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第二百十話 異変

『うん、うん、そう。ちゃんと接触できたよ。

 大丈夫。疑われてはいるけど様子見されてる感じだね。

 それよりさ、ちょっと確認してほしいんだけど……。


 ……あ、オッケー。そゆことね。

 うん、うん。わかった。じゃあ、あとは任せといて。

 はーい、じゃあね~』













 ……夢だ。

 これは夢だな。

 前も見た。

 桜の木の夢。


 これはかつての記憶。

 前の夢の時は仮面を被った魔王が立っていたが、かつて、本当にそこに立っていたのは……





 影人!


 ! ……ああ、久しぶりだ。


 ふふ、遅いよ~。


 悪い。親父の稽古が終わらなくて。


 パパさんは相変わらず厳しいね。





 ……そうか。やっぱりそうだったんだな。

 顔も違うし声も成長していたから初めは分からなかったが、やっぱり、おまえがそうだったんだな。

 まさか俺よりも先にこっちに来てたとはな。


 桜……。












「……ん」


 気配を感じ、意識が覚醒する。

 この部屋に走ってくるこの気配はさっきマーキングしたヤツだ。


「……影人殿。気付かれましたか、さすがです」


 テツがこちらに軽く目線だけを送る。

 テツも気付いたようだ。


「……プルを起こしてください。俺はフラウを」


「はい」


 俺とテツは手分けして2人を起こす。

 プルはすでに起きていたようで、テツに呼ばれるとのっそりと体を起こした。


「フラウ。起きろ」


「……ん~? あ、ご主人様、了解です」


 フラウは俺に揺すられると眠そうに目をこすったが、すぐに状況を察して体を伸ばして起き上がった。


「……影人。空間が閉鎖されてる」


「なに?」


 プルがポツリと呟く。

 すでに外套を羽織り、杖を手にしていた。

 このまま休んでいられはしないであろうことをすでに予感しているようだ。


「……分からないな」


 プルに言われて俺も周囲の空間にかかる魔力を感知してみたが、いっさい変化を感じない。


「……これ、魔法じゃない。たぶんスキルですらない」


 プルが天井を見上げながら呟いた。

 魔法でもスキルでもないとしたら、いったい誰がどうやってそんなことを。




「大変大変! 大変だよにーちゃん!!」


「!!」


 その時、街を見てくると外に出ていた少年が部屋に駆け込んできた。

 額に汗を流し、ずいぶん焦っているようだった。

 コレをやったのはこの少年ではないのか?


「この街の正体が分かった! 迷いの森の変異種! 擬態だ!」


「擬態!?」


 どういうことだ?

 街が森の擬態?


「とにかく外に出て! もう本性を現してるよ!」


「あ、おい!」


 そう言って少年は駆け出す。

 俺たちは顔を見合わせたが、今はとりあえず現状を確認しなければならない。

 少年に少し遅れて、俺たちは部屋を飛び出した。


 1階に降りたが、宿屋の主人はいない。他の客も。

 まだ夜中だから当然とも言えるが、これはそういうことではないような気がする。





 バン! と少年が扉を開ける。

 扉の外がやけに暗い。

 俺たちは少年に続いて宿屋から飛び出した。


「……な、なんだこれは」


 街は一変していた。


 真夜中とはいえ月明かりもなく真っ暗。

【暗視】で目を慣らすと巨大な何かに空が覆われているのが分かった。

 家々は朽ち、植物の蔦やら枝やらが絡み付いている。


「……これは、いったい」


「……これ、空を覆ってるのも植物」


「……蔓のドームか」


 プルが上を見上げながら呟く。

 俺も改めてよく空を見上げてみると、それは細長いロープのようなものが複雑に絡まりあっているもののようだった。

 おそらく樹木が蔓を伸ばしてドーム状にしてこの街を囲んでいるのだろう。


「街を探索してたら急に地面から木がたくさん生えてきて、それで街を覆うように空を隠しちゃったんだ!」


 少年が俺たちにその時の状況を説明する。

 この焦り具合。

 どうやら本当に彼も俺たちと同じように巻き込まれてしまったようだ。


「……何か来るです!」


 フラウが遠くから這い寄る気配に気付いて武器を構える。


「……あれは」


 ズルズルと体を引きずるように、無数のソレらは俺たちへと向かってきた。


「……そ、そんな」


 フラウがソレを確認し、愕然とする。

 あれは、宿屋の主人を含む、この街の住人だ。

 入口にいた門番や、街を駆け回っていた子供たちの姿も見える。

 だが、彼らはすでに人のそれではなかった。

 体のあちこちから枝のようなものが生え、腕が完全に樹木化している者もいる。


「……ウッドサーバス」


「プル。なんだそれは」


「寄生型や捕食型の植物に囚われた生物。養分を吸いとられ、すでに自我はなく、生きる屍のように次の食糧の調達に利用される」


「……食虫植物と冬虫夏草を掛け合わせたようなやつか」


 前の世界にも寄生した生物の脳を侵食して行動を操る寄生虫がいたな。


「……と、とりあえず対処しなければ!」


 テツが俺たちを囲うように迫ってくるウッドサーバスに刀を向ける。


「……プル。彼らにはもう意思、いや、命はないんだよな?」


「ん。ああなった時点ですでに死んでる。あれはただ死体を操ってるだけ。

 養分を吸いとる時に記憶なんかも吸いとってウッドサーバスに演じさせて獲物を誘う種もいる、って聞いたことがある」


「そうか……」


 森に迷った者からしたら街は砂漠のオアシス。

 たしかに獲物を誘うにはこれ以上ないほどのエサだな。


 俺は黒影刀を構える。


「フラウ。そういうわけだ。躊躇する必要はない。切り抜けるぞ」


「……はいです」


 異形となって襲ってきたのがさっきまで話していた者。

 フラウが倒すのを躊躇うには十分な理由だ。

 だが、すでに手遅れならフラウも躊躇することなく剣を振るえるだろう。


「……プル。すべて焼き払えないか?」


「……ん~。出来なくはないけど、延焼して森自体が燃えちゃったら私たちが火に巻かれる。空への攻撃はしないで、向かってくるウッドサーバスを各個撃破しながらドームの(きわ)だけをぶっ壊すのがいいかも」


「……よし。それでいこう」


 プルの魔法ですべてを吹き飛ばしてしまえば楽だろうが、たしかにそれで自分たちが燃える森に巻かれたら意味がない。

 この森の規模も、空を覆うドームと外の森との距離も分からない。

 プルの案が妥当なところだ。


「テツさんもそれでいいですか?」


「承知しました」


 テツが刀を構えながら返事だけ返す。


「……おまえは戦えるのか?」


 俺はずっと焦った様子の少年に目をやる。

 怯えたりはしていないようだが、戦闘能力はあるのだろうか。


「大丈夫。自分の身は自分で守るぐらいなら出来る」


 少年はそう言うと、尻の部分から大きな尻尾を2本生やした。

 ふさふさの毛で覆われた、少年の半身ぐらいはありそうな大きな尾だ。


「……半獣人」


「……獣人?」


「獣の形質を色濃く持つ種族。ちなみに魔族側。

 保守的な考えが強くて、ハーフは基本的に迫害されるから集落から出ていく。

 で、尻尾が2本あるツインテールは本来は強い獣人にしか発現しないし崇拝の対象になる。

 それなのに半獣人だったら、たぶん存在を許されない」


「……そうか」


 プルの説明を聞いて少年の方を見ると少しだけ悲しそうな顔をしていた。


「ま、そゆこと。魔族のかあちゃんが僕を逃がしてくれたんだ。かあちゃんは追っ手に見つかって殺されちゃったけどね。それ以来1人でこの森で生きてるってわけ」


「……そうか」


 疑ったりして悪かったな。

 こいつはこいつで精一杯生きてきたわけだ。


「さ、今はそんなことよりこの状況を何とかしなきゃ」


 少年は2本の尻尾をフリフリさせながら構えた。

 たしかに、ウッドサーバスたちは歩みは遅いが、そろそろ俺たちの元にたどり着こうとしていた。


「……よし。切り抜けるぞ」


「うん!」


「はいです!」


「よし!」


「ほーい」


 そして、俺たちは一気に駆け出した。




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