の消耗量が多かったようだ。


 その間も球体はもはや壁となってどんどん迫ってきていた。


「か、影人殿。そろそろ危ないのではっ!」


 テツが焦り始めた。

 たしかに。壁を破って脱出するまでのタイムラグを考えても、そろそろ動き出したいところだが。


「……プル。俺たちが補助として壁に攻撃したら意味あるか?」


「……ん~。意味ないかな。むしろフラウの攻撃の邪魔になる」


「……そうか」


 少しでも援護になればと思ったが、逆効果ならば仕方ない。

 やはりフラウを待つしかないか。


「……もう少し。もう少しなんです」


 フラウも焦っているようだ。

 落ち着いて集中させてやりたいが、俺たちの焦りが伝わってしまう。


「ん~、よしおっけ! もう攻撃していいよ!」


「ん?」


 俺たちがフラウのことを見守っていると、少年が突然、そんなことを言い始めた。

 2本の大きなしっぽがふりふりと揺れている。


「な、なにを言ってるんだ!」


「ま、まだ、あの壁を破れそうなぐらいの力が溜まってないよ」


 テツもプルも少年の言葉がよく分かっていない様子だった。

 俺も、なぜ少年がそう言ったのか計れていない。


「だいじょぶだいじょぶ。ほら、あの辺。あそこを思いっきり斬ってよ」


 少年は壁の一部分を指差すと、明るくそう告げた。


「!」


「プル?」


 すると、プルが何かに気が付いたようだ。


「……フラウ。大丈夫。やっていい」


「プル?」


 フラウが不安そうな顔でプルを見る。

 俺には2人の意図が分からないが、プルが言うのなら大丈夫なのだろう。

 何より、少年もここから脱出しないと森に食われてしまうのだから不用意なことは言わないはずだ。


「……フラウ。やってくれ」


「……わかりました」


 俺が背中を押すと、フラウはこくりと頷いて短剣を構えた。

 光の巫女の力を蓄えた2本の短剣は眩いばかりに輝いていた。


「ほいっ」


 プルが俺たちを包む結界を解く。

 壁はすぐ目の前だ。

 後ろを向くと、もうひとつの壁がもうすぐそこまで迫っていた。


「……いくですっ!」


 フラウは短剣を掲げて大きくジャンプした。

 短剣の光がいっそう輝きを増す。



「てやぁぁぁ~~っ!!」



 そして、フラウの光の剣が蔦のドームの壁を一気に切り裂いた。



「……くっ! やっぱり、まだ……」



 が、やはり力が足りなかったのか、剣は途中で止まってしまった。

 斬れた先に森が見える。

 本当にあともう少しのようだ。


「……くくっ。……え?」


 フラウが懸命に剣を押し込もうとしていると、突然、空いた空間に向こう側から大きな何かがねじ込まれてきた。


「……あれは、指か?」


 あまりにも大きくて分かりにくいが、前に巨人の国で見た巨人の指に似ていた。

 そして、それは壁にできた亀裂を力任せにメリメリと広げていった。


「わっ! わっ! ……てやっ!」


 フラウは突然、開きだした壁に戸惑いながらも、何とか最後まで剣を振り切った。

 そして、それをきっかけに向こう側から突っ込まれた手が壁をおもいっきり押し広げた。


「開いた! 出るぞ! ……っ!」


 俺たちが急いでその空間から出ようとすると、中で大きくなっていた壁が蔦を伸ばしてきた。


「ほいっ!」


 が、プルが結界でそれを防ぐ。


「よし! 出たぞっ! って、うわっ!」


 ようやくドームから出れたが、外には巨大な1つ目の巨人が立っていた。

 どうやら、さっきの指はこいつのだったようだ。


「あ、これは大丈夫だから~」


「……《炸裂する種火(スパークルルクス)》」


 プルは少年を横目に、ドームの中に小さな種火を投げ込んだ。ドームの中に入ったそれはすう~っと静かに中に進んでいった。


「誰か、風」


「まかせて!」


 プルに言われて、少年は大きく息を吸った。


「……! マズい! みんな横に避けろ!」


 俺の合図でみんながドームの陰に隠れる。

 少年も思いっきり息をドームに吹くと、すぐに横に跳んだ。

 少年が吐いたとは思えない大風量の風はドームの中に吹き荒び、中でくすぶっていた種火がそれに触れると、ドームの中は急激に膨張した種火によって大爆発した。


「……くっ!」


「きゃーっ!」


 耳をつんざくような轟音と熱波に目を背け、耳をふさぐ。


「……壁が力を吸収する性質で助かったな」


 しばらくして目を開けると、ドームの亀裂からぶすぶすと煙が出ていた。

 中は真っ黒だろう。

 これはたしかに自分たちがいるときには使えないな。


「……それにしても、」


 俺は1つ目の巨人の足を撫でる少年に目を向ける。


「おまえは、魔物使いだったのか」


 1つ目の巨人、サイクロプスは魔獣や魔物の類いに大別される。

 普通、魔物は人の言うことを聞いたりはしないが、特殊な契約や魔法によってそれらを操る力を持つ者がいても不思議ではない。


「ま、そーゆーこと。ドームで防がれてたから信号を飛ばしにくかったけど、ようやくこいつに繋がったから、外で待機させてたんだ。ちょっとでも亀裂ができればこじ開けられるだろうからね」


 少年はそう言いながらサイクロプスに、肩に乗せてもらっていた。

 年端もいかない少年がどうやって生き延びてきたのかと思っていたが、森に潜む魔物たちの力を借りていたわけだ。

 森自体は自然系の魔物だから少年の能力の範疇じゃなかったってところか。


「さ、ちょっと足止めくらっちゃったけど無事に脱出できたし。さっさと森から出よーよ」


 少年はそう言ってサイクロプスの肩に乗ったまま命令を出す。サイクロプスは指示された方向に向かってズシンズシンと足を動かしていった。


「……やれやれ。とりあえず行くか」


「はいです」


「フラウ。疲れただろ。背負ってやる」


「え、ええ!?」


 俺は少し顔色が悪いフラウの前に背中を向けてしゃがんだ。

 無理に力を引き出して疲れただろう。


「ほら、早く。あいつ止まる気ないぞ」


 容赦なく歩を進めるサイクロプスに追い付くためにプルたちは先に歩き出していた。


「あ、あうう~。じゃ、じゃあ~」


 フラウはようやく俺の肩に手を置き、おずおずと背中に身を預けた。


「よっ、と。よし、いくか」


「お、お願いします~」


「疲れただろうし、寝たかったら寝ててもいいからな」


「……ね、寝れないですぅ~」


「ん? なんか言ったか?」


「な、なんでもないですぅ!」


「? そうか」


 そうして、俺たちは少年に導かれるまま森の出口に向かったのだった。





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