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第二百十一話 変異種の能力

「てやあぁぁぁ~~っ!!」


 フラウがウッドサーバスに斬りかかる。

 ウッドサーバスは動きが遅い。

 前の世界の映画で出てきたゾンビのような感じだ。

 これならば走りながら切り抜けるのはそう難しくないかもしれない。


「あ、あれ?」


「!」


 フラウに斬られたウッドサーバスは腕がぼとりと落ちたが、切り口からしゅるしゅると木の根がうごめくと腕の付け根にくっつき、あっという間に元通りになってしまった。


「わっわっ!」


 そして、再びフラウへと襲いかかってきた。

 フラウはそれを払うが、他のウッドサーバスたちも群がってくる。動きは遅いが数が多い。


「おまけに自己再生付きか。まともに相手してられないな……ほっ!」


 俺は闇の力を纏わせた黒影刀でウッドサーバスの胸から腹にかけてを吹き飛ばした。

 倒れ伏したウッドサーバスは再び断面から根を生やして接合しようとしているが、さっきよりは時間がかかっている。


「……面倒だな」


 俺は闇の力の出力をアップさせると、今度は身体全部を払って消した。

 さすがに跡形もなく消し飛ばせば再生はしないようだ。


「だが、全部にそんなことしてられないな」


 周りを見渡すと、360°全方位を囲うようにウッドサーバスが向かってきていた。

 しかも次から次へと現れ、尽きる様子がない。

 消耗戦で削る気か。


「みんな! まともに相手をするな! 動けなくだけさせて、一点突破で街の入口まで行くぞ!」


「はいです!」


「おっけー!」


「ほーい」


「承知した!」


 俺の言葉に皆が返事を返し、ひとつにまとまって進むことにする。

 俺とフラウが一番前。真ん中にプルで、後ろにテツと少年だ。

 プルには状況に応じて前後のフォローをしてもらう。入口のドームを破壊するために温存する狙いもある。

 少年のことはまだ完全に信用していないからテツの隣においた。

 少年の2本の尻尾による打撃はかなり威力があった。ウッドサーバスが数発で粉々になるぐらいだ。

 テツのスキルはたしか【黒鉄(くろがね)】。自身の身体を鉄の強度にするスキルだ。

 テツならば万が一少年に攻撃されても耐えられるだろうし、プルは常に展開している障壁で防ぐだろう。

 だから、少年を完全に信用しつつあるフラウから遠ざける陣形にした。


「よし、いくぞ!」


 そして、俺たちはウッドサーバスの壁に突っ込んだ。

 まずは俺が吸血鬼(ヴァンパイア)の国で使った、闇の力を飛ばす技でウッドサーバスたちを蹴散らす。

 あの時よりは威力を絞ろうとしたがうまくいかず、かなり遠くまでそれは飛んでいった。まだ慣れていないようだ。

 ウッドサーバスたちはかなり消し飛ばせたが、遠くの奴らは俺たちが到達する頃には復活しているだろう。


 俺たちは足元に転がるウッドサーバスを踏みしめながら進む。

 人の形をしているから多少罪悪感を感じるが今は気にしている場合ではない。

 フラウも少し抵抗があるようだが、しっかり速度を合わせてついてきていた。


「再生中の根には触れるな。からめとられて転倒したら群がってくるぞ」


「はいです……えいっ!」


 フラウは自分の足場になる部分にあった再生中の根を切り裂いて進んでいた。

 後方の連中のフォローも兼ねているんだろう。


「……」


 チラリと後ろを見ると、全員ちゃんとついてきていた。

 それぞれがきちんと対応しながら速度を保っている。

 このペースならいけるな。

 街が一変した時はどうなることかと思ったが、何とかなりそうだ。


「門が見えてきたです!」


「!」


 フラウの声で前方に目を向けると、街に入ってきた時と同じ門が見えた。

 今は門は閉まっていて、そのすぐ先に蔦のドームの端があった。

 どうやら完全に街を囲い込んでいるようだ。


「よし! プル。ドームを壊す魔法の準備をしておいてくれ!」


「ほいほい。いつでもいけるで~」


 声をかけるとプルはすでに杖の先端に魔力を集中させていた。

 詠唱を終わらせ、待機状態にしているようだ。


「よし! ついたぞ!」


「いけ~」


 門に到着すると、プルは間髪を容れず魔法を放った。

 火魔法をアレンジした熱線のような魔法。

 レーザーだろうか。

 森に燃え移らないで、なおかつ木属性の弱点となるような魔法。

 もしかしたら、いま作ったのか?


 ジュッ! と音をたてて熱線がドームの壁にぶつかる。


 このまま、何事もなく脱出させてくれよ。















「ウッドサーバス……そんな生物が」


 魔王城の牢獄でカエデは隣に捕まっているトリアから話を聞いていた。


「生物、というよりは森に寄生された死体ですね。森はそれを操作して新たな獲物を捕らえるようです」


 トリアは古い文献でその存在を把握していた。

 魔族の領域にはまれにそういった変異種が現れるようだ。


「それで、あなたたちは捕らえられたのね。トリアはよく森に殺されなかったわね」


「私はスキルで魔力を体力に変換できたので、他の者よりは養分を吸われるのに時間がかかったのです」


「そうだったのね」


「はい。それで何とかドームの端まで到達して、ドームを破壊して脱出しようとしたのですが……」


「ど、どうしたの?」


「……あのドーム。魔法でもスキルでも破壊できなかったんですよ」













「!」


 熱線はたしかにドームの外壁に当たったが、魔法が消えても壁はそのままそこにあり続けた。


「あ、これダメだ」


 プルがその様子を見て両手を挙げた。お手上げということのようだ。


「どういうことだ?」


「これ、魔力自体を吸収しちゃってる。魔法を構成する魔力を吸われると魔法自体が機能しない」


「……破壊は出来ないってことか?」


「ん~。思いっきり撃てば出来るかもだけど、たぶんドームの中にいる私たちも巻き添えかな」


「……それは困るな」


 俺は試しに闇の力を纏わせた黒影刀で壁を斬りつけてみた。


「……かすり傷か」


 壁には少しだけ傷がついたが、それもすぐに再生してしまった。


「影人殿っ! 天井からウッドサーバスがっ!」


「!」


 テツの言う通り、ドームの上部からウッドサーバスがさらに増員されてきた。


「……これ、今の攻撃で新たに兵隊を作ってる」


「……ちっ」


 こちらの魔法を吸収して自軍を増やすか。

 厄介な能力だ。


「……ご、ご主人様ぁ~」


 この状況、どうやって打開するか……。




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